2025年3月、石川県内で最高齢の議員が能登町議会に誕生した。昭和8年4月26日生まれ、91歳の新人議員だ。

91歳の新人議員と無投票当が続く議会
松本光雄さんは政治経験のない新人として、無投票での初当選を果たした。町民からは様々な声が上がる。「正直言って健康不安とかどうなのかなって」「本当にすごいと思う。嬉しかった」「できれば若い人がなってほしかったですけどね」
能登町議会では、松本さんが立候補した補欠選挙のほか、3年前の選挙も無投票だった。議員のなり手不足は能登町だけの問題ではない。全国町村議会議長会の報告書によると、無投票となった町村議会は右肩上がりで増加しており、2023年4月までの4年間に行われた選挙では全体の27.4%が無投票だった。さらに過半数の町村議会が2023年4月までの12年間に少なくとも1度は無投票となっていた。
議員のなり手不足の理由について、ある町議は「一つは収入ですね。21万6600円の手取りで、子ども二人三人を、学童や大学生を抱えて生きていけません。」
別の町議は「私自身も三足もわらじ履いてるから。議員だけでも生活できないし。農業もやってほかの建設業もやってますけど。やっぱり金あっての生活やから」と話した。
専業では厳しい議員報酬の額
能登町議会の議員報酬は月額26万円で、県内の自治体のなかで4番目に低い額だ。2024年総務省が調べたデータによると、全国の都道府県議会議員の平均は月額83万2千円、市議会議員は43万4千円となっている一方、町村議会議員は約22万5千円と低く抑えられている。このため議員専業の割合は都道府県議会議員では半数を上回るのに対し、町村議会議員は約2割となっている。


松本さんも農家の傍ら議員活動を行う兼業議員の一人である。松本さんは約40年前、50歳のときにギンナン作りを始めた。今ではおよそ1000本のイチョウの木を育てていて県内有数のギンナン農家だ。

なり手不足が深刻な地方議会。その原因は報酬だけではないという。能登町議会の金七議長は「報酬とやっぱり魅力やね。議員はこういうことをしてるんだよということももっとアピールしていかないと。議員て何しとるんやろという思いの人が多いんじゃないかな町民は」と話す。
政治への無関心と松本さんの挑戦
町民に「議員が何をしているか知っているか」と尋ねると「知りません」「まぁ誰もやりたくないんじゃない。そんな興味もないし」「自分の家族がってなったときに。はい、がんばってくださいって、なかなか素直には言えないかも」「やっぱり派閥とかもあるって聞いたことありますし、色んなことがあって煩わしいというのは少なからずあるんじゃないかな」といった声が聞かれた。

松本さんは現在92歳。地震で自宅が壊れ、2024年8月から仮設住宅で一人で暮らしている。妻は2年前に亡くなった。「88のとき。今まで女房がおるとき家庭内のことは一切、僕は箸一本動かしたことなかったから。僕はあくまでも外仕事、農場仕事。女房にはうちの中の仕事と分けていたから。うちの中の仕事全然やったことないから」

今は身の回りのことを全て一人で行う松本さん。まわりからは議員になることを反対されたという。「急に立候補を決めたわけよ、勝手に。推薦者も誰もおらんのに」と話し、選挙になっていたらどうしたか聞くと「いや、戦うしかないもん。それはそうや」と力強く答えた。
91歳で議員になった理由
松本さんがあえて議員になることを選んだ理由は、放棄された農地にギンナンなどを栽培し、町の特産品として育てるためだ。「皆さん、ほとんど歳いった人が多い。そういう人たちの力を発揮させる場所を作る」と意気込む。高齢化が進む能登町で高齢者が収入を得られる仕事を作るとともに、荒れ果てた農地が増えないようにするのが目標である。「皆さんにやってほしい。僕はもう歳が歳。僕の生きている間に皆さんに」と思いを語った。松本さんが初めての本会議に出席する日。「何十年てネクタイやらんから、やり方忘れてしまった。慌てるとろくなことない。ダメやね」と苦戦していた。

時間をかけてネクタイと服装を整え、初めて議場に足を踏み入れた。議席番号は1番。新人議員のため席は最前列である。支給されたタブレット端末に悪戦苦闘しているうちに、いよいよ開会となった。この日は町長による説明や委員会のメンバーの選任などが行われ、松本さんの初めての本会議は40分余りで終了した。
議会を終えてどのように感じたか聞くと「場所として神聖な場所やわな。一生懸命に町民のためにがんばることをこれから勉強せんなん。当たり前やけどね」と松本さんは話した。

なり手不足の理由の一つに議員報酬が低いということがあるが、県内では新たな動きもある。かほく市は2025年5月から議員報酬を月額35万5千円から38万円へ引き上げた。また能美市でも市議会で可決されれば月額37万円から45万円に引き上げられる見込みである。
地方議会に詳しい専門家は「住民の皆さんの無関心の最大の要因は、情報が行き渡ってないということ。どんな事業にいくらお金が使われていて、町や村にどんな課題があって、これからどうしようとしているのか。住民の皆さんと一緒に情報共有をしながら勉強の機会を作っていったり、住民の皆さんの議会への考え方とか認知度みたいなものを上げていくという、そういう努力はこれから必要かと思います」と指摘する。
いずれにしても地方議員の活動自体が住民に浸透しなければますます政治への関心が薄れてしまう恐れもあり、関心を高めるための努力も必要である。
(石川テレビ)