各地で気温が30度を超える暑い日が続く中、旬の食材を使ったカキ氷店が話題となっている。食堂~居酒屋~鍋料理店と転業を繰り返しつつ『カキ氷』に辿りついた店主の思いを探ってみた。

旬の食材で日替わり「カキ氷」

福岡市中央区。「白金エリア」に1年前にオープンした『白金氷屋・でん』。

「白金氷屋・でん」
「白金氷屋・でん」
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夫婦で営むこの店では、旬のカキ氷を提供している。

ふわふわの氷に店主の廣重弘紀さん(59)が盛り付けるのは、今が旬のスイートコーンのソース。隠し味に、粉チーズと塩を少々。アクセントにパプリカパウダーをひと振り。完成したのは、スウィートコーンポタージュのカキ氷だ。

『白金氷屋・でん』で提供されるメニューは、日替わり。

カキ氷の主役となるソースのベースは、「その日、1番美味しい食材。僕は旬と思っているけど、こっちの方が甘いとか、今はこっちの方がいいんじゃないですか?とか、そういうのを頼りながら」と話す廣重さんが、自ら青果店に足を運び、食材を厳選している。

廣重さんが最も重視するのは、鮮度。素材の味わいを最大限に引き出すためだ。「注文を受けて、素材を潰してソースにしています。

普通は、ソースは作り置きしないと、夏場は店が回らない。でも、うちは、風味が1番いい状態でお出ししたいので…」と廣重さんは、今のスタイルを守っている。

この日、初めて来店した客は、「パインも繊維感があって美味しかった!通って、片っ端から食べてみたい」と、廣重さんこだわりの詰まったカキ氷に大満足。

この日は、1人で「3杯目!」というカキ氷好きを自認する客も舌鼓を打っていた。

半身麻痺の料理人「カキ氷」で再起

廣重さんは、40年にわたって様々な店で腕を振るってきた料理人。自分の店を開いたのは2年前だ。

最初は、カキ氷店ではなく『食堂』だった。その後『居酒屋』、『鍋料理店』と形を変え、最終的に辿り着いたのが、『カキ氷店』だった。なぜ、短期間に何度も転業したのか?

廣重さんは、飲食店に勤務していた4年前、脳出血を起こし、右半身に重度の麻痺が残った。

「右足は今も浮いている感じ。安定感はない。右手も肩の高さくらいまでしか上がらない。だから色々と作業には支障がある」と話す廣重さん。

妻の清美さん(51)も「今後、どうしようとか、もう終わったと思った」と当時のことを振り返る。

絶望の中で、心の支えとなったのは、長年温め続けていた“夫婦の夢”。「妻と店をやりたいというのがあって、それを糧にリハビリを頑張った」と話す廣重さん。

清美さんとは、同じ飲食店に勤めていたのがきっかけで出会い、結婚。2人の夢は、『いつか一緒に店を開くこと』。その夢を叶えるため、廣重さんは、発症以降、連日、大半の時間をリハビリに費やし、驚異的な回復を遂げた。

努力の甲斐あって、わずか3カ月で退院。念願の食堂を開くことができたのだ。しかし、定食屋などは、スピード重視で、うまくいかなかったのが実情だった。試行錯誤の末に辿り着いたのが、調理工程がシンプルで、体にも負担が少ないカキ氷の店だったのだ。

「利益はなかなか上がらなくても、お客さんが喜んでくれて、それを直接見ることができて。やって良かったです。やらずに別のことをやってたら、ずっと悔やんでいたと思う。こういう体になってしまって、やれるか、やれないかは未知の世界」と前を見続ける廣重さん。

やれるか、やれないかは、やってみなければわからない。夫婦で可能性を信じて挑戦を続けてきた廣重さん。

そんな廣重さんのこの夏の新作は、アボカドを使ったもの。

アボカドと自家製の練乳を合わせたソースに、ブラックペッパーと、粉チーズをトッピング。

仕上げにトルティーヤチップスを添えた「メキシカンなタコス風のアボガドカキ氷」だ。

妻の清美さんも、「主人だったら一緒にできる。できる限り、やれる限りやりたい」と廣重さんと一緒に店を支える覚悟で後押しする。

爽快さを感じる氷の上に旬の食材を使ったソースをかけて作る夫婦のカキ氷。二人三脚でお客を笑顔にする味への探求が続いている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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