お金ではなく“どんぐり”を預ける銀行
キレイな石や変わった木の実、夏にはセミの抜け殻など、子どもには特別なものに見えるのか、拾い集めてコレクションしたりしている。
どんぐりもその一つだが、悩ましいのが拾ってきた後の処理。子どもには残念だが捨ててしまうということも…。
しかし、そんな拾ったどんぐりを預ける場所があるのをご存じだろうか。高知県・大川村(大川村ふるさとむら公社)に“本店”を構える「どんぐり銀行」で、今、ツイッターで話題となっているのだ。

「どんぐり銀行」とは、名前の通り、お金の代わりにどんぐりを預けることができる“銀行”。
どんぐりの種類は問わず、自然に落ちた“どんぐり”のみ預けることが可能で、虫食い穴やヒビが入っているどんぐりは対象外なので注意が必要。

どんぐりの預け方法は、本店に郵送するか、全国39カ所にある「出張所」へ届ければOK。どんぐり1個を1D(ドングリ)と数え、実際の銀行と同じように通帳「どんぐり銀行通帳」を発行(手数料として税別100円)できるという。
年に1回ある払い戻し期間中に、100Dにつき、どんぐりの苗木1本と交換することができる。なお、この苗木は自分で受け取って育てるもよし。自分の元で育てることが難しくても、本店のある大川村で代替植樹してもらうことも可能だ。
なお今年の払い戻し期間は既に終了しており、次回は、来年の6月頃に予定しているという。

拾ったどんぐりを預けるという、この遊び心ある仕組み。
どういった経緯でこの「どんぐり銀行」は設立されたのだろうか? 実際にどれくらいのどんぐりが届けられているのだろうか? どんぐり銀行大川村の近藤京子さんに、詳細を伺ってみた。
どんぐり1個から山を守ることができる
ーーいつ、どういった経緯で設立された?
平成8年に、香川県が行っているどんぐり銀行活動に共感して、水源地の大川村でも活動しようということになり、香川県にお願いをして同じようなやり方で、どんぐり銀行を大川村でも始めました。

ーー木の実がたくさんある中から、なぜどんぐり?
どんぐりは身近にあって、「どんぐり一個から山を守ることができるよ」という気持ちをもってくれたらいいな、のきっかけづくりから始まりました。
ーー払い戻しする苗木は、どういったもの?
苗木の種類はクヌギ。大きさは約40センチぐらいの長さの苗木になります。大川村では、一年に一回、本数についてはその年でも違いますが大体200本ぐらい植えてます。

多い時は1年に100万個!“預金者”は3~4万人
ーー毎年どれくらいのどんぐりが集まる?
本店では、多い時は1年に100万個集まる時もありました。預金者(どんぐりを預ける人)は、3~4万人程でしょうか。
現状は、その後も預金者は増えているだろうけれども、細かい部分は把握できていません。
ーー新型コロナウイルスの影響で、預けるどんぐりの数に変化はあった?
どんぐりが集まるのはこれからなので影響があるかどうかはわかりませんが、ツイッターから反響があり、「通帳を作るには?」との電話がかかってきていて良かったと思います。
預けたどんぐりのその後は…
ーーなぜ払い戻す苗木は、クヌギなの?
どんぐりであるクヌギの形状が丸く、他のどんぐりとの見分けがつきやすい実であることが挙げられます。
他にも、クヌギはいろいろな所に植えても、生態系に害がなく、苗木が育てやすいこと。そして、育った後も、シイタケの原木にもなったりするなどの点が挙げられます。

ーー苗木はクヌギのみだが、クヌギ以外の預けたどんぐりのその後は?
山などの自然にかえしたり、飾ったり絵にしたりするなどの工作用に活用したりしています。
ーーどんぐりを預ける際の注意点は?
どんぐりには水分があるのでビニール袋に入れて密閉してしまうと、カビができてしまうことがあります。できたら箱にそのまま入れるとか紙袋に入れて送るようにしたら、どんぐりが良い状態で届きます。
ーー「どんぐり銀行」設立で、代替植樹される大川村の様子は変化した?
本店がある「白滝の里」は昔鉱山跡地で当時ははげ山でした。閉山になり山には杉やヒノキを植林がほとんどですが、平成6年、早明浦ダム貯水率が0パーセントになり、下流の香川県の生活ができなくなる事態になりました。
その時に、下流域の人達が水源地である大川村の山を守ろうと動きだし、植林を伐採し、そこに保水力のある苗木を植えて山を守るということの活動が始まりました。
その成果は、はげ山だった場所に、植物や動物・昆虫類が帰ってきたことかとも思います。

ーー今後の目標は?
一人でも多くの方が、どんぐりから環境に関心を持ってくれれば良いなと思っています。それと、どんぐり銀行活動をしている大川村を知ってもらい足を運んでもらいたいです。

大川村の「どんぐり銀行」は、早明浦ダムの危機をきっかけに、山を守ろうと考え、香川県の「どんぐり銀行」を参考に開始したという。
この銀行のシステムならば、たくさん拾ってしまったどんぐりを無駄にすることなく、集めた成果が苗木という形で見えることで達成感もある。通帳にたまっていくのも子どもは楽しいはずだ。拾う子どももそのどんぐりの対処をする大人も、どちらも笑顔になれる仕組みだろう。
手元にどうすればいいのか迷ったどんぐりがあるならば、銀行に預けてみるのはどうだろうか。山を守る一助になることだろう。
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