国内の花粉症患者は約3000万人といわれるが、長崎に「花粉に悩まなくて済む」といわれる夢のような島がある。「避粉地ワーケーション」の体験ツアーが行なわれ、花粉症に悩まされている記者が同行した。
“花粉症とは何ぞや?”花粉とは無縁の「的山大島」
長崎にある「花粉に悩まなくて済む」といわれる島は、平戸市の離島「的山大島(あづきおおしま)」だ。

平戸港からフェリーで40分。人口約900人の小さな島。

島民に「花粉症ですか?」と聞くと「違います」 「症状が出たことはない」と言い切る。平戸市企業立地推進室の小山健二班長は「おそらく島の大多数の人が『花粉症とは何ぞや?』と言いますね」 と話すくらいだ。

的山大島は「避暑地」ならぬ、花粉を避ける「避粉地(ひふんち)」として全国から注目されていて、島はこの特性を町おこしや企業誘致につなげようとしている。

取材を担当した記者は花粉症患者。この時期は鼻水や目のかゆみ、のどの違和感で苦痛の毎日だが、的山大島を訪れた瞬間から症状が治まって驚いたという。

今回、島を訪れたのは、的山大島での「避粉地ワーケーション」に同行するためだ。
「避粉地ワーケーション」=花粉から解放され、観光を楽しみながら仕事をしてもらおうという試み
平戸市は社員の福利厚生、保養地の拠点としての可能性を探ってもらう狙いがある。
上陸5分後に変化はやってきた
3月に行われた島「避粉地ワーケーション」。

体験するのは普段は東京や福岡で働くIT企業の社員4人だ。的山大島へワクワクしながら向かった。
特に辛い花粉症の症状に悩まされているのが三木健二さんだ。

「目がかゆくなって鼻水が出たり詰まったり、特に喉がひどいです。 どれだけ体調が変わるのか、とても期待しています」と話す。
期待を胸に島に降り立つと、島民の歓迎が待っていた。

「ようこそ避粉地大島へ!」 の文字が目に飛び込む。

上陸からわずか5分後、マスクを外した三木さんに異変が…
三木健二さん:びっくりした。空気がいい。目のしょぼしょぼ、ぼやけた感じがなくなって、はっきりと景色が見える。鼻もすーっと通っているし、こんなに違うんだな。
その効果を身をもって感じ、驚きを隠せなかった。
島での飛散量は長崎市の1割程度
的山大島ではなぜ花粉症の症状が治まるのか?

市によると、島にはスギやヒノキはほとんど生えておらず、都市部に比べて生活圏の花粉は大幅に少なくなっている。
過去の調査では、的山大島の花粉の飛散量は長崎市と比べて、7分の1から10分の1程度であることが分かっている。

この強みを企業誘致につなげようと、平戸市は島内の建物をリノベーションし、Wi-Fiやパソコンモニターなどを整備した。サテライトオフィスとして利用する場合は、交通費や宿泊費などを4分の3、15万円まで補助する事業を2024年度にスタートさせた。 (※30泊未満の場合。諸条件あり)
IT企業の4人もこの制度を利用し、1泊2日の「お試し体験」として島にやってきたのだった。

平戸市企業立地推進室 小山健二班長(的山大島出身):大島に来たいと言ってくれる企業が現れたことに大変うれしく思っている。 我々にとって普通のことが企業にとっては特別なことだと改めて認識している。心身ともにリセットする、いい保養地という位置づけで、避粉地・大島が生かせると思っている。

平戸市の黒田成彦市長は、的山大島の魅力をPRするために島に駆け付けた。「温泉水は非常に泉質がよく“流してもなぜ落ちないのか”というくらいぬるぬるで気持ちいい」など、企業に“リピーター”になってもらいたいと、観光面の魅力も伝えた。
4人が感じた“花粉症の症状がない”ことのメリット
4人は仕事のかたわら、魚釣りやまち歩きを楽しみ、思い思いの時間を過ごした。

エンジニアの古賀太一さんは「地元の魚とか、とてもおいしかった。普段話せないことが話せてリラックスできている」 と話す。花粉症の症状がないことの快適さはもちろん、自然に触れる楽しさ、実感する思いは、体験した人しかわからない。

三木健二さんも「こんなに花粉症の症状が全く消えてしまうというのはびっくりだ。実際に体験した人じゃないと分からないと思う。僕の周りには部下にも花粉症がいる。この時期はこちらでワーケーション、仕事をする機会を定期的にできたら会社に提案しようと思う」と話す。
「避粉地」を町おこしにつなげたい
的山大島は1次産業以外の雇用の場が少ないことから、島を離れる若者が後を立たない。

島の人口は1980年には2500人を超えていたが、現在は約900人にまで減っている。
避粉地としての強み=「島の当たり前」を観光資源として売り出していこうという状況に、島の子供たちも希望を持っているようだ。

大島中学校1年の大島諒子さんは「大島は人が少なくて将来どうしようかと不安があったが、大島に住んでいてよかったなと思った」と、自分たちが住む島の魅力を再認識したようだ。
平戸市企業立地推進室の小山班長は「平戸の外から人が来る。これが大きな経済効果になるし、 行き来を通して地域と企業が結びついて、その先にあるのが企業誘致だと思っている。少しずつ時間をかけて、いい関係になればと思っている」 と話す。

島の特徴を生かし、地域経済を盛り上げようと「避粉地」の取り組みは続く。
(テレビ長崎)