大郷町議会6月定例会への関連議案の提出は見送られましたが、町は現在もスポーツパーク構想の実現を目指しています。構想から3年、紛糾している議論の背景と構想が目指す町の未来を考えます。
宮城県大郷町の認定こども園で開かれたフラダンス教室。参加したのは子育て中の母親たち。住民も交じってリフレッシュ。ただ、大郷町の少子化は深刻です。
参加した母親
「子供も少ないので、将来どうなっていくのか不安なんですけど、できるだけ若い人が来てくれたらいいなと思います」
人口約7500人の町で去年生まれた子供は20人。これに対し、65歳以上の高齢者が人口の4割を占め、町は民間の有識者グループが発表した「消滅可能性自治体」の一つとされました。人口が減り続ける地域からの脱却へ。3年前、町が未来をかけたのが「スポーツ×農業のまちづくり」。「おおさとスマートスポーツパーク」構想です。
6年前の東日本台風で被災した粕川地区の農地を買い上げ、55ヘクタールの土地に、サッカーグラウンド12面や1000人が利用できる宿泊施設を作るというもの。全国でスポーツを通じた地域活性化事業を進める、京都市の会社「スポーツX」が運営を担い、ITを活用した農園の整備や人材確保も計画されています。年間の利用者は70万人を見込み、町は人口減少対策や経済効果に大きな期待を寄せていました。
大郷町 田中学町長
「農業だけでは飯食えないから、なんとかしなくちゃいけない。農業だけでは飯食えないけど、農地は大郷町を救うことができるよ。それが今計画しているこの事業なんですよ」
しかし…
大郷町議会 熱海文義議員
「もっと時間をかけて(総事業費が)いくらかかるのかをきちんと出してもらいたい」
大郷町議会 金須新一議員
「消滅可能性自治体からの脱却という目標を掲げ、スタートすべきと判断します」
町議会の意見は真っ二つ。町の財政負担や運営会社の経営状況を不安視する反対意見に押され、予算案はわずかな差で2度、否決されました。すると、賛成派の住民が議会の解散を求めて署名を提出。住民投票の実施が決まり、期日前投票が始まりました。ところが、事態はさらに動きます。署名に死亡した人の名前など無効なものがあったとして、反対派の議員が提訴。仙台地裁が判決までの間、投票を一時停止する決定を出し、住民投票は一旦取りやめに。議論の場は議会へ戻り、着地点は再び見えなくなりました。
しかし、まちづくりの専門家はこの状況を地方自治の「お手本」と話し、今後の議論に期待します。
石巻専修大学 矢邊均教授
「自治体が小さければ小さいほど、町長の言いなりになり、結論が出てしまい、見切り発車する。町でそれだけの議論が起こっているということは、あくまで民主的な話し合いと捉えれば、こんな健全なことはないと思います」
その上で、少子高齢化と人口減少を克服するには「工夫」が重要と指摘。今回は被災農地の活用がそれにあたるといいます。
石巻専修大学 矢邊均教授
「売る側にしてみれば、自分たちとしてはもう後継者もいない。農業もやっていけない。土地も寝かしていたら固定資産税を取られるだけ。であれば基本的に処分してしまった方が自分たちとしてはこれから先、楽だとなる」
農地法では、農地を農業以外の目的に転用することが規制されています。一方で、近年は後継者不足などで放棄される農地の増加が問題となっていました。そこで8年前に施行されたのが、一定の経済効果をもたらす場合に農地の転用を認める「地域未来投資促進法」です。今回のスポーツパーク構想もこの制度を利用していますが、県内にはすでに農地へ工場を誘致した町があります。
涌谷町 大崎俊一副町長
「この辺からずっと向こうまで、田んぼだった」
涌谷町尾切地区。約6.5ヘクタールの農地を食品会社「ウェルファムフーズ」の食肉加工施設に転用しました。ブランド化した鶏肉「森林どり」などを生産する会社です。転用をめぐっては、農地を残したい大規模農家と売りたい兼業農家の意見がなかなか一致せず、計画がまとまるまで2年ほどかかったといいます。
涌谷町 大崎俊一副町長
「農地を守りながら共存していくことが大切。ここに工場があることで、農家の方、特に兼業の方も働けるというメリットも出てきますので、てんびんにかけて、工場の誘致を進めた」
操業は始まったばかりですが、すでに関連会社を合わせて約100人の新規雇用があったといいます。
涌谷町 大崎俊一副町長
「税収だったり働く場所があったりとか、希望が持てるし、何より働く場所を確保できたということで、人口減少に歯止めをかけていくことができるかなという希望にもなると思っています」
大郷町 田中学町長
「次の世代に、我々はこの事業を贈り物にしなければならない」
今回、議会への提出が見送られたスマートスポーツパークの関連議案。大郷町の未来をかけた議論の「最適解」はどこにあるのか、結論はいまだ見えてきません。