コメの価格高騰対策として政府が打ち出した備蓄米の随意契約での売り渡し。6月から県内でも大手小売業者による販売が始まりましたが、県内の農家や米の販売店はどのように受け止めているのでしょうか。
【街録】
「高いの一言ですね。あと数が少ない」
「かなり高いですよね。今まで以上に倍ぐらいになっている感じがしますよね」
低下傾向にはあるものの依然として価格高騰が続くコメ。スーパーなどの商品棚から一時期姿を消し、現在はこれまでの2倍ほどの価格で売られているものもあるなど去年から世間を騒がせています。
なぜ、コメの価格は高止まりしているのでしょうか?
農業の生産や流通などに詳しい専門家は、猛暑による大幅な品質低下で食味用の流通が減ったことと、長年国が行ってきた生産調整の2つが原因だと指摘します。
【佐賀大学農学部 (農業経済学)辻一成教授】
「(生産調整は)コメの価格が暴落しないように重要な政策だが、その調整をあまりにもタイトにやりすぎたことが供給の余裕を減らしてしまって、去年のような事象(猛暑)の影響をもろにかぶってしまった」
政府は5月、コメの高騰対策として大手小売業者を対象とした備蓄米の随意契約での売り渡しに乗り出しました。
【長島記者】
「鳥栖市のドラッグストアです。こちらの店舗ではきょうから備蓄米が販売されています」
6月4日、県内で初めて、いわゆる“小泉米”の販売が開始。
【購入した人】
「安い、違いますね」
「コメが入っていたからラッキーと思って」
消費者からはこれまでの半分ほどの価格の安い備蓄米に喜ぶ声があがる一方で、生産者は政府の対応に不安な思いです。
【コメ農家・園田隆寿さん】
「とにかく消費者のことを考えてのことだと思うけれども、我々からするとちょっと違和感というか」
佐賀市三瀬村の中山間地域で夢しずくなどを生産する園田隆寿さん。店頭価格が上がっても農家はまったく儲かっていないと話します。
【コメ農家 園田隆寿さん】
「今までの米価というのが農家としては非常に安い、採算に合わない価格だったと思う。正常に近いだろうと思うが、それにしても農家の売り渡し価格と消費者が買う価格の差があまりにも大きい」
園田さんの場合、いま店頭に並んでいるものの半分にも満たない価格しか受け取っていないのが現状です。苦労して作っているのに高騰前の売り渡し価格だと赤字…。消費者は“少しでも安く”を求めますが、それでは農家は生活できないと言います。
「このままでは生産者がいなくなってしまうのではないか」との懸念の声もあります。
【コメ農家 園田隆寿さん】
「少しでも農家が残れるような政策をやっぱりやっていただきたい」
農家は、担い手を確保し持続可能な農業にしていくためには、適正な価格への調整を含めた安心して生産できるコメ政策を求めています。一方、まちの米穀店は複雑な思いを抱えています。
【大塚米穀店 大塚乾祐社長】
「備蓄米というかたちではあれ、安いコメが市場に出てきたのはすごくありがたいなと思っている」
みやき町のこちらの米穀店は5月、随意契約での備蓄米購入を政府に申請。これまでは在庫が切れないよう高いコメでも仕入れ、ほぼ利益がない状態で店頭に並べるしかなかったといいます。
【大塚米穀店 大塚乾祐社長】
「求めているお客様にはなるべく早く提供したいという気持ちは当然あるが、やはり備蓄米を管理されているところもメールなどで申請のやりとりをしているなかで、夜中の2時ぐらいに返事が返ってくることもあった。必死に動いていただいているのだろうなと思って」
入荷はありがたいとする一方で、米の販売店として気になるのは消費者の反応です。
【大塚米穀店 大塚乾祐社長】
「古古米だからということではなく、品種的な味の差でおいしくないと思われたり、そういうのが出てくるのではないかという不安はある」
普段販売している佐賀県産のコメと品種が違うため「この店のコメはおいしくない」と思われないかが懸念点。大塚さんは客に納得して買ってもらえるよう、店頭で味見ができるような方法を検討しているということです。
【キャスター】
ここからは取材した長島記者とお伝えします。消費者だけではなく県内でもさまざまな立場の人が悩みや不安を抱えている状況なんですね。
【長島記者】
そうですね。この一連の騒動について専門家は、コメの価格が下がれば解決する問題ではなく、もっと根本的な部分について考えていく必要があると指摘しています。
【佐賀大学農学部 辻一成教授】
「将来にわたって安定的にどうやって確保していくのかを考えるのは、生産者だけの話ではなくて、政策だけの話ではなくて、消費者も含めて国民全体でどういう方向が望ましいのかという意思をあらわしていくことが大事」
【キャスター】
農業政策をめぐっては、小泉農水大臣がコメの出来具合を示す「作況指数」を廃止するとさきほど表明しましたね。
【長島記者】
はい、例えば去年の佐賀県の作況は「99」で平年並みという結果でしたが、生産者からは産地により差があることなど収穫量の調査結果が実態と違うとの声があったとも聞きます。今後は具体的には収穫量調査での「ふるい目」も生産現場で使われることの多い「1.8ミリから1.9ミリ」に変えるなど、より現場の実態に近いものにしていく方針を示しています。これから先も主食であるコメを安定して生産し提供し続けていくためには、どのような農業政策や流通の仕組みを整えるべきか、国民全体で考えていかなければならない問題だと取材を通して強く感じました。
【キャスター】
ここまで長島記者とお伝えしました。