宮崎市の中心市街地で、グラス片手に市町村の魅力と課題を語りつくす「&BAR26」が開催された。会場には山間の町、美郷町(みさとちょう)の特産品や復活したばかりのレアな日本酒が持ち込まれ、宮崎大学の学生や一般客などが参加。美郷町の人たちと交流を深めながら、地域課題について意見交換をした。

イベント会場は「&Labo by UMK」

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イベントが行われたのは4月25日。宮崎市高千穂通にオープンしたばかりのコミュニケーションスペース「&Labo by UMK」が会場となった。UMKテレビ宮崎が主催し、イベントの模様は5台のカメラを駆使してライブ配信された。

司会進行は「あけみママ」。チラシでは、「どこかのテレビ局のベテランアナウンサーによく似ている」と紹介されているが、果たしてその正体は…?「あけみママ」はスナック風のカウンターに立ち、メインゲスト2人と一緒に軽快なトークで盛り上げながら、美郷町について真剣に語る場を提供した。

美郷町役場 × 宮崎大学

 メインゲストは、美郷町政策推進室総合戦略担当で、地域おこし協力隊としても活動している長尾拓さんと、宮崎大学地域資源創生学部の土屋有准教授。グラスを片手にリラックスした雰囲気で会が進行していく。

美郷町ってどんな町?

 まず、宮崎県美郷町とはどんな町なのか?という基本情報の紹介から。県内在住でも、訪れたことがない人、知らない人も多いのではないか。長尾さんによると「世界の真ん中!」という事だが、場所は日向市の西。人口4200人。2006年に旧南郷村、旧西郷村、旧北郷村、3つの村が合併して誕生した町で、高齢化率は53.1%と、2023年10月現在、県内で最も高い。人口減少、少子高齢化、生産年齢人口の減少が顕著だという。

美郷町の産業は?

産業別の就労者数を見ると、農業が圧倒的に多く、医療福祉、林業、建設業の順に多い。82.2%の人が町内で就労していて、17.3%は美郷町以外の宮崎県内で就労している。

美郷町が誇るものとして、まずは「宇納間備長炭」がある。日本三大備長炭のひとつとして全国的に有名で、海外からも引き合いがあるという。農産物では、きんかん、栗、お米、梅を作っている人が多い。

こうした「里の恵み」を活かした商品も開発されている。栗については、「栗きんとん」「栗おはぎ」「モンブラン」「マロンパイ」などバラエティ豊かな品揃え。このほかにも「きんかんのお菓子」や「朝色紅茶」も自慢の品だという。

特産品を巡って、美郷町では近年、新しい動きがある。上質の栗きんとんを「穂垂(ほたる)」として発売した。「美郷の自然が育む、光る味わい」をキャッチフレーズにしていて、美郷町の栗の甘さと香りが一粒に凝縮されている。美郷町の自然の光景を思い出させ、口の中で広がる栗の風味が蛍の光のように輝く、という意味が込められている。

また、約60年ぶりに復活させた日本酒「いすゞ美人」も話題だ。もともと美郷町北郷地区の酒蔵で作られていたが、蔵が途絶えてしまっていた。この「いすゞ美人」を復活させようという動きがあり、解体されず残っていた酒蔵から酵母を採取するところから始めたという。米も、当時使われていた「瑞豊(ずいほう)」という品種を育てて作った。生産・収穫して再び植え付けてと、2年の月日を費やしたという。

 

このため多くを生産することはできず、初回生産は1500本のみ。既に完売となっているが、この日は「&Bar26美郷町篇」のために、職員が持っていた貴重な1本が提供された。土屋准教授は「レアな物だし、なによりも物語がある。」と興奮気味。専門的には「死蔵資源=(死んでしまっている資源)」と言われるもので、どの地域にもたくさんあるものの、実際に再定義して作るのは、地域の力がないとできないとのことだ。土屋准教授は、今回の美郷町の取り組みを高く評価した。

