アメリカのトランプ大統領が打ち出した関税措置を巡る動きについて、株価が乱高下するなど世界経済の混乱を招いている。
相互関税発動も半日で上乗せ分90日間停止
『関税』は輸入品に対して課される税金のことで、『相互関税』とは『貿易相手国と同じ水準の関税を課すこと』をいう。

今回、トランプ大統領が打ち出した相互関税は、すべての国と地域に一律10%の関税をかけた上で、貿易赤字国に対してはさらに関税を上乗せするというもの。

日本はアメリカにとって貿易赤字国で、日本に対しては計『24%』の追加関税が日本時間の4月9日午後から発動されたが、たった半日でまた状況が変化した。

トランプ大統領は「報復措置を行わなかった国に対して、相互関税の上乗せ分を90日間停止する」と発表した。つまり90日間は日本には「一律10%の関税」が課せられることになる。

政治的交渉によって刻一刻と状況が変化していったり、自動車は相互関税の対象外など、品目によって関税が異なっていたりするので複雑だ。
「日本酒や焼酎に付加価値ある」
取材を進めると、その複雑さが混乱を招いている要因とも感じた。熊本県内企業からも問い合わせが相次いでいるという、貿易関係の支援機関・ジェトロ熊本に話を聞いた。熊本県産品を海外のバイヤーに売り込むなど、中小企業の海外展開の支援を行っている。

ジェトロ熊本の水野桂輔所長は「一番多いのが『自社の関税が米国でいくらになってしまうのか』とか、そういったご相談がある。球磨焼酎の事業者からも問い合わせがあり、先行きが見えない不安が皆さんから感じられる」と話す。

水野所長は、2024年12月に日本の『伝統的酒造り』がユネスコの無形文化遺産に登録されたことを追い風に、日本酒や球磨焼酎を『さらにアメリカ市場に売り込もう』と、意気込んでいた矢先だったと話す。

水野所長は「まさに世界にこれから出る、アメリカこれから、というときに関税が上がって水を差されることになったが、それでも付加価値が日本酒や焼酎にはあると思うので、少しくらい価格が上がっても、現地の消費者に受け入れてもらえるような戦略や支援をジェトロとしてもやっていきたい」と話した。

日本時間の9日に発表されたトランプ大統領の『90日間停止』という発表を受けて、ジェトロ熊本の水野所長に9日朝に話を聞くと、「トランプ大統領が次に何と発言するか…冷静に状況を見る必要がある。10%のベース関税は発動されているので、これまでよりもアメリカでの販売価格が高くなってしまうのは目に見えている。他の輸出先を探すなど多角化していくための支援を、ジェトロとしても取り組んでいきたい」と話していた。
日本酒メーカーには輸出業者からメール
一方、既に影響が出始めている酒蔵もある。熊本・山鹿市の『千代の園酒造』は約20年前からアメリカへ日本酒や米焼酎を輸出している。

現在は3つの銘柄を月に1度から2度、約150ケース単位でアメリカ向けとして出荷しているが…先日のトランプ大統領の相互関税の発表を受けて早速、輸出業者からある連絡が来たという。

千代の園酒造の本田雅晴社長は「『すでに出荷しているものは倉庫でしばらく輸出を止めておいて様子を見たい』と。そして、そのあとの輸出の注文はしばらく見合わせるとメールが来た」と話す。

千代の園酒造は日本国内の輸出業者を経由して、アメリカの輸入業者のもとへ商品を送り、現地のレストランや小売店などに商品を流通させている。

本田社長は「関税が上がった分だけアメリカでの販売価格も上がってくるし、(アメリカの輸入業者からすると)利幅が少なくなる、あるいは赤字になるかもしれないということで、このままでは販売できないと判断したのだと思う。輸出をするのはこういうリスクもあるというのを今回、認識させられた」と話す。

千代の園酒造は台湾やカナダにも自社商品を輸出しているが、市場規模はアメリカがトップ。千代の園酒造全体の年間売上高の5%ほどを占めるという。本田社長は「ひょっとしたらもっと関税が上がるかもしれないし、下がるかもしれないし、先が見えない状況」と肩を落とす。
農畜産物や工業品も先行きは不透明
他の品目だと、熊本県産の黒毛和牛も多くアメリカに輸出されている。JAグループ熊本でつくる熊本県農畜産物輸出促進協議会によると、2024年度に熊本から海外に輸出された農畜産物の総額は約34億円。このうち和牛が25億円と7割以上を占める。

そのなかでアメリカへの輸出は約2割。台湾、香港に次ぐ3番目の市場規模という。協議会の担当者は「まだ先行きは不透明だが、輸出が滞ると県内の生産者が苦境に立たされるので、新規輸出国を開拓するなど、他の販路を探る必要が出てくるかもしれない」と話す。

このほか自動車関連産業など、工業系も影響が懸念されている。熊本県工業連合会によると、「情報収集の段階」とのことで、本格的な影響が出始めるのはこれからとなりそうだ。

今回の関税政策について、熊本県や熊本市、県内の各商工会議所、金融期間などでは特別相談窓口を設けて対応している。
(テレビ熊本)