非常戒厳から現役大統領の逮捕、そして罷免に伴う今回の韓国次期大統領選挙。
投票が直前に迫る中 保守地盤で今何が起きているのか?現地を緊急取材した。
「風を感じない」今回の選挙
「朴槿恵の時は風がすごかった。尹錫悦も風はあった。だが今回は感じられない」
韓国保守地盤の慶尚南道で、与党「国民の力」の選対を務める地方議員の言葉だ。

非常戒厳を出した尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の弾劾・罷免に伴う選挙が直前に迫る中、ランチの最中に話を聴く機会を得た。茹で上がったばかりの豚肉のスユクをハサミで切ってもてなしてくれた。
話している間もひっきりなしに電話がかかってくる。テコ入れのため、党の幹部が遊説や集会に来るとかで、調整で慌ただしい様子だった。

ポスターだけでなく、資金力がものを言う横断幕やビルのラッピング
慶尚南道の昌原市は、朴槿恵(パク・クネ)元大統領の父・朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が韓国初の計画都市として開発した。道庁の所在地でもある。また、輸出が右肩上がりの防衛産業の工場も抱える保守の牙城だ。山に囲まれた地形で、北朝鮮から砲撃が難しい場所を選んだとの話もある。
大統領選直前とあって、候補者のポスターが町中に並ぶ。日本と少し違うのは、ポスター以外にも主要幹線道路には横断幕が張られている。こちらは各候補が自前で人通りの多いところを選んで掲示しているとのこと。資金力がものを言うということか。

昌原市庁前の大きな広場に面したビルの窓には、国民の力の金文洙(キム・ムンス)候補の大きなラッピングポスターが張られていた。街頭では、金候補への投票を呼び掛ける運動員が盛んに車に向かって手を振っていた。日本と異なり、運動員にアルバイト代を払うのは当たり前とのこと。
一方、最有力候補の共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)候補のポスターは飲食店の入り口に張られているだけで、ここが保守地盤であることを感じさせた。

「今回は国民の力に入れたくない」
ところが、尹前大統領が非常戒厳を出して逮捕・罷免され、それに伴う選挙だからか、「今回は国民の力に入れたくない」という声が保守の牙城でも聞かれた。
選対メンバーの地方議員ですら、「多数野党の共に民主党が、政府の役職者への弾劾を乱発していたので、非常戒厳に追い込まれたかもしれないが、まずは『戒厳をするぞ』と言葉で警告をすべきだった。」と語っていた。また、この議員の分析では、「共に民主党の鉄板支持層は国民の40%、国民の力の鉄板支持層は25%」で、残る中間層が結果を左右する。
「李在明は進歩だけ」
進歩的な民主党から出た盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領、文在寅(ムン・ジェイン)元大統領は慶尚南道出身だ。
また、共に民主党から立候補している李在明候補は、同じく保守地盤の慶尚北道出身だ。
「文在寅は、進歩だけじゃなく、民主化運動があった。李在明は進歩だけ。」
と地方議員の評価は厳しいが、負ける可能性が高いとみているのか、「世論調査はあてにならないが、国民は一度、この結果で国がどうなるか知ったほうが良いかも知れない」とも語っていた。

韓国では電車の中で、販売員が大きな声をあげることがある。乗客の注意を引いて商品を買ってもらおうというわけだ。帰国途中に空港に向かう電車の中では、老眼鏡と爪切り売りの男性が声をあげていた。この日は、珍しく赤い帽子を被った老女が声をあげた。
「くずのような市民の皆さん。共産主義者に投票するつもりか?」
帽子の赤は保守派の「国民の力」支持を表す色だ。ここに来て世論調査で上位2候補の差が縮まったとの報道もある。保守か進歩かの結論は6月3日に明らかになる。
(フジテレビ 森安豊一)