「物価高なので仕方ない」とあきらめムードの昨今、「値下げ」に踏み切った飲食店やスポーツジムがある。
なぜ、値下げできるのか?
固定概念を捨て“発想の転換”から始まったビジネスモデルが消費者にうけている。
効率化でギョーザの製造に集中
広島市内を中心に6店舗を展開する「餃子家 龍」。3月18日から、焼き餃子の値段をこれまでの1人前390円から298円に値下げした。

運営する井辻フードアンドの井辻俊行社長は「焼き餃子は看板商品なので悩みましたが、クオリティーは下げずに同じ量で価格を抑えています」と話す。しかし材料を変えず、量も減らさず値下げに踏み切ることは簡単ではなかったようだ。人件費や材料費など生産コストが上昇する中、なぜ実現できたのか。

大きくは製造工程の見直し。この会社は同じ機械でギョーザ以外の複数の商品を製造している。一つ一つの商品を大量に作ることで、別の商品に切り替える時に行う清掃などの時間を節約。生産効率を上げた分、ギョーザの製造に集中できる。従業員の配置も細かく見直して、効率よくが商品が作れるように改善した。
ギョーザの価格を変更後、2人前の注文が3人前になるなど確かに注文数は増えたが…
ーー値下げは利益アップにつながった?
井辻社長は「そこはあまり考えてなくて、たくさんの人にリーズナブルな価格で食べてもらいたいという思いです」と苦笑い。店の利益が必ずしも上がっているわけではない。物価が上がり始めて1年以上が経過。「現状は値上げせざるを得ない状況かなと思います。生産コストを価格に転嫁しつつ、その分、改良したり進化させていければ一番いい」と話す。
まだ商品全体が値下げに向かうのは難しそう。しかし1品でも気兼ねなく注文できるメニューがあるのは嬉しい。店舗に張られたポスターには、焼き餃子の値段とともに「たくさん食べて!」というメッセージが添えられていた。
「お客さんに手伝ってもらう」という発想
一方、発想の転換で価格を下げるビジネスモデルに注目が集まっている。パーソナルジム・ライザップが運営する「チョコザップ」の“お客さま共創型ビジネスモデル”だ。

チョコザップは初心者向けのコンビニジムで、無人の施設を24時間365日使用可能。着替えや靴の履き替えも不要といった手軽さがうけ、2022年の事業開始以来、2025年4月時点で全国に約1800店舗を展開している。
しかし、急成長によって想定外の問題が発生した。RIZAPグループの杉原悠治部長は「デジタルで置き換えられるところはすべて置き換えていますが、どうしても清掃や備品の補充は人がしないといけない。ライザップのトレーナーが定期巡回しながらメンテナンスを行っていたが、店舗数が増えていくとトレーナーではまかないきれなくなる」と言う。

作業員不足を解消するためにさまざまなことを考えた上で「常にお客さまは店舗に来てくれているので、そのお客さまにスキマ時間や運動のついでにちょっとしたお手伝いをしてもらうことができないか…」という発想にたどり着いた。
月8回の清掃作業で約2000円安く
そして始まったのが「フレンドリー会員」のシステム。フレンドリー会員に登録した利用者は店舗の掃除やゴミ捨て、備品の補充のほか、機械の簡単なメンテナンスなどを行う。外部に委託するコストをお客に還元。作業の内容や回数によって、ジムの利用料金が減額される制度だ。

約1年半前からフレンドリー会員として活動する村田裕美さん。広島市安芸区にある店舗の清掃作業などを担当している。村田さんは「月8回の作業で2000円ほど安くなります。なので、1カ月の利用料金が税込1200円ちょっと。清掃して、ピラティスをして、走ってという流れで無駄がないです。子どもの塾の迎えまで時間いっぱい動いています。この時間までにこれをしようと決まっているので、とてもメリハリがついた感じです」と金額以外にもメリットを感じている。

杉原部長は「現在3万人以上の方にフレンドリー会員として活動してもらっています。非常にお客さまにも好評でした。物価高で原料費が上がり、われわれも影響を受けています。その中でもまだまだ努力できるポイントはたくさんあって、今まではこうだったという発想はとにかく捨てるようにしています。新しいことへのチャレンジに日々精進しています」と話す。
消費者にとっては選択肢の幅が増え、店舗の運営に協力しているという“心地よさ”もある。
値下げの要素がないようでも企業努力や発想の転換によってできることはまだあるのかもしれない。
(テレビ新広島)