世界に関税攻勢を仕掛けているトランプ政権は、関税は「輸出国が負担するもの」で「米国民に負担を負わせない」とミスリードしているのではないか。
「関税は減税」大統領上級顧問の主張にCNNが疑念
CNNインターナショナルは1日、次のような文章をフェイスブックに掲載した。

「ホワイトハウス補佐官のピーター・ナバロ氏は日曜日(3月30日)、ドナルド・トランプ米大統領の関税によって今後10年間で6兆ドル(約900兆円)の収入が得られると予想していると述べた。これは、米国史上最大の増税となる可能性がある。
インフレーションを調整した場合でも、この金額は第二次世界大戦の戦費を賄うために1942年に導入された増税の3倍に相当する。
しかし、トランプ大統領の通商および製造業担当上級顧問であるナバロ氏は、これは増税ではなく減税だと主張している。これは、関税はアメリカの消費者が支払うのではなく他国の企業や国が支払うものだというトランプ政権が繰り返し主張している信条を反映したものだ。
しかし、ほとんどの経済学者は、アメリカが課す関税は外国ではなく、輸入品の価格上昇という形でアメリカの企業や消費者が支払っていると述べている」
WATCH: @RealPNavarro says "tariffs are tax cuts" as he defends Trump administration's upcoming tariffs, set to take effect on April 2nd. pic.twitter.com/r6dflyhXKf
— Fox News Sunday (@FoxNewsSunday) March 30, 2025
ナバロ氏のFOXニュースの番組での発言で、その前提として同氏は、関税についてこうとも話している。
「関税は減税であり、関税は仕事を増やし、関税は国家安全保障にもつながる。関税は米国にとって偉大な効果をもたらし、米国を再び偉大にする」
つまり、関税は輸出国が負担するものであるため、増額されるとその分、米国民の負担する税金が軽減され、減税と同じメリットがあると言っているようなので、CNNがフェイスブックで疑念を投じたのだった。
関税は“アメリカ国民にツケが回る”
いうまでもなく、関税は商品を他国から国内に持ち込む企業や個人に支払いの義務があるものだ。そのコストは消費者の購入価格に転嫁されることが多く、究極には輸入国の国民が負担することになるはずなのだが、ハーバード大学で経済学博士号を取得したナバロ氏がそれを知らないはずがない。それをあえて「減税」と主張したのは、関税の増額に伴って物価が上昇し米国民の生活を圧迫することを予見させたくなかったからではないかと考えさせられてしまう。

実は、ナバロ氏が仕えるトランプ大統領は、かねて関税は輸出国が負担するものというレトリックを駆使しており、政権第1期の2019年5月9日に中国からの輸入関税を10%から25%に引き上げた際、ホワイトハウスで記者団に対して次のように語っていたのが記録に残っている。
「関税はほとんどが中国によって支払われている。ちなみに我々ではない」
しかし、関税は間違いなく米国国民にツケが回るのだ。
Trump’s tariffs could cost households an extra $3,800 thus year: study https://t.co/ynJwz7mrAc pic.twitter.com/jEvSZOUkcn
— New York Post (@nypost) April 3, 2025
3日の米国の大衆紙ニューヨーク・ポスト電子版は「トランプの関税によって、1世帯当たりの追加出費が3800ドル(約55万円)増加する」という記事を掲載した。
これは、イエール大学の「予算研究所」が発表したもので、トランプ大統領が9日に発表した相関関税を取り入れた後、米国の平均実効金利は22.5%に急上昇し、1909年以来の最高水準に達すると分析する。その上で「2025年のすべての関税による物価水準は、短期的には2.3%上昇し、2024年の世帯あたりの消費者平均損失が3800ドルに相当する。所得分配の最下位の世帯の年間損失は1700ドル(約25万5000円)になる」と試算した。
ニューヨーク・ポスト紙は、米国の数少ないトランプ支持の日刊紙として知られるので、ホワイトハウスもこの試算は「フェイクニュースだ」と捨て置くわけにも行かないだろう。

トランプ大統領の強引な関税攻勢に、輸出国はなす術がない有様だが、ここは米国の国民へ呼びかけを行ってみてはどうだろうか。
「関税アップは勝手ですが、それはあなた方が払うのですよ」と。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】