全国的に賃上げの動きが加速している中その影響を受けている「指定管理者制度」についてお伝えします。

増子智恵美記者:
この制度は岩手県や市町村から委託を受けた企業や団体が「指定管理者」として公の施設を管理するもので、民間のノウハウを活用し効率化などを図ることが目的とされています。

県内では約1700の施設が指定管理者によって運営されています。

盛岡市内にある県の施設では県立図書館などが入る「アイーナ」や「トーサイクラシックホール岩手」「県公会堂」などがそれにあたります。

また「盛岡市動物公園ZOOMO」は盛岡市が民間企業に委託する施設です。

こうした様々な施設を管理している「指定管理者」ですが、現在(2025年6月時点)社会情勢の変化によって厳しい運営を強いられている施設があります。

ーー公の施設の運営ということで社会情勢に合わせた手当てがありそうなイメージがありますが、そうではないということでしょうか。

増子智恵美記者:
はい。特に急激ともいえる人件費の上昇で運営が圧迫されています。現状を取材しました。

NPO法人いわてアートサポートセンター 坂田裕一理事長
「ここ数年のコロナ禍からの物価上昇、国の方針による最低賃金の上昇は指定管理者の想定をはるかに超えている」

こう語るのはNPO法人いわてアートサポートセンターの坂田裕一理事長です。

この団体は盛岡市の委託を受け、2014年度から「もりおか町家物語館」、2024年度から「もりおか啄木・賢治青春館」を指定管理で運営しています。

指定された期間中は年ごとの指定管理料が大きく変わらないため、人件費の上昇に対応することが難しく、2023年度から役員報酬を減額せざるを得なくなりました。

NPO法人いわてアートサポートセンター 坂田裕一理事長
「対応できない(賃金の)上昇分があると指定管理者自らが身銭を切ることになる。十分で安定的な財源確保を獲得しなければ、そういうことをせざるを得ない」

一方、こちらは矢巾町にある県立総合防災センターです。
県消防協会が県の委託を受けて運営している入館無料の防災学習施設で、60代の職員4人が業務を担っています。

こちらの施設でも県から支給された限られた財源の中で、民間企業のように賃上げを進めるのは難しいと考えていました。

県立総合防災センター 佐藤恒彦センター長
「ここは5年単位の指定管理施設だが、最初の年に契約を結んで指定管理料の上限額が決められる。その運用経費の中で(賃上げを)実施する形になっているが、なかなか予算は増えるものではない」

社会情勢が変化し続けるなか、県では2025年度新たな制度を導入しました。
民間の賃金水準の変動に応じて指定管理料を見直す「賃金スライド制度」です。

県管財課 岩間吉広総括課長
「指定管理者が安定的に公務の担い手として運営していくためには、制度的に何かを担保する仕組みが必要だと考えた」

県はこれまで光熱費などの上昇分については補正予算を組むなどして指定管理料に上乗せしていましたが、人件費の上昇分は考慮していませんでいた。

しかし県内の最低賃金は年々上昇傾向にあり、2024年の10月には前の年を59円上回る952円に定められました。

「人件費がかさんで苦しい」との声が多く寄せられたことから、東北6県で初めて制度の導入に踏み切ったということです。

この制度では最低賃金に加え、毎年秋ごろに公表される県の人事委員会勧告を踏まえて、指定管理を請け負う2年目以降、人件費の上昇分が指定管理料に上乗せされます。

県立総合防災センターも賃金スライド制度の対象となり、2025年度は約50万円が人件費上昇分として支給されることになりました。

県立総合防災センター 佐藤恒彦センター長
「『賃金上昇分はこのくらい』と、きちんと示してくれた。それにのっとり給料のベースアップを合わせたので大変助かっている」

県管財課では今回の制度導入を機に、賃上げの動きが広がることを期待しています。

県管財課 岩間吉広総括課長
「指定管理の現場で働く人たちは800人くらいいる。そうした人たちの賃上げが一定程度進む効果はある」

賃金スライド制度は2025年度はアイーナなど32の施設が利用するということです。

一方で盛岡市など県内の各市町村にはこうした制度がありません。

盛岡市の施設を運営するいわてアートサポートセンターの坂田理事長はこう訴えます。

NPO法人いわてアートサポートセンター 坂田裕一理事長
「岩手県のいろんな自治体も県に合わせて賃金スライド制度を導入してほしい」

ーー県が新たな制度を設けた一方、同様の制度は盛岡市など各市町村にはないのが現状?

増子智恵美記者:
ただ盛岡市でも対策を取っていないわけではありません。2024年度からはエネルギー価格の高騰や最低賃金の上昇を踏まえ、人件費を含む運営費全体の2%から4%ほどを指定管理料に上乗せするなどしています。

ただそれでも苦しいという声があるわけで、市では今後、効果を検証していくとしています。

安定した運営で市民サービスの向上を図っていくためにも各自治体には柔軟な対応が求められると思います。

岩手めんこいテレビ
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