長崎・佐々町発注の公共工事をめぐる2件の官製談合事件で、古庄剛佐々町長が逮捕・起訴された。背景に何があったのか取材を進めると、入札体制のありかたなど課題が見えてきた。
町長が2件の公共工事で「最低制限価格」漏らす
古庄剛容疑者は3月8日に「官製談合防止法違反」と「公契約関係競売入札妨害」の疑いで逮捕された。

29日には別の入札でも再逮捕され、31日に送検された。

2024年6月、佐々町立図書館の照明LED化工事の指名競争入札をめぐり、佐々町の元会社員山口情二容疑者(62)に、落札に必要な基準となる「最低制限価格」に近い金額を伝え、佐世保市原分町の会社役員中島幹人容疑者(68)が代表を務める建設会社に不正に落札させた疑いがもたれている。

古庄容疑者は同様の手口で、2024年7月に実施された町内の団地の給水管改修工事をめぐる指名競争入札でも、別の建設会社を落札させたとして逮捕・起訴されている。

佐々町の中村義治副町長は、2度にわたる町長の逮捕を受け「度重なる逮捕は町政に対する信用を著しく失墜させるものである。大変遺憾であり深くお詫びを申し上げる」と町民へ謝罪した。
町民は「いい方面で注目されればいいのに情けない」「まだまだ出てきたら大変、ないと思っても何回も出てくる…」と話し、全容解明を求める声が上がっている。
空白の「2時間」に漏らしたか
今回の佐々町の官製談合事件は2件の指名競争入札が関わっている。取材を進めると入札の仕組みに問題があることが分かった。

2024年6月に行われた「図書館の照明LED化工事の入札」。この日は古庄容疑者と建設課長、課長補佐、教育委員会の職員の4人が参加。午前9時前に「最低制限価格」を町長室で非公開で決めた。
入札は午前11時10分からで、最低制限価格決定から約2時間後だ。警察は古庄容疑者がこの時間に最低制限価格を漏らしたと見ている。
専門家「入札の仕組みに不備」
スケジュールは日によって違うが、佐々町は長年にわたりこの枠組みで入札を行っている。

独占禁止法を研究する長崎大学の井畑陽平教授は、「仕組みに不備がある」と指摘する。
長崎大学経済学部 井畑陽平 教授:町長に最低制限価格を決める権限が集まっていたのが疑問が残るところだ。

さらに井畑教授は、「入札を担当する職員が少なく、権限が分散されていないこと」も問題視している。佐々町では工事費の設計から入札までの事務を同じ課の職員が行っていて、不正が見えにくい環境だった。
井畑陽平 教授:人手が少ないとなると入札担当はある特定の人が行うことになる。仲良くなれば仕事がもらえるかもとなりかねない。

一方で、町には人員を増やせない事情もあった。

町議会の専門委員会では、事件の前から入札の事務作業を工事に関わらない職員に担当させることを検討していたが、「役場の職員不足」で実現できていなかった。

接見した弁護士によると、古庄容疑者は官製談合は認めているが「金品の授受は一切受けていない」と、贈収賄については否定している。
井畑教授は「小規模な自治体を運営するにあたり、公共工事を通じて地元の経済振興に配慮しなければいけない事情があったのではないか」と指摘する。
井畑陽平 教授:人口が少ない、過疎化が進んでいるエリアになると、町が発注する工事・仕事そのものが地域の生命線ということもある。地元に根を張って仕事をしている中小企業を応援したいがゆえに、競争入札のプロセスを傷つけてしまったということはありうる。

今後、不正を防ぐためには第三者による評価の導入が必要といえる。
井畑陽平 教授:入札監視委員会など関係ない第三者に「入札をこんな風に行ってきたが適正か、妥当か」と判断を求めるのもあっていい。
町は入札の仕組みを変更 町長は辞職へ
佐々町では事件以降、再発防止策として最低制限価格を入札直前に事業者の前で決めることにした。井畑教授が指摘する「第三者の評価」を取り入れた構造だ。

一方、古庄容疑者は1日、代理人弁護士を通し、図書館の照明をLED化する工事の指名競争入札をめぐる逮捕事実を認めるとともに、「町民の皆様に心よりお詫び申し上げる」とするコメントを発表した。代理人弁護士は「古庄容疑者は4月下旬にも町長を辞職する意向だ」と、明らかにした。
(テレビ長崎)