警察官がトイレに拳銃を置き忘れるトラブルが後を絶たない。6月22日には静岡県警の機動捜査隊の男性警部が高速のパーキングエリアのトイレに実弾入りの拳銃を置き忘れ、25分後に回収されるという騒動があった。宮城県でも17日、機動捜査隊の男性巡査長がコンビニのトイレに拳銃を忘れ、店から通報を受けた別の警察官が回収したばかりだ。人の命を奪うことができる拳銃は、法律で厳しく規制され、警察官などを除いて原則、所持することはできない。誰かに持ち去られた時点で、事件となってしまう。識者は、警察官にとって拳銃は「命より大事なもの」と表現する一方で、警察官の装備に構造的な欠陥があると指摘している。

コンビニトイレに置き忘れ
6月17日午後、仙台市内のコンビニのトイレで、利用客が1本のベルトが置いてあるのを見つけた。ベルトには実弾が入った拳銃1丁と警棒1本、手錠1個が付いていた。客から教えられた店員が近くの警察署に通報。別の警察官が駆け付け、ベルトを回収していったという。

宮城県警によると、ベルトを置き忘れたのは機動捜査隊に所属する30代の男性巡査長だ。パトロール中にトイレを利用した際、外したまま置き忘れたという。店が警察に通報したのが、置き忘れから約6分後。通報から約9分後に警察官が回収し、日中に起きた騒動は15分ほどで収束した。だが、コンビニのトイレは子供も使用することが多い。万が一の事故が起きることもあり得ただけに、地元メディアは重大な事案として報道した。
静岡ではPAトイレに忘れる
6月22日には静岡県警でも、同様の事案が起きた。22日午前4時半ごろ、機動捜査隊に所属する40代の男性警部が新東名下りの掛川PAにある個室トイレの棚に実弾入りの拳銃を置き忘れてしまった。宮城県と同様、利用客が発見し、PAの従業員に伝えたおかげで、置き忘れから約25分後、男性警部本人が回収できたという。
全国で相次ぐ“トイレ事案”
実はこうした事案は全国で相次いでいる。2019年6月、大阪市で開催されたG20サミットで伊丹空港の警備にあたっていた島根県警所属の20代男性巡査が、空港に隣接するビルのトイレに拳銃などを置き忘れた。同年9月にも、兵庫県警の20代女性巡査長が駅のトイレに拳銃などを置き忘れる事案が発生した。いずれも発見した人が管理者に伝え、警察に届け出てくれたことで、第三者に使われることなく事なきを得た。

なぜ、警察官は拳銃を置き忘れてしまうのか。神奈川県警の元刑事で、機動捜査隊の隊員でもあった犯罪ジャーナリストの小川泰平さんに話を聞くと、構造的な問題が見えてきた。
元刑事が考える対策とは?
小川さんによると、機動捜査隊の勤務は24時間体制で、2人1組で覆面パトカーに乗り、私服でパトロールをしているため、急を要するときはコンビニのトイレを借りることもあるという。宮城県警は原則として警察施設のトイレを利用するよう指導しているというが、禁止してはいない。警察官も生身の人間。生理現象を止めることはできないからだ。小川さんはだからこそ、装備の見直しが必要ではないかと考えているという。

今回、置き忘れたベルトは帯革(たいかく)と呼ばれるもの。拳銃や警棒を装着し、腰に巻く形で使用する。外さないとズボンを下げることができないため、トイレ内の棚に置くことはあるという。宮城県警などで問題となったのもこの帯革だ。小川さんは、トイレでも外す必要のない肩からかける形のホルスターに変えるべきと考えているという。

小川さん自身もかつての上司に「拳銃は命より大事。自分の命を守るものでもあるが、一般市民の命を守るためのもので、第三者に使われたら警察を辞めるだけでは済まない」と指導されたという。
精神論によらない対策を
全国に約26万人いる警察官の装備を変えることは簡単ではない。だが、将来有望な警察官を“うっかりミス”で失うことがないよう、個人の“心構え”だけに頼らない根本的な対策が必要なことは間違いない。