2025年4月6日、福岡市の福岡和白病院の医療搬送用ヘリ「ホワイトバード」が、長崎県の対馬空港を飛び立った後消息を絶ち、壱岐沖で着水して転覆し、搭乗していた患者や医師など3人が死亡した事故。離島医療の充実を掲げ、福岡和白病院でヘリ導入に尽力した医師が、今回の事故を踏まえ考える離島医療とは。
ドクターヘリ適応外の離島患者救う
医療に限界がある離島から高度な設備がある福岡市内の病院に患者を運ぶ際に起きた痛ましい今回の事故を受け、唐津海上保安部は、ヘリの運航を委託された「エス・ジー・シー佐賀航空」を業務上過失致死傷の疑いで捜索した。

国の運輸安全委員会の調査官によると、自動で救難信号を送る機器に破損はなく、海中で信号が弱まった可能性もあるという。関係者の聴き取りに対し機長は、事故当時「機体の後方もしくは上部から異音があった」と話していることが新たに分かっている。

事故から約1週間。福岡和白病院に2008年、ヘリの導入を進めた人物のもとを訪ねた。鹿児島市にある米盛病院の副院長で救命救急センター長の冨岡譲二医師だ。2005年から8年間、福岡和白病院に勤務し、現在もアドバイザーを務めている。

「まずは亡くなられた患者さん、ご家族、医療関係者が本当に残念で悲しい」と事故の犠牲者に哀悼の意を表した冨岡医師。医療搬送ヘリをなぜ導入したのか、当時の経緯を語った。「その頃、対馬の病院では脳外科の頭の手術とか心臓の手術とか心筋梗塞に対するカテーテルの治療とかができなかった。対馬で心臓発作を起こした人と福岡で心臓発作を起こした人の助かる率を比べると、福岡よりも対馬の方が死亡率が数倍高かった。
こうした状況を打開するために『離島や僻地で困っている人、しかもドクターヘリの恩恵を受けてない方のために我々のヘリを飛ばそうじゃないか』ということになった」と振り返る。

当時、既に福岡県や長崎県では『ドクターヘリ』の運用が始まっていたが、国や県が費用を負担する『ドクターヘリ』は原則重症患者が対象で、同じ県内の運用に限られているため、福岡和白病院では軽症者などにも対応でき、壱岐や対馬は長崎市より福岡市の方が近いことなどから『医療搬送用ヘリ』の導入に踏み切った。

当初は、事故を起こしたエス・ジー・シー佐賀航空ではなく、別の会社に運航を委託していた。ではなぜ、委託会社が変わったのか?「医療用ヘリを運航している会社は、全国にいくつかあり、予算や人員、機体の問題など、様々な要件を考慮して、その中で決めている」と冨岡医師は話す。

民間医療用ヘリにかかる費用は一般的に年間約2億円ほど。今回、事故機を運航していたエス・ジー・シー佐賀航空は2024年に福岡・柳川市で2人が死亡した墜落事故をはじめ、過去に計6件もの事故を起こしている。どんなに人道上、有益な医療活動でも、実際に仕事としてヘリに乗る現場の医師や看護師、何より搬送される患者にとってはヘリの安全性が大前提。それでも“総合的に判断”して事故歴の多い会社を利用しなければならなかった理由は他社と比べた際のコストの問題が大きかったのだろうか。

そもそも億単位のコストを、いち民間病院が背負ってまで他県の離島医療を担うことが果たして妥当なのかどうか?今回の事故を機に、専門家などからは長崎県をはじめとするドクターヘリや防災ヘリの運行基準などを改めて見直す必要があるのではという声もある。

鹿児島でも離島医療にヘリ導入
福岡和白病院と同様、冨岡医師は、離島医療を担う鹿児島の米盛病院でも、医療用ヘリ事業を立ち上げに関わっている。「我々が運用している民間医療ヘリコプター『レッドウイング』は、鹿児島県のドクターヘリと全く同じ機体です」と冨岡医師。

米盛病院のヘリは、鹿児島県のドクターヘリが出動できない時の”補完ヘリ”と離島医療に柔軟に対応できる“民間ヘリ”の2つの役割を担っていて、出動回数は年間250件を超えるという。

冨岡医師はヘリの安全性について「毎日飛ぶ前、飛ぶ後、運航クルーの操縦士と整備士が必ず点検していて、更に飛行何時間ごと、何日ごと、1年に1回といった具合に定期の点検を必ず実施しています」と安全運航への取組みにも抜かりはないと強調する。

搭乗者が安心安全なヘリ体制確立を
離島でも高度な医療が受けられるようになるのが理想としながらも、現実的には難しく、やはり医療用へリが不可欠と冨岡医師は話す。「島に全部救命センターを作るかというとそうはいかない。今回の事故は不幸なことだが、これで医療ヘリ事業が縮小せず、むしろこれでいろいろな問題が浮き彫りになったのを正していき、地域の人々に安心安全を届けていきたい」と意欲を見せると共に「ヘリに乗る職員にも安心しもらえるような体制を作っていきたい」と離島医療の充実に思いを新たにしていた。

離島や僻地に住む人の命をつなぐ医療用ヘリ。長く運用を可能にするためにも今回の事故原因解明はもとより、離島医療に欠かせない医療用ヘリの運用について広く議論することが不可欠なようだ。
(テレビ西日本)