トランプ大統領がサプライズ参加し行われた日米の関税交渉。Mr.サンデーは、ホワイトハウスが公開した27枚の写真を徹底分析。交渉の舞台裏が見えてきた。

「トランプ氏を怒らせないというのはあったはず」

世界の先陣を切り、アメリカと対峙した日本を、各国はこう称した。

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「日本が交渉における『モルモット』としての立場」(英・フィナンシャルタイムズ)
「日本の交渉担当者の訪問は、『炭鉱のカナリア』と見なされていた」(仏・AFP通信)

75カ国以上が交渉を控える中、その行方に注目が集まった日米関税交渉。開始前日から日本は翻弄された。本来、参加する予定のなかったトランプ大統領が、SNSで突然“参戦表明”し、会場も当初の財務省からホワイトハウスの大統領執務室に変更された。

交渉人を担った赤沢亮正経済再生担当大臣は、18日、自民党のYouTubeチャンネルでこう述べた。

赤沢経済再生相:
(アメリカへの)機内でみんな寝ている体勢で、外務省職員と経産省職員幹部ですけど2人ともパジャマで私のとこにすごい勢いでこういう情報がありますと言って。トランプ大統領が自ら参加すると。「えっ」ていう。びっくりですよね。

トランプ大統領はなぜ、赤沢大臣との交渉にサプライズ参加したのか。そして交渉後、ホワイトハウスが公開した27枚の写真にはどんな意図があるのか。アメリカ政治が専門の上智大学の前嶋和弘教授に、つぶさに読み解いてもらった。

上智大学 前嶋和弘教授:
今回の一つの象徴かもしれません。
トランプさんがいて、ベッセント財務長官がいて、ラトニック商務長官もいて、ワイルズ首席補佐官がいる。要するに、ガチの交渉をするというよりも、トランプさんの意見を聞く(場である)。

上智大学 前嶋和弘教授:
大統領はすごく素敵な椅子で、(赤沢大臣は)移動可能な椅子。社長に呼ばれた部下みたいな演出。その絵を見せつけている。

交渉の場であるはずが、社長とその話を伺う部下のような構図に。一方、日本側も…。

上智大学 前嶋和弘教授:
日本側からミャクミャクのプレゼントがあったかもしれませんが、これはなんというか、交渉というよりも外交。帽子にサインをして、その帽子をかぶって、サムアップするって、やっぱり交渉の絵ではない。外交の表敬訪問の絵になっていますよね。

前嶋教授は、その背景について次のように見ている。

上智大学 前嶋和弘教授:
トランプさんを怒らせないようにするってところはあったと思うんですよね。(日本側の)残像にあるのはゼレンスキーさんとトランプさんのあの会談で…。ゼレンスキーさんが罵倒される。しかも、副大統領に大統領にとボコボコにされる。あれは避けたかったわけですね。

実際、18日に更新された自民党のYouTubeでも、小野寺政調会長が次のように語っていた。

小野寺政調会長:
ゼレンスキー大統領とトランプ大統領の会談の時に、大変厳しい局面もあったので、同じことになったら大変だなと思って心配したんですが、逆に今回本当冷静にしっかり会議をしていただいたと思いますので…。

トランプ大統領を怒らせないというハードルはクリアした赤沢大臣。だが、交渉が始まると、トランプ大統領は「日本との貿易赤字は1200億ドル (17兆円) もある」「アメリカの車は日本で1台も走っていないじゃないか。日本との貿易赤字をゼロにしたい」と厳しく主張してきたという。これに対し、赤沢大臣は…。

赤沢経済再生相:
自動車、鉄鋼アルミ相互関税10%全部やめてください。極めて遺憾であって、これはもうぜひ全部撤回してほしいと。日本としてそこは譲れないんだと。最初からそれはなしよって言われたら、我々は交渉できないということをかなり強く、それも繰り返し申し上げた。

交渉の場では強く言うべきことは言ったという赤沢大臣。写真にも、大統領の椅子にどっしり座るトランプ氏に対し、背もたれから離れ、前のめりで話す赤沢大臣の姿が収められていた。その時、トランプ大統領は…。

赤沢経済再生相:
私の話を聞こうとしてくださる姿勢は非常にもう明らかで、話が終わるまで丁寧に待ってくださるっていう感じだった。

トランプ大統領は決して頭ごなしな印象ではなかったという。

赤沢経済再生相:
交渉の中身だし、どんな話だっていうのをするのもできないんですね。ただ言えるのは、本当にありがたかったのは、大統領自らの言葉でおっしゃったことの中で、やっぱり明らかに大統領の中の優先順位、そういうものがかなりはっきりしてきたところはあるので、明らかに彼が自分の言葉で話しているのは間違いなく関心高いんですね。
事務方が用意したのか、小さなメモが置いてあって、それに目を落としながら、これも言っとかなきゃなっていう感じで言うものは関心がきっと高くない事項だと思うんで。得られた情報はかなり今後の交渉に役に立つなと。

「交渉は自分がまとめているとPR」トランプ氏の思惑

トランプ大統領と直接交渉できたことで、日本として得るものはあったという。かたや、トランプ政権にとっては、27枚の写真を世界に発信したことに意味があると、前嶋教授は指摘する。

上智大学 前嶋和弘教授:
この絵とか見ると、トランプさんにとって、まさにこの絵を使いたかったわけですよね。これは要するに、非常に2人とも満面の笑みで「他の国もこの日本を学んで、こんな形でアメリカに来てくれよ」っていうメッセージだというふうにまずとれます。