ちなみにお味は、香りが甘い感じ。最近の日本酒はフルーティな味わいが多いが、どちらかというとお米を感じるとのこと。

 続いて、美郷町の梅を使った南高梅梅酒も提供された。色を見ると、本当に綺麗な琥珀色をしている。香りがすごく芳醇。そしてキリっとして甘い。美郷町は寒暖差が大きいのが特徴で、色々なものが美味しくできるとのこと。特産品についても、まだまだ作っていきたいという意欲があるそうだ。

祭りや伝統も多く残る美郷町

美郷町は、古くから行われてきた祭りや伝統行事を現在でも続けている事でも知られる。

旧南郷村の「師走祭り」は、朝鮮半島の古代国家・百済の王族伝説に由来するもの。1000年以上にわたり連綿と受け継がれていて、百済王族である禎嘉王(ていかおう)とその息子の福智王(ふくちおう)が年に一度対面する儀式として行われている。

旧北郷村の「宇納間地蔵尊」は、約200年前に江戸の大火を鎮火させたという故事にならい「火伏せ地蔵」として祀られているもので、旧暦1月24日を中日とする3日間に開催される「宇納間地蔵尊大祭」には、大勢の参拝客が訪れる。

旧西郷村の「御田祭」は、五穀豊穣などを祈願する神事で、約1000年の歴史があるとされる。見どころは、2頭の馬が鞍をつけずに人を乗せて水田を駆け回る「牛馬入れ」で、しぶきを浴びると無病息災のご利益があると言われている。

課題は「発信力が弱い事」

土屋准教授は、「寒暖差が激しいというのは、一見、生活がしにくいのではないかと見られる側面があるが、だからこそ生まれるものがある。四季折々の顔があり、観光地としても魅力がある」と話す。

しかし、これだけ魅力ある資源を持つ美郷町だが、その魅力の発信力は、もう一歩なのだという。そこには何らかの理由があるのだろうか?一つの要因として長尾氏は、市町村合併の形を挙げた。2006年の合併は、旧南郷村、旧西郷村、旧北郷村の「対等合併」であり、「吸収合併」ではなかった。それ故に、「旧3村を平等に取り上げなければいけない」という力が働いているという。加えて、人手が不足しているので、事業そのものをまわすのに精いっぱいで、なかなか発信までできていない。これは美郷町だけでなく、全国的な問題かもしれない。

土屋准教授は、美郷町のパワーについて、現状維持だけではなく、新しいものを見つけて作るという点を高く評価した。人手不足は全国同じだが、新しいものを作り出す力がある地域は、実はそんなに多くないのだという。

大学生からも活発な意見が

今回のイベントには、宮崎大学地域資源創生学部の学生も多く参加し、美郷町のこれからに向けて様々な質問や意見が出された。

Q)今後挑戦したい事は?

A)世界に誇れる街にしたい

Q)美郷町に「これが欲しい」という物は?

A)みんなが集まる事ができる場所が欲しい。世代を超えて集まり、外から来た人と出会える場所があるといい。

Q)観光に来た人にVlogを作ってもらうと良いのでは

A)美郷町にはドローン映えする風景がたくさんある。ぜひ、やってみて欲しい。

Q)「くりきんとんフェス」や「なばフェス」をやって欲しい

A)いいですね!くりきんとん好きが毎年美郷町に集まるようになると、経済効果も大きい。

魅力は語り尽くせず…

今回は約90分間にわたって美郷町の魅力や課題、この先のチャレンジまで、多くの視点から議論が交わされた。これから目指す美郷町の姿については「美郷町に住んで良かった」「美郷町っていいところだよね」と言われるような町にしていきたい、と、締めくくられた。

「&BAR26」では、今後も宮崎県内26市町村との連携を強め、地域の魅力発信と再発見、そして発展に繋げる取り組みを続けていく。次はどこの市町村について、グラス片手にとことん語られるのだろうか?「&Labo」を活用したい市町村の方は、テレビ宮崎または「&Labo」のインスタグラムまで。

(テレビ宮崎)

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