北海道上川地方の東川町が、介護の人材をめぐり東南アジアの国、インドネシアと協力。
異国の若者たちが夢を描く介護現場で、互いの課題を解決する取り組みとは。
「カイゴ」
「カイゴフクシシ」(いずれもインドネシア人の会話)
インドネシア語の会話に聞こえてくる日本語の「カイゴ」という言葉。
「日本で働けるのは本当にうれしい」
「日本で夢をかなえることができる」(いずれもインドネシアの学生)

北海道のある町に集まる外国人―その理由は
若者たちが注目する町が北海道にある。
人口約8600人の東川町。
町内でひときわにぎわう学校が。

多くの外国人の姿。彼らが学ぶのは「介護」。
小さな町でいったい何が起きているのか。

「日本で介護の仕事をして生活する」
北海道から約5600キロ離れたインドネシア。
首都ジャカルタから南東に200キロほど離れた農業の町、ガルト。

4月、東川国際文化福祉専門学校で介護を教える富塚稔さんたちの姿があった。
看護を学ぶ学生たちの前で介護について説明。
「日本で介護の仕事をして生活する。日本の高齢者のスーパーヒーローになりたい人はぜひ、介護福祉士を目指してくれたらうれしい」(東川国際文化福祉専門学校 富塚稔さん)
彼らが真剣な表情で聞き入るのには理由がある。
「(インドネシアで介護は)家庭の中で行われている」(富塚さん)

彼らが「カイゴ」と呼ぶのは―
インドネシア人が「カイゴ」と呼ぶのは日本の公的介護保険制度。
高齢者の介護を社会全体で支え合う日本の仕組みがインドネシアにはない。
制度そのものを指すときインドネシアでは日本語の「カイゴ」を使うのだ。

このカイゴに若者たちは。
「日本で働けるのは本当にうれしい。特に先生の指導で介護福祉の分野で働けるのがいい」(インドネシアの学生)

今年度は入学者の半数以上が留学生
東川町の専門学校では海外からの留学生に日本の介護福祉士などの国家資格取得のための指導を行う。
「ここの学生になれば奨学金で資格を取ることができる」(学生)
「すべて奨学金で払うので自己負担は0です」(専門学校担当者)
学生の費用負担はない。
なぜこのような待遇が実現できるのだろうか。

2025年4月、専門学校の介護福祉科に入学したのは67人でこのうち留学生は46人。
中国やベトナムなど11か国から来た留学生。

学生が利用するのが独自の奨学金だ。
東川町などがつくる協議会に北海道内の32の自治体が、年間、学生1人に対し370万円を拠出。
この予算が奨学金として無償で提供されるのだ。

「将来は介護の仕事をしたい。日本で就職したい」(留学生)

奨学金を利用した留学生は卒業後5年間、北海道内の介護福祉施設で働くことなどが条件。
これまで107人もの留学生が予算を拠出した自治体の介護施設に就職。
「介護福祉士は日本が認めた資格なのでずっと働ける。家族を呼んだりできる」(富塚さん)

減り続ける介護職員の数
こうして海外の若い人材を求めるのは深刻な介護現場の実情が理由。
北海道内の全人口に対する65歳以上の高齢者の割合は33.1パーセント。
高齢者の割合が右肩上がりとなる一方で、減っていくのが介護職員の数。
国は2040年に57万人もの不足が生じると見込んでいる。

「ここにいる学生に多くのチャンスがあるので、日本で夢をかなえることができる」(学生)
北海道の介護の現場を夢とまで表現するインドネシアの学生。
彼らの国も大きな課題を抱えていた。
「ガルトでは現在、経済状況に問題があり若い人たちに仕事を与えることができていない」(インドネシア・ガルト県知事)

ガルト県の労働局の担当者によると高校を卒業する年間約3万人のうち定職に就けるのはわずか20パーセント。
さらに国内の平均月収は月3万円から4万円ほど。
一方で東川の専門学校を卒業した留学生の介護職の初任給は平均で16万円以上で、約4倍。
「誰かの大事な家族を、日本人を支えたいという人は、日本には介護という仕事があると思ってくれれば嬉しい」(富塚さん)
北海道の東川町とインドネシアのガルト県。
2025年6月には正式に協定を締結し、互いの介護現場の人材育成を見据え協力していく。
