今年度で建て替えとなる仙台市内の小学校をVR=バーチャルリアリティーで残そうという取り組みが進んでいます。その根底には母校への思いと、東日本大震災の記憶がありました。

仙台市立八幡小学校。創立は1927年と100年近い歴史があります。校舎は増築や補強を繰り返しながら使ってきましたが、老朽化のため取り壊し、建て替えが決まっています。

山信商事 山田翔代表取締役
「あの学校なくなっちゃうんだ、あの景色なくなっちゃうんだと思うと、残念に思えて。弊社で使っている技術で今のままを保存できたらと思って」

仙台市内で不動産業を営む山田翔さん。祖父の代から現在5年生の息子まで、4代にわたって八幡小学校で学んでいます。自身も通い、思い出の詰まった校舎を何かの形で残せないかと、学校にある提案をしました。

山信商事 山田翔代表取締役
「専用のカメラを使って撮影するようになっています。こちらで撮影すると、360度、画像も4Kの画像で記録することができます」

不動産の物件をオンラインで内見してもらうために使っているカメラ。これを使って、取り壊される前の校舎を撮影し、VR=バーチャルリアリティーで残そうというアイデアです。1カ所につき数秒で撮影でき、位置情報も記録されるので、手軽な作業で撮影が可能。数メートルおきに撮影を繰り返すだけで、3Dデータが作成できます。去年から撮影を始め、既に一部はVRで見ることができます。

記者リポート
「VRで体育館の様子を見ている。すごくリアル。子供たちが描いたイラストから掲示されている校歌まではっきりと見ることができる。本当にその場にいるかのような体験がVRだとできる」

今、VRで見ることができるのは正門付近、校庭、プール、そして体育館。体育館は、子供たちが描いたメッセージや天井の染みまで、鮮明に映っています。写真はネット上に公開していて、市販のVRゴーグルを使えば立体的に、ゴーグルを使わなくてもパノラマ写真として見ることもできます。

山信商事 山田翔代表取締役
「お母さま方、お父さま方も八幡小学校卒業の方が多いので、『これ懐かしい』とか。かなり鮮明に残っているので、『思い出すことができた。ありがとう』という声を多く頂戴しています」

体育館とプール、正門は既に取り壊され、その姿はありません。八幡小学校の高橋興校長も、なくなっていく校舎に思いをはせています。

八幡小学校 高橋興校長
「なくなってしまうとやはり思い出せない。もう何カ月かしか経っていないんですけれど、思い出せなくなって。(画像の)データをこの間も見たんですけれど、なくなる直前の状況が手に取るようにわかりますので、記憶にもまた新しく残って」

この日、高橋校長は初めてVRで校舎を見ました。

八幡小学校 高橋興校長
「いやあ、懐かしいな。50年使った体育館の最後の年だったので。中にいる感じでしたね。ああここでしゃべっていたんだなぁと」

山信商事 山田翔代表取締役
「なかなかステージから下を見る感覚って子供たちはないと思うので、それもここから体感できますよね」

高橋校長は、卒業生それぞれの記憶の中の八幡小を残せるとも話します。

八幡小学校 高橋興校長
「それぞれが学んだ時のイメージが残っていると思う校舎なので、卒業生の皆さんが過ごした時、柱の染みだったり汚れだったり、思い出に残る絵だったり、そういうものをそれぞれの時間の中で思い出せる貴重なデータとして残していければいいなと思っています」

山田さんがこの取り組みを提案したのにはもう一つ理由がありました。

山信商事 山田翔代表取締役
「実は私、3.11のときに被災をしまして」

14年前の東日本大震災発生時、山田さんは当時勤めていた多賀城市内の工場にいました。

山信商事 山田翔代表取締役
「3日間工場に閉じ込められたんですけど、そこから出たときに、3日前とまったく景色が変わっていたんですね。(震災前に)あった建物がほとんどなくなっていて、その状況が鮮明に私の記憶の中に残っていまして」

数日前まで当たり前だった景色が突然失われる。山田さんは、震災を経験して景色を記録に残すことの大切さを痛感しました。

山信商事 山田翔代表取締役
「いい時の状況を保存しておけば、復旧の時にも役立つし、そこを思い出す人、家を実際に津波で流されて失った方もいらっしゃると思うんですけれど、せめてもの思い出として、ただの写真ではなく体感できるアーカイブとして残せたらなという思いが強くあったので」

失われる景色を丸ごと保存してバーチャルリアリティーで再現する取り組み。卒業生や在校生それぞれの記憶と思い出が立体的によみがえりそうです。

仙台放送
仙台放送

宮城の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。