ケアマネージャーの約4割が利用者や家族からカスタマーハラスメントを受けているとの調査結果が明らかになった。現場では孤独や不満がぶつけられやすく、精神的負担が大きい一方、約6割が仕事を続けたいと感じている。
利用者や親族などからカスハラ被害
“介護の司令塔”・ケアマネージャーの現場は昨今、人材不足が叫ばれると共に、新たな問題が浮き彫りとなった。

茨城県内でケアマネージャーとして働く廣川真知子さん。ケアマネージャーとは、利用者にあった介護サービスを提供するために聞き取りや分析を行い、それぞれのケアプランを立てるなどして要介護者やその家族を支援する専門職だ。
介護の司令塔と言われるゆえんは、行政や病院など様々な所と連携を取るためだ。
青井実キャスター:
かなり守備範囲が広いですね。例えば「痛みがあります」と報告があるじゃないですか。そうすると痛みがあると、どなたかに報告するわけですよね?
ケアマネジャー・廣川さん:
この方の場合は普段リハビリに通っている方なので、「痛みがある」ということをリハビリのスタッフにお伝えして、痛みに配慮してもらいます。
月に一度、利用者の自宅へ訪問し、記録を取りながら各所と情報共有してケアに当たっている。こちらの事業所では、廣川さんを含め、2人で90人の利用者を受け持っているそうだ。かなり大変な業務だということが分かる。
そんなケアマネージャーに関するある問題が、現在浮き彫りとなっている。カスタマーハラスメント、いわゆるカスハラだ。

日本介護支援専門員協会の調査によると、過去1年間にカスハラを受けたことが「ある」と答えた人は33.7%で、無回答を除くと約4割に上るという。では、実際にどんなカスハラがあったのか、協会のヒアリングに同席した。
業界歴16年・Nさん(仮名):
10年前の話なんですが、高齢の独居の女性で、ずっとお仕事を続けてきたキャリアウーマンだった方。1人で寂しかったということもあり、私個人への連絡が頻繁にあった。(体の痛みで)あれができなくてつらい、これができなくてつらいって話を1時間くらい延々と伺っていた。結果「あんたなんかに分かるわけない」「若い人には年寄りのつらさなんて分かるわけない」って、ガチャッと(電話を)切られることが割と頻繁に続いた。
このカスハラは利用者からだけではなく、その親族や関係者などからも多いそうだ。

業界歴13年・Jさん(仮名):
ご利用者の息子さんなんですが、とにかく高圧的。体格もいいし、(身長)180cm後半あるぐらい。「介護度を上げろ」「これじゃサービスが足りないだろ」「とりあえず主治医のところ行って(介護度を)上げるように言ってこい」と、とにかく高圧的ですぐ手が出てきそうで、私も恐怖感があって…とりあえず主治医のところに行くフリをして、夕日を見ながら途方に暮れた。
業界歴18年・廣川さん:
おじさまをめい御さんが介護されている状況の方で、1人暮らしのおじさまを24時間在宅で見るのはサービス的に困難で、お話を進めていく中で「紙を持ってくるだけの人には分からないわよね、私の気持ちは」と言われた。紙は毎月お届けする利用票に当たるものですが、それをビリビリッと破り、クシャッと丸めてポイッと捨てられた。紙を広げて伸ばして「今日は帰ります」と置いてきた。次に行くとき、すごくしんどかった。

ケアマネージャーが「カスハラを受けやすいか」という質問には、「受けやすい」「やや受けやすい」と回答した人が合わせて約8割に上った。その理由について、現場の環境が要因の一つだという声も上がった。
日本介護支援専門員協会・山田剛常任理事:
主な相談場所が利用者の自宅だということ。(利用者が)自分たちのテリトリーで、自分たちが優位に立っているようなことを感じやすいのでは。そういう錯覚に陥りやすい。これがダントツで多かった。
仕事の原動力は“利用者の笑顔”
青井キャスター:
竜太郎さん、現場の状況ですとか、周囲の関係性が(カスハラを)生みやすいんじゃないかということでしたけど。

SPキャスター中村竜太郎さん:
親族と病院などを取り次ぐハブ役だからこそ、板挟みだと思うんですよね。場合によっては彼らがそのメンタルをやられるケースというのもありますし、もう少しその負担を減らす方法がないのかと考えたいですね。
青井キャスター:
今回、ケアマネージャーが一体どのように利用者と接していらっしゃるのか、月に一度の自宅訪問に私も同行させていただきました。
ケアマネージャー・廣川さん:
(訪問先は)お友達同士で住んでいて、介護されてた方が急きょ数日前に入院してしまって、ご本人さまお一人でいるので。
イレギュラーなことも多く、この日は80代の男性のもとに急きょ向かうことになった。地域を飛び回る廣川さんは、気持ちの切り替えも大事だという。
青井キャスター:
いつも車に乗っているときは、どんなことを考えているんですか?
ケアマネージャー・廣川さん:
(仕事のことを)つい考えちゃうんですけど、いったん切り離すように歌を歌っています。
青井キャスター:
何系の歌なんですか?J-POPですか?
ケアマネージャー・廣川さん:
J-POPも演歌も。
青井キャスター:
次の方のところに行くときにはパッとリセットして。それぐらい向き合うお仕事なんですね。
車を走らせること10分、訪問先に到着した。

いつもは同居人がケアを行っているが、この日は看護師が医師と連絡を取りながら薬を投与した。こういった看護師の手配調整もケアマネージャーの仕事だ。
ケアマネージャー・廣川さん:
この笑顔がないときは調子が悪いのかなって、ちょっと心配になります。
青井キャスター:
今日は大丈夫ですか?
ケアマネージャー・廣川さん:
今日は元気そう。
青井キャスター:
体力的にも精神的にも少しつらい時もあるかもしれませんが、それでも頑張って続けてこられる理由ってどこにあると思います?
ケアマネージャー・廣川さん:
会話をしてたりすると元気をいただけるので、うまくいかないこともあるし、うまくいくこともあるし、いろんなことがあるんですけど、全部ひっくるめても良かったと思うところが大きいかな。
廣川さんの仕事の原動力は、利用者の笑顔だという。

実際に協会の調査では、約6割の人が「利用者に必要とされている」から「仕事を続けたい」と回答している。
日本介護支援専門員協会・七種秀樹副会長:
本当にやりがいのある仕事ですし、本当に多くの方から感謝いただいてますので、感謝の心いただくだけでも我々はやりがいを見出だせるかなと感じてます。
青井キャスター:
今回取材して介護現場で働く人たちの大変さを見て、本当にありがとうございますという言葉しかありませんでした。取材させていただいたヒアリングの際、あるケアマネージャーさんは、これは利用者かその家族の要望なのか、それともハラスメントなのか分からなくなるとおっしゃっていました。
介護現場でのハラスメントの問題の本質、そして難しさは、利用者側が相手の善意と優しさに甘えたままでは解決しないのではないだろうか。
(「イット!」6月6日放送より)