カンテレ・フジテレビ系列で月曜よる10時から放送されているドラマ「あなたを奪ったその日から」。
演出を手掛けるのは北海道出身の松木創監督。
クランクイン初日、北川景子の圧巻の芝居に出会い、撮影方針を大きく転換する。
「アップを多めに。心情に寄り添うカットに切り替えた」
演出家の直感と判断、そして人間の“心の謎”を描くための映像哲学とは―
舞台裏に迫るインタビュー、前編。

“毎週観たくなる”ドラマ作りと精密な三つの演出設計
――松木監督にとって月10ドラマ「あなたを奪ったその日から」はどんな思い入れを持って取り組まれているか。
「連続ドラマが本来持っている、連続ドラマでしかできない毎週見たくなるわくわく感みたいなことを大切にしたいと思っています。二つ目は、ドラマを撮るという事について最近よく思うのが、スキーのスラローム(回転)競技に似ていると感じていて、いかにミスを最小限に抑えて結果を出すかというイメージで取り組んでいます。
間違えないようにきちんと演出しようと考えてやっているので、今回も特にそれは意識して、何がミスかという考え方ももちろんありますが、ここでこのサイズでカットにするのか、芝居の付け方としてはこれが正しかったのかということを常に意識しつつ、ミスなく、成果をあげようとして作っています。
三つ目は、今回特に脚本が良かったので、全シーン何かしら見どころを作ろうと。シーン毎に順番通りじゃなく撮っていきますけど、話を展開させるためだけにセリフを言うシーンを一切作らず、例えば台本以上の仕上がりにするために、役者の動きやカット割り、ライティングを工夫したりして、きちんと見どころを作るということを考えながらやっていました」
――そこには伏線のカットもたくさん含まれていますか
「今回はクランクインの段階で決定稿の台本が全部揃っていました。これはなかなか珍しい事で、連続ドラマではクランクインの段階で3~4話分あるというのが平均的なところで、後半はプロットとか準備稿が1~2話ある状態になっている事が多いです。
しかし今回は決定稿が本として印刷されたものが11冊あり、ここがどこの伏線になるということが全て明らかになっていたので、それも念頭に置きつつ、ただやりすぎると伏線が目立ちすぎてしまう。演技のバランスも含め、役者の方々とも相談しながら調整していきました」
北川景子の芝居が導いたカメラの“より”と揺れ動く心の映し方
――本作の演出にあたり大切にしていたこだわりは?
「普段の私は少し広めのサイズ、GS(グループショット)のような画角の中で人が動く、やや引いたカメラ位置で、画角内の人物の動きを映すスタイルが好みですが、今回、初日のクランクインの日に、1話で北川景子さんが子供を亡くした後に、幼稚園で全然関係ない子を抱きしめて、「お母さんって呼んで」っていう泣きながらの芝居を観て、自分の好みで画面構成を決めるべきでないと判断しました。北川さんの芝居に力が非常にあったので、それをきちんと追いかけるべきだと。
衣装合わせの段階でもいろいろ話をして、そういった意図はありましたが、実際に芝居を見てみると、思っていた以上に表情をアップで丁寧に追うべきだと感じました。そこで今回は、普段よりもその点を強めに表現しています。客観的な映像よりは、もう少しその心情に寄せてアップの映像を多くするイメージになっています。それがまず一つ目。
北川さんの芝居を見てそう思ったので、長く一緒にやっているカメラマンがアップにしたがるカメラメンで、いつも「引いて引いて」と指示するのですが、今回はあまり言わないで、きちんと人物の表情を追っかけるということに方針を変更しました。
もう一つの今回のテーマは、人間の心の“測り難さ”です。主人公・紘海さん(北川景子)は真っ当な生活を送っていたにもかかわらず、誘拐という、大きな罪を犯してしまう。その心の奥深さや謎を描こうとしています。人の心の中の「測り難さ」、「奥深さ」、「謎」、どうしてこんな心の動きをしてしまうのだろうということを表現するために、普通のドラマよりは少し陰影を強めに、ライティングも斜めから影を作るようにして、奥行き感を出しています。
ライティングとグレーディング(色調の調整)もドラマのテーマである「人間というのは見る人の角度によって、その人の見え方が違う、姿が違う」ということが大きなテーマとしてあるので、それを映像的にも、影が何かを語っているかのような陰影強めの映像をライティングで象徴させています」

――ドラマの中に出てくる「因果応報」という言葉に何か意図は込められていますか
「大きなテーマにはしていませんでしたが、言葉は強いと感じられたと思います。あえて言うなら、「運命」みたいなものがあるとすれば、そういうものに翻弄されるという意味で使っているのかなと。
後半の展開に向けては、「因果応報」とか「運命」みたいなことに抗うし、抗ってそこから自由になる人々の姿みたいなことが描かれていくような感じはします」

※<後編5/19予定>「北川景子さん大森南朋さんとの舞台裏」
「あなたを奪ったその日から」
毎週月曜日よる10時からカンテレ・フジテレビ系列で放送中
<あらすじ>
食品事故で子供を失った母親・中越紘海(北川景子)が、事故を起こした男の3歳の娘を誘拐し復讐を果たそうとするが、その誘拐には大きな誤算があった。わが子を失った事故の真相を追いながらも自分の犯した罪に苦しみ、葛藤し、周囲を巻き込み…それでも生きていくというサスペンスフルな親子愛の物語。
松木創(まつきつくる)
北海道登別市生まれ
1991年UHB北海道文化放送入社
2002年共同テレビジョン入社
フジテレビ「中村屋ファミリーシリーズ」「世にも奇妙な物語」
「心霊内科医 稲木知性」
東海テレビ「リカ」「嗤う淑女」ほか数々のドラマ、ドキュメンタリーを手掛ける