さらに、アピールする先は交渉相手の国々だけでなく…。

上智大学 前嶋和弘教授:
今回の交渉は自分がまとめているんだ、そして、自分の国内向け、特に支持層向けには自分がまとめていて、この関税の話は上手くいってるんだってPRだと思います。
「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」の帽子を(赤沢大臣が)被っていましたね。支持者にとってはたまらないと。アメリカに製造業をまた復活させていくんだ、農業を守るんだっていうメッセージに見えますよね。

交渉相手に「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」の帽子を被らせる。それは国内製造業復活への“のろし”なのか…。

一方、トランプ政権にコネクションを持つ地経学コンサルタントのアンドリュー・カピストラノ氏は、27枚の写真を公開した意図をこう読み解く。

地経学研究所客員研究員 アンドリュー・カピストラノ氏:
交渉に自分が関与すれば、最高レベルで取り扱う案件で、交渉を長引かせないというメッセージになります。トランプ大統領が、いくつかの取引を成立させることを急いでいるのは確かです。

中国からの輸入第3位は「おもちゃ」業界に大打撃

成果を急いでいる節があるというトランプ大統領。その背景にあるものは…。

現地時間18日、Mr.サンデーが向かったのは、アメリカ東部ニュージャージー州のプリンストン。30年近く続く地元のおもちゃ店「ジャザムス」は、今、経営が揺らぎ始めているという。そのワケは…。

おもちゃ店「ジャザムス」共同オーナー ジョアン・ファルージャさん:
アメリカで販売されているおもちゃの75~80%が中国製だからです。うちの店も80%が中国製のおもちゃです。

実は、アメリカが中国から輸入しているものの第3位は、おもちゃ。アメリカのおもちゃ業界は、中国製抜きには成り立たないといい、対中国に145%を課すトランプ関税によって、今後値上げを余儀なくされれば、おもちゃ業界は大打撃を受けるというのだ。

おもちゃ店「ジャザムス」共同オーナー ジョアン・ファルージャさん:
トランプ大統領が関税を上げると言っていたので、その前にクリスマスまで在庫がもつように大量に仕入れました。

そこでこの店では、関税が上がる前にクリスマスまでの在庫を確保。投入した費用は、約5500万円に上るという。客の中には、早くもクリスマスプレゼントを買いに来た人もいたという。

おもちゃ店「ジャザムス」共同オーナー ジョアン・ファルージャさん:
値上がりを予想して、(クリスマスプレゼントを)もう買いに来たお客さんがいました。また、商品不足を予想して先に買う人もいます。

それでも、トランプ関税が続けば店としては先の見通しが立たたないという。

おもちゃ店「ジャザムス」共同オーナー ジョアン・ファルージャさん:
今後145%の関税が続くと、この50ドルの中国製のぬいぐるみは、倍以上の120ドルで販売しないといけません。こちらは日本ブランドのおもちゃですが、製造は中国なので、今は11ドルですが、25ドルになってしまいます。145%の関税では営業を続けられません。今回はもうお手上げです…。

すでにくすぶり始めているトランプ関税による不満と不安。

買い物客:
正直言って、今回の関税はほとんどのアメリカ国民に打撃を与えると思います。

買い物客:
腹が立ちます。でもしょうがない…受け入れるしかないです。

こうした国内の状況も、トランプ大統領に成果を急がせる一因なのだろうか?日本との関税交渉を終えたその日に、トランプ大統領はSNSで「日本の代表団と会談できたことは大変光栄だ。大きな進展だ!」とすぐさま進展をアピールした。

日米交渉を参考にしたイタリアの“戦略”

相互関税を一時停止している90日の間、今後も続く各国との関税交渉。日本の翌日、EUの先陣を切ってトランプ大統領と交渉したのがイタリアだ。

現地のジャーナリストに話を聞くと…。

イタリア「askanews」ジャーナリスト アントニオ・モスカテッロ氏:
トランプ大統領と赤沢大臣の会談はイタリアでも報道されました。日本の交渉は、ヨーロッパの関税がどうなるのかを見るためにも有益でした。

イタリアでは、日本のケースから交渉のやり方を探ったという。

そんな関税交渉の冒頭、イタリアのメローニ首相は、トランプ大統領の決め台詞「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」をなぞり、「私の目標は『西洋を再び偉大に』することです。私たちは一緒にそれを成し遂げることができると思います」と発言した。

トランプ大統領の懐に飛び込むトーク。そしてメローニ首相は、トランプ大統領のローマ訪問の約束を取り付け、EUとの交渉につなげた。

イタリア「askanews」ジャーナリスト アントニオ・モスカテッロ氏:
日米交渉を見て、今後、長い交渉になると思いました。そのためイタリアは今回、2人の個人的な関係をより強いものにする会談にしたのです。

イタリアとの交渉後にホワイトハウスが公開した写真は、赤沢大臣とトランプ大統領との写真に負けず劣らず、良好な関係性を伺わせる1枚だった。

20日、石破首相は出演したテレビ番組で「一方が得して一方が損するみたいなことは、決して世界のモデルにならない。日米交渉をこれからの世界のモデルにしていく」と語った。
2度目の日米関税交渉は、4月中に行われる予定だ。
(「Mr.サンデー」4月20日放送より)