2025年は昭和元年から数え年で100年目。様々な分野の“昭和”に注目が集まっていて、静岡市にある日本最古の市営団地も例外ではない。
現存する日本最古の公営住宅
コンクリート造りの団地の前に集まる人たち。
静岡市のまちづくり公社が主催した市営住宅の見学会の参加者だが、見学会と言ってもここに住むためではない。

東京から来た参加者は「団地が好きで見学会やっているのを年末に初めて知って、ずっと来たいなと思っていたので」と嬉しそうに参加理由を明かす。

JR静岡駅から南西に約1.5km。
安倍川に近い葵区駒形通4丁目にある羽衣団地。
横一列に並ぶ鉄筋コンクリート造り・4階建ての4棟のうち中央の2棟が羽衣団地と呼ばれ、今から77年前、終戦間もない1948年に設計・着工されたことから「48型」と呼ばれている。
日本で最も古い公営の住宅で、現在の入居率は約60%。一部を除いて現役だ。
希少な建物の中を見学
この団地には全国各地から大学の研究者や建築を学ぶ学生が調査に来ているそうで、静岡市住宅政策課の小澤映里 係長によれば「希少な建物を全国の人に見てもらうために見学会を開いている」という。

見学用の部屋に入ってみると建設された当時のままの姿だ。
台所と部屋をつなぐ配膳口は現在入居している人もこのままの形で使用している。
「当時の設計者たちが良いところを研究して、こういう方が良いとしたのだと思う」という説明には参加者も感心した様子を見せた。

羽衣団地は1棟24戸で、部屋は6畳間と8畳間、それに台所の2K。
当初の1カ月の家賃は1200円(現在の貨幣価値にして4万円ほど)で、当時としては珍しいガス設備と水洗トイレが設置されていた。

風呂場は地下に木製の浴槽が設置され、2日に1回、4世帯が交代で使用していたが、現在は1979年の改修により各部屋に設置されている。
説明者が「一番風呂はいいですよ。でも4番目なんかえらいこっちゃ。とても入れなかったと思う」と口にすると参加者からは笑いも漏れた。
防災面の機能も担う
この羽衣団地は戦後に不足していた住宅問題の改善や生活水準の向上という目的のほかに、もう1つ大きな役割を担っていた。

1940年代の団地周辺は木造の住宅がほとんどで、建設前には静岡大火や空襲など大きな火災に見舞われた。
このため、コンクリート造りの4階建ての団地6棟が横に1列、さながら壁のように建設され、市街地から離れた安倍川方面で火災が発生した場合でも西風で市街地に火が広がらないよう東西を断ち切る防火帯の役目を果たしていた。

「古いまま残っていたのでびっくりした」と話す参加者に「住みたいと思うか?」とたずねると「思います!」と間髪入れずに返って来た。
また「今ではないような工夫もあるし台所の扉はおもしろい」「おしゃれな部分がたくさんあってびっくりした」など参加者たちは昭和の英知と工夫に感心した様子だ。
市住宅政策課の小澤映里 係長は「今後も皆さんに広く知ってもらうため見学部屋として活用していきたい。そして、まだ市営住宅としての役割もあるので維持管理しながら大切に使い続けていきたい」と話す。

昭和の生活を今に伝える貴重な資料を後世に伝え、今後も活用されていくことが期待されている。
(テレビ静岡)