「多様性の時代」と言うものの現実にはその“多様性”が十分に認められ、活かされているとは言い難い部分がある。同性カップルに対する差別や偏見もその1つ。2025年1月、日本では認められていない“同性婚”を法制化したタイのカップルを取材した。

同性婚を認める「結婚平等法」施行

踊りや演奏で迎えられショッピングセンターに集まった人たち、これは同性カップルが婚姻届を提出するイベントだ。

結婚届を提出に来た同性カップルたち(2025年1月)
結婚届を提出に来た同性カップルたち(2025年1月)
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タイでは2025年1月、東南アジアで初めて同性婚を認める「結婚平等法」が施行された。

法律上の表記が従来の「夫」と「妻」から「配偶者」に変更されたほか税金の控除や遺産相続、養子縁組などの権利が男女の結婚と同じように保障された。

同性カップルの苦悩と喜び

「法律で認められた配偶者になれてとてもうれしい。もう他人に軽蔑されない」と婚姻証明書を見ながら喜びをかみしめるプーンさんとナットさん。

2人が知り合ったきっかけはSNS。

プーンさんがナットさんにメッセージを送ったことで仲が深まり、7年前に交際が始まり4年前からはバンコク近郊の家で同棲。

プーンさんは美容師として働き、ナットさんは古着のオンライン販売で生計を立てている。

さらに2人はインフルエンサーとして同性カップルの日常をコミカルに発信。

SNSのフォロワー数は30万人を超えている。

ようやく法律的にも結ばれた2人だが、ここに至るまでには苦悩があった。

ナットさんは幼稚園の頃、自分が男の子に好意を抱くことに気づいたそうで「性別が間違っていると言われたり、公の場でからかわれたりして、苦しかったが仕方がないと思った」と振り返る。

男性にも女性にも好意を持つプーンさんも「彼氏ができてSNSに写真を投稿した時に私を差別するコメントがきた」と誹謗中傷された過去を教えてくれた。

愛に制限や例外はない

性的少数者に寛容とされるタイでも依然として残る差別や偏見。LGBTQの当事者たちは長年、国に対して性の多様性や同性婚を認めるよう訴えてきた。

性の多様性を祝うパレード(2024年6月)
性の多様性を祝うパレード(2024年6月)

事態が動いたのは2023年の総選挙。

若者の支持を集めた革新系の政党が第1党になったことで議論が一気に加速。

同性愛をテーマにしたドラマもヒットするなど社会の理解も次第に深まっていった。

ペートンタン首相が「性別に関わらず、誰を愛しても、その愛に制限や例外はない。皆さんも男女カップルと同じように法律によって守られ保護されることになる」と宣言。

国会で議論が始まってから10年以上の歳月を経て2025年1月23日、同性婚が法制化された。

プーンさんのプロポーズの様子(SNSより)
プーンさんのプロポーズの様子(SNSより)

そして同じ頃、プーンさんがナットさんにプロポーズ。その様子もSNSで配信され多くの人から祝福を受けた。

「結婚平等法」が施行された日、タイ国内では1800組以上の同性カップルが婚姻届を提出した。

婚姻証明書にこみ上げる思い

婚姻の手続きを済ませ壇上に上がるプーンさんとナットさんは、2人の名前が書かれた婚姻証明書を緊張した面持ちで受け取った。

席に戻ってからも証明書を見つめる2人。

涙ぐむ2人
涙ぐむ2人

「ここまで特別な気持ちになるとは思っていなかった」とナットさんが言えばブーンさんも「とてもうれしい。(うまく)伝えられない」として2人とも涙ぐむ。これまでの思いがこみあげてきた様子だ。

幸せを手にした2人は、日本でも当事者たちの権利が平等に保障され、多様性が認められる社会になってほしいと話した。

ナットさんは「人をグループに分け差別することはあってはならないことだと思う。人は性別にかかわらず、平等に権利を持って生活を送れるべき」とし、プーンさんも「マイノリティの人たちの幸せのため日本もタイのような施策を推し進めてほしい」と結んだ。

今後もこれまで通りの“普通”の生活を続けるというプーンさんとナットさん。

ナットさんとプーンさん
ナットさんとプーンさん

幸せを手にした2人から私たちも学ぶべきことがあるように感じられた。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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