日本の宇宙スタートアップ「IDDK」が、宇宙バイオ実験衛星の打ち上げに成功した。人工衛星で無人のバイオ実験を行い、宇宙での創薬やアンチエイジング研究の可能性を開拓。運用終了予定の国際宇宙ステーションに依存しない実験環境を提供することを目指している。
国際宇宙ステーション依存から脱却へ
日本で初めてとなる、民間企業が主導した「バイオ実験衛星」の打ち上げに成功した。

23日、アメリカ・フロリダ州で打ち上げられたSpaceXのロケット。それを、静かに見守る人たちがいる。

IDDK 研究開発部・安部成就さん:
自分が関わったプロダクトが宇宙に飛んでいくのは、すごくどきどきします。

ロケットが地球を離れ、日本の民間企業では初めてとなる、宇宙でのバイオ実験への挑戦が始まった。

今回行われたのは、日本の宇宙スタートアップ「IDDK」と、ドイツの「ATMOS」社が共同で行うバイオ実験。

IDDKは宇宙空間に浮かぶ人工衛星で、人間が関与することなく、全自動でバイオ実験を行う装置を開発。

実験環境の提供はもちろん、ロケットの打ち上げや人工衛星の手配、さらには帰還まで、“無人”で完結するワンストップサービスを世界に先駆けて提供するとしている。

今回の実験を行った背景には、ISS・国際宇宙ステーションの2030年の運用終了が大きく関係している。

人工衛星を用いた日本独自のプラットフォームを構築することで、宇宙ステーションに頼らない、自由に使える実験の場として役立てたい狙いだ。

打ち上げから約1時間半。実験装置から最初の「動いていますよ!」の反応が。
IDDK 代表取締役・上野宗一郎さん:
実証としては、ほぼほぼOKですね。
実験装置は無事稼働。成功だ。

この宇宙バイオ実験が可能になることで、宇宙環境を活用した創薬、アンチエイジングなど、宇宙空間での様々な生命科学研究をサポートしたいという。

IDDK 代表取締役・上野宗一郎さん:
人のいない環境をベースにできるので、チャレンジングな実験も可能性があるっていうのが、魅力になるかなと思っている。人間が宇宙に行って、そこを下支えしているような、要はインフラになっていくようなシステム・プラットフォームとして育てていきたいというふうに考えています。
無人化が拓く日本宇宙産業の新たな可能性
「Live News α」では、早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚さんに話を聞いた。
堤礼実キャスター:
バイオ実験衛星の打ち上げ成功、長内さんはどうご覧になりますか?
早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
人工衛星を活用したバイオ実験のプラットフォームを目指すIDDKの試みは、例えば、クラウドファンディングで資金を集めることもそうですが、日本の宇宙スタートアップの中では非常に意欲的なものが多いです。
何より、宇宙での実験研究を無人化するというのは、これからの日本の宇宙開発が進むべき、新たな可能性を示していると思えます。

堤キャスター:
これまでは宇宙空間で、どのように実験や研究を行っていたのでしょうか?
早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
ISS・国際宇宙ステーションのような大がかりな設備での研究や実験が多かったのですが、そのため、人間が乗り込んだ宇宙船を飛ばして、研究者を宇宙に送り込むというのが当たり前でした。
それが今回の試みでは、人工衛星を無人の実験室にするというもので、宇宙での研究開発のハードルをグンと下げたと言えると思います。
ロボティクスと人工衛星が企業の競争力を高める道
堤キャスター:
今回の挑戦によって、日本の宇宙ビジネスの可能性も広がっていくのでしょうか?
早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
はい。特に有人宇宙船については日本はまだ独自に飛ばすことができません。アメリカやロシアに頼らなければならない状況にあります。
それが人工衛星の打ち上げであれば、日本も独自に行うことができます。
IDDKは、日本独自の人工衛星を用いた宇宙バイオ実験のプラットフォームを構築し、宇宙ステーションに頼らない実験の場を提供することを目指しているんですね。

堤キャスター:
世界で宇宙ビジネスの競争が加速する中、日本の企業が存在感を示すための鍵は、どこにあるのでしょうか。
早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
最近、ソニーでプレイステーションの開発を行い、ソニーコンピュータエンタテインメントのCTOだった茶谷公之さんと話す機会がありました。
茶谷さんも、これからの日本の産業がやらなければいけないのは「ロボティクスと宇宙だ」と言っていました。
AIなどの頭の部分はアメリカがリードしていますが、手足となって動く部分は、日本にまだまだチャンスがありそうです。人工衛星の新たなビジネスを、今後の日本の強みにしていけると良いですね。
堤キャスター:
宇宙には人類の未来につながるヒントがたくさんあるはずです。人工衛星を活用した研究や実験が加速することで、宇宙ビジネスの裾野が広がることを期待したいです。
(「Live News α」4月23日放送分より)