2022年の豪雨で被災し、周辺の堤防建設に伴って移転を余儀なくされた山形・大江町の敷物、いわゆるラグの製作工房が朝日町に場所を移し営業を再開した。新天地での再出発を契機に、夢だった古民家の民泊も始める。

「にまるらぐ」のラグ
「にまるらぐ」のラグ
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豪雨・堤防建設を経て新天地でリスタート

「光るトラ」と名付けられた縦80センチ・横70センチの玄関マット。
明かりを消すと、光を蓄える糸で作られた右半分のトラの顔が発光し浮かび上がる。

明かりがついている時は「白と黒」のトラの顔(右半分)が、明かりを消すと光る
明かりがついている時は「白と黒」のトラの顔(右半分)が、明かりを消すと光る

製作したのは、朝日町のラグ製作工房「にまるらぐ」。
ラグ職人で工房の代表を務める川村寛克さんと、同じく職人で妻の朋子さんが営む。

中山町でじゅうたん製作会社を営む家庭に生まれた川村さんは、勤めていた食品関係の会社を脱サラし、2022年7月、大江町百目木地区でラグ工房を始めた。

ラグ製作工房「にまるらぐ」の川村さんご夫妻
ラグ製作工房「にまるらぐ」の川村さんご夫妻

ところがオープンからわずか2週間後、8月3日の豪雨で最上川の水があふれ、工房は2メートルの高さまで浸水した。

友人やボランティアの協力を得て同じ場所で再開したものの、今度は周辺に大規模な堤防が建設されることになり、工房は移転せざるを得ず、2024年9月、百目木地区を離れた。

2022年8月、工房オープンの2週間後に最上川がはん濫し浸水した
2022年8月、工房オープンの2週間後に最上川がはん濫し浸水した

そして2025年6月、新天地として見つけた朝日町で営業を再開した。

ラグ製作工房「にまるらぐ」代表・川村寛克さん:
父から産業としてつないできたものを、次の未来・世代につないでいきたいという思いがどうしてもあって、辞めるという選択はなかった。

妻・朋子さんは、「水害後の風景が変わりけっこう『うわー』と思ったが、夫が意外とそういうことを暗いものにしなかったので、私は助けられた」と話す。

水害にあっても「辞める選択はなかった」と力強く語る「にまるらぐ」代表・川村寛克さん
水害にあっても「辞める選択はなかった」と力強く語る「にまるらぐ」代表・川村寛克さん

体験通しラグ作りの価値を高めたい

川村さんが紹介してくれたのは、山形県の形のラグ“ケン・ヤマガタ”というオリジナル商品。
「きょうどの辺から来た?」「この辺から来た」と、お客さんと会話がはずむ遊び心のあるラグで、オーダーで作ることができるそう。

人の横顔の形をしている山形県を人に見立て“ケン・ヤマガタ”というオリジナル商品に
人の横顔の形をしている山形県を人に見立て“ケン・ヤマガタ”というオリジナル商品に

ある日、「にまるらぐ」に天童市の親子がラグ作り体験にやってきた。

この工房のラグは「タフティング」と呼ばれる技法で、特殊な工具を使って糸を縫い込んで作る。

ラグ作り体験では、特殊な工具で布に糸を縫い込む
ラグ作り体験では、特殊な工具で布に糸を縫い込む

川村さんは、体験を通して多くの人にラグ作りの楽しさを伝えるだけなく、その価値を高めたいと考えていて、「じゅうたんってある程度価格帯として高くなる。ラグ作りの体験を通して『職人の技術がわかった』という声があったりすると、良かったなと思う」と話していた。

楽しさを伝えつつ、ラグや職人の技術の価値を高め伝えていきたい
楽しさを伝えつつ、ラグや職人の技術の価値を高め伝えていきたい

体験した親子は、「終わったときに『もう終わりか』と思い、悲しいというか、もっとやりたかったなと思った(笑)」「タフティングのリズムがすごく良いので、夢中になって時間を忘れた。いい時間」と話してくれた。

朋子さんの指導のもと、時間を忘れて楽しくラグ作りに没頭した親子
朋子さんの指導のもと、時間を忘れて楽しくラグ作りに没頭した親子

夢だった民泊をクラファンで実現

次に川村さんが案兄してくれたのは、「民泊」に利用する古民家。
新天地で、夢だったラグ作りと宿泊が融合した、ただ泊まるだけでない“創造する喜び”を体感できる民泊を6月末から始める。

クラウドファンディングで改装費用の支援を募ったところ、全国の102人から計100万円以上が寄せられた。
古民家は102人への感謝を込めて、「山形イチマルニマル」と名付けた。

ラグ作り体験民泊「山形イチマルニマル」
ラグ作り体験民泊「山形イチマルニマル」

宿泊は1組の貸し切りで、客間3つを自由に使ってもらう形で最大10人まで利用可能。

家族や友人などとくつろいでもらい、時間を忘れ、ラグ作りに没頭してもらえればと考えているそう。

忙しい日常を離れ、ものづくりを通じて心をリフレッシュできる特別な時間・空間に
忙しい日常を離れ、ものづくりを通じて心をリフレッシュできる特別な時間・空間に

「後ろに下がるっていう思いはなく、じゅうたん文化ってものを僕なりの形でつないでいきたい」と話す川村さんが、新たな夢へ一歩を踏み出す。

6月30日から始める民泊は、17日の時点で約20人の予約が入っているという。

古民家にはかわいらしいラグがいっぱい
古民家にはかわいらしいラグがいっぱい

古民家「山形イチマルニマル」での特別な体験

1)旅の思い出を形に…世界に一つだけのオリジナルラグを制作
2)地域の暮らしを満喫…古民家ステイで田舎暮らしに浸るひととき
3)自然との触れ合い…眺めの良い庭でBBQや、温泉&棚田めぐりで癒される

古民家で田舎ならではのゆったりした時の流れに身をゆだねてみてほしい
古民家で田舎ならではのゆったりした時の流れに身をゆだねてみてほしい

●ラグ作り体験は1人3000円~(サイズにより金額異なる)予約後、電話などでどのようなものを作りたいか事前打ち合わせ
●宿泊は1人一泊5000円。体験は別途料金。グループの中に1人でも体験者がいれば素泊まりだけでもOK

(さくらんぼテレビ)

さくらんぼテレビ
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