トランプ政権の発足から100日以上が経過した。
周知の通り、トランプ政権にとって最大の外交課題は対中国であり、特に経済や貿易の領域における“対中戦争”が核心となる。
トランプ政権の発足以前から、同大統領がバイデン前政権のように対中強硬姿勢に徹することは予測されてきたが、発足から今日までの対中関税政策からその姿勢が明確に示されている。

これまでの互いの関税発動の応酬を通じて、米中双方の戦略的意識や政治的意図が浮き彫りになっている。ここでは、関税政策の推移を整理しつつ、米中の行動からその背景と狙いを分析する。
報復関税の連鎖がエスカレート
まず、これまでの経緯を簡単に振り返る。
トランプ政権は2025年2月、中国からの全輸入品に10%の追加関税を発動。これに対し、中国は対抗措置として原油や液化天然ガス(LNG)などエネルギー関連品目に10~15%の追加関税を導入した。

3月にはトランプ政権が関税を20%に引き上げ、中国はとうもろこし、大豆、牛肉など米国産農産物に10~15%の追加関税で応じた。
さらに4月、トランプ政権は中国からの全輸入品に84%の関税を課し、中国も同等の報復関税で対抗したが、その直後、トランプ政権は関税を145%に引き上げ、中国も125%の関税で応じるなど、報復の連鎖がエスカレートした。

この急激な関税引き上げは、両国間の緊張が貿易を超え、技術覇権争いや地政学にも波及していることを示唆する。例えば、半導体やAI関連技術の輸出規制が並行して強化され、貿易摩擦がハイテク分野での覇権争いと連動している。
一貫した対中強硬姿勢のトランプ戦略
トランプ政権の対中姿勢は一貫して強硬だ。初めから一律関税を課し、先制的に攻撃を仕掛けることで、中国の報復を恐れず、中国に対する経済的・政治的優位性を確保する意志が明確に読み取れる。
この姿勢は、トランプ大統領の選挙公約である「アメリカ第一主義」を体現するものだ。例えば、鉄鋼や自動車部品など国内産業保護を優先し、米国内の製造業雇用を守る狙いが背景にある。

さらに、関税政策は中国への圧力だけでなく、国内の支持層に向けたメッセージとしても機能している。譲歩や交渉の余地をほとんど見せない姿勢からは、中国の対応を見極めるよりも、圧倒的な力で主導権を握る戦略が伺える。
「スマートな中国」と「強い中国」の二面性
一方、中国の対応には戦略的な計算が見える。中国は最初の2回、特定品目(エネルギーや農産物)に限定した関税で対応し、トランプ政権の出方をひとまずは観察しようとする慎重な姿勢を示した。
この背景には、トランプ政権の保護主義を自由貿易の脅威と位置付け、それを内外に強くアピールすることで自身の正当性を印象づけ、欧州や日本、グローバルサウスとの経済関係を強化したい狙いが見え隠れする。要は、”スマートな中国”を示そうとしているのだ。

また、”強い中国”も示そうとしている。例えば、国内世論を意識し、米国に負けない強い指導者像を国民に示すことも重要となる。
4月の中国への一律84%の関税発動により、中国が一律関税に切り替えた背景には、トランプ政権の強硬姿勢が揺るがないと判断し、国内向けに強い中国をアピールする必要性が高まったことがある。この二面性は、中国が国際舞台での影響力を維持しつつ、国内のナショナリズムに応える必要性を反映している。
グローバル経済を左右する米中の次の動き
さらに、中国の対応は、米国の関税がもたらす経済的影響への対処にも及ぶ。例えば、農産物関税は米国の農家に打撃を与える一方、中国はブラジルやアルゼンチンからの大豆輸入を増やし、供給網の多元化を進めている。
同様に、エネルギー分野ではロシアや中東からの輸入を強化し、米国依存を減らす戦略が見られる。これに対し、トランプ政権は関税収入を国内産業の補助金に充てる計画を発表し、経済的負担を軽減する試みを進めている。このように、米中双方の関税政策は、単なる報復を超え、長期的な経済構造の再編を視野に入れている。

結論として、トランプ政権は一貫した強硬姿勢で中国を圧倒しようとし、中国はスマートさと強さを両立させる戦略で対抗している。
米中の関税戦争は、貿易だけでなく、技術覇権争い、地政学、国内政治の複雑な絡み合いを反映しており、今後も緊張が続く可能性が高い。両国の次の動きが、グローバル経済の行方を大きく左右するだろう。
(※なお、この論考は米中が追加関税を90日間、相互に115%引き下げる共同声明を発表した以前の事実関係から分析したものである)
【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】