6月3日に投開票が行われる韓国の大統領選挙、22日間に及ぶ選挙戦が12日スタートした。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の罷免に伴う今回の選挙戦は、革新系最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)氏(60)がほかの候補を大きくリードし、保守系与党「国民の力」の金文洙(キム・ムンス)氏(73)が追いかける構図となっている。
初日の様子を取材すると、自信に満ちあふれる“革新”と必死に巻き返しを図る“保守”の姿があった。
ソウル中心部に2万人集結 自信満ちあふれる“進歩系”李在明氏の第一声
官公庁や企業が立ち並ぶソウル中心部の光化門、その一角にある広場には革新系最大野党「共に民主党」のイメージカラーである青色の服などを身につけた約2万人の支持者が集まった。
午前10時、ハイテンポな音楽が鳴り響く中、李在明氏が壇上に上がると、支援者から大きな歓声が挙がった。中には選挙戦初日にも関わらず「大統領!大統領!」などと大きな声で呼びかける支持者もいた。
当の李氏も、政権奪還を目指す選挙戦の初日とは思えないにこやかな表情で、自信と余裕をみせていた。

李在明氏:
世界を明るく照らす門、光化門という名の通り、我々はここで漆黒の内乱の闇を退けました。光の革命を始めたここで、初めての選挙運動を始める意味を、格別に胸に刻みます。
李氏が最初の演説の場所として選んだ光化門は、去年12月3日の非常戒厳の宣言以降、支持者らとともに連日のように尹前大統領の弾劾を訴え続けた場所でもある。李氏側がこの場所を選んだことについて、韓国メディアは「非常戒厳による内乱の終息を通じて政権交代を強調するための戦略」と分析している。
前回の大統領選は得票率0.7%差で敗北 雪辱期す李氏
そして、この場所は前回2022年の大統領選で勝利した尹前大統領が最初の演説を行った場所でもある。前回、得票率0.7%差で敗れた李氏は、雪辱を果たしたいという思いも口にした。
李在明氏:
李在明氏:私の力不足により、前回の大統領選挙で残念ながら負けました。痛恨の敗北の責任者を再び呼び起こしてくださった国民と共に、皆の思いを一つにまとめて、必ず勝利で応えたいと思います。
さらに、李氏は選挙戦の鍵を握る中道層を意識してか、「これから革新の問題はない。保守の問題はない。大韓民国の問題、国民の問題があるだけだ」とした上で、「内乱終息と危機克服、国民幸福を渇望するすべての国民の候補として今回の選挙に臨む」と決意を訴えた。
“保守系”金文洙氏 早朝5時の市場で口にしたスンデク
その李氏を追いかける保守系与党「国民の力」の金文洙氏は対照的に静かに選挙戦をスタートさせた印象だ。
「国民の力」を巡っては、韓悳洙(ハン・ドクス)前首相との間での候補一本化を巡って二転三転し、決まっていた金氏への公認は一度取り消され、再び公認が確定したのは選挙戦開始2日前の夜だった。混乱の影響のためか、金氏の選挙戦初日の日程は、前日の夜になっても明らかにされなかった。
ようやく報道陣に周知されたのは前日夜10時過ぎ、しかも翌朝5時からソウル市内の市場で遊説を行うというものだった。

12日朝5時過ぎ、金氏は党のイメージカラーである赤のジャンパーを着て、日の出前の市場を訪れた。市場に店を構える青果店やナムル店などの店主から話を聞き握手を交わした。
さらに、店主らとともに、市場の中にある飲食店で、スンデクックを食べた。スンデクックは、豚の腸に、餅米や野菜などを詰めたスンデを使った韓国の庶民的なスープ料理だ。
金氏は韓国メディアの取材に対し、市場を訪れた狙いは「経済の実情を知るためだった」としている。

金文洙氏:
市場が経済の核心。経済が低迷する危機を再びどう回復させるのか、現場で直接方向性を探ろうと思った。どれほど経済と暮らしが難しく、人生が難しいかを感じた。
「国民の力」にとっては身内である尹前大統領の罷免を受けて臨む今回の大統領選挙。マイナスタート中でのスタートの中、候補一本化を巡る混乱で自分たちの足を引っ張る展開となっているだけに、国民に近い目線をアピールすることで中道層の支持を得たいのだろう。
最新世論調査で李氏支持50%超 鍵握る“中道層”の行方
韓国のリアルメーターは11日、世論調査の結果、革新系最大野党「共に民主党」の李在明氏の支持率が52.1%だったと明らかにした。
これは保守系与党「国民の力」の金文洙氏と、保守系野党「改革新党」のイ・ジュンソク氏(40)との3者対決を想定したもので、支持率は金氏31.1%、イ氏が6.3%と、李氏が2位の金氏に20ポイント以上の差をつけている。

代表的な世論調査会社韓国ギャラップのホ・ジンジェ理事によると、韓国の有権者の政治志向は革新40%、中道20%、保守40%に分けられるという。つまり、中道層の支持を得られるかどうかが選挙の行方を左右するということだ。
革新系最大野党「共に民主党」は12日、大統領選挙での10大公約を発表し、「世界を先導する経済強国の実現」などを掲げ、AIをはじめとする新産業の発展に力をいれるとしている。経済成長を打ち出し中道層の支持を得る狙いがあるとみられる。

一方、保守系与党「国民の力」は、中道層の支持を得るために上層部が、韓悳洙前首相への公認差し替えを目指したが、逆に混乱を招き、一部の保守支持者の反感を買う事態となっている。
韓国ギャラップのホ理事は、「国民の力」側が勝つ絶対条件として、同じく保守系のイ・ジュンソク氏との間での候補一本化が必要とする。ただ、イ氏は「一本化は不可能」と話しているとされ、実現可能性は低いとみられる。

現状では今回の大統領選挙で、李氏が最有力であることは間違いない。12日の第一声を取材していても、李氏からはまるで大統領選に勝利したかのような強い自信を感じた。不安材料である司法リスクについては最高裁によって李氏の公職選挙法違反の罪を巡る2審の無罪判決が取り消され高裁に差し戻されたが、選挙前に判決は出ないことが確定している。
投開票は6月3日に行われ、5カ月以上、大統領不在が続いてきた韓国にいよいよ新しいリーダーが誕生する。ここ数カ月間、さまざまなことが急転してきたのを見ると、当日まで何が起きるかは分からない、韓国国民の選択が注目される。
【取材・執筆:濱田洋平(FNNソウル支局)】