能登半島地震から1年3カ月ぶりに民宿を再開させた石川県能登町の夫婦を石川テレビの稲垣真一アナウンサーが訪ねた。
能登町で民宿を営む国際カップル
稲垣アナ:能登町矢波に来ています。潮風が心地良く吹くこの地で民宿を営む夫婦がいます。地震を乗り越え、ようやく店の再開にこぎつけた2人にこれまでとこれからを伺います
この地で民宿を営むベンジャミン・フラットさんと妻の船下智香子さん。ベンジャミンさんの故郷オーストラリアのシドニーで出会った2人は結婚し、1997年に能登町で「能登イタリアンと発酵食の宿ふらっと」を開業した。

2012年からは現在の場所に移転。シェフのベンジャミンさんが地元に伝わる発酵食品を使った独自の「能登イタリアン」を味わえる宿として、全国から宿泊客が訪れていた。しかし能登半島地震は2人の運命を変えた。地震で宿は屋根や壁などに被害を受けたが倒壊するほどのダメージは受けなかった。

智香子さん:1月4日に(支援者が)物資をトラック満タンにに持ってきてくださった。道もまだ全然ダメだったのに。そうやって届いたものを私たちが(住民のもとへ)お持ちすると、『これが足りない』とかいう話を聞いて、また他のNPOの方に相談したら また持ってきてくれたりして。自然と(支援)拠点となっていったという感じ。拠点というほどじゃないけど、やっぱり人のつながりもあってたまたまウチに持ってきて下さった方がいたからできたということですよね
地震後の新たな使命「のとサポ」の設立
支援物資の配送を通じて住民の皆さんと向き合う日々。その中で、2人にはある思いが芽生えた。
智香子さん:お家が倒れて輪島塗も何もかも捨てるという話を聞いていると『私たちどうすればいいんかね』と能登には豊かな食も伝統もあるし、これでなくなってしまうんやろかと心配してたんですよ。どうやって食とか伝統を未来につなぐことができるのかと、私たちにできることを考えて輪島塗をレスキューするプロジェクトを始めた

地震発生からわずか1カ月。2人は能登半島地震からの復興を様々な形でサポートするため「能登地震地域復興サポート」通称「のとサポ」を設立した。地震で行き場を失った輪島塗を引き取り、必要な人へ受け渡す事業やベンジャミンさんの料理の腕を生かした避難所への炊き出しなど様々な業務を行ってきた。

稲垣アナ:持った感じがすごく軽いし、実用的でもあるし、美しいところが魅力的ですよね。
ベンジャミンさん:輪島塗は持った時に冷たく感じない。握手した時のような手触りがある

智香子さん:全部つながっとるからね。お祭りとか冠婚葬祭、輪島塗にお料理。そういうことが全て一つだから、どれが欠けても上手くいかない
稲垣アナ:輪島塗レスキューの活動を早く気付いて始めることができて良かったですか?
智香子さん:私たちを信頼して預けてくれる方々がいらっしゃってこれが保存されるということなので、私たちがというよりは『これを託して未来につなげたい、それに協力したい』と言って下さる地元の方の気持ちが尊いと思います
再開への決断と現状
4月1日に営業再開を決めたふらっと。しかし…
智香子さん:壊れた露天風呂は(まだ未修理)
稲垣アナ:これはすごい絶景ですね
智香子さん:これ石が全部ゴロゴロと下に。まだ直す人が見つかっていないから
稲垣アナ:全部が直る前の今、4月に宿を再開させようと思ったその思いは
智香子さん:道も何とかつながって、場所によってはゆったりしてもらえる場所もあるし、今の能登を見てもらうっていうことがすごく意味があると思うんですよね

智香子さん:お客様にも『やっぱり能登っていいよね』っていう、いい所も見ていただいたり、能登の現状『皆さんこんなことに困っている』っていうことも実際あるわけなんで。それが完全になくなることはないし、それを見てもらってサポート、応援してもらうってことも大事だと思う。ね、来てほしいね、お客さんに
ベンジャミンさん:そうですね
発酵食文化の継承と未来への希望
1年3か月ぶりの再スタート。2人には伝えていきたいものがある。
智香子さん:自家製のいしりです。うちの父が『いしりの匠』ということで、それを伝承して私たちがそれを受け継いで今作ってます『能登イタリアンと発酵食の宿ふらっと』なんで、発酵食をお好きな方が多いんですよね。シェフで調味料も作っているというのは珍しいじゃないですか
稲垣アナ:ベンさんはオーストラリアから来てこの発酵食のどんなところが魅力なんですか?
ベンジャミンさん:面白いもの。自分の料理で使いたい。使わないで食べると、『いしりちょっと入れたい』って思う

智香子さん:息子もいしりを一緒に漬けてきてるんですよ。今東京にいて、震災の時はここにいなかったけど震災の後帰ってきて『やっぱり能登に帰ってこようかな』と言ってくれて。息子も帰ってきてくれるから心強い。私たちの夢が『次の世代につなぐ』ということなんで、自分たちの息子がやってくれるというのは望みだったから、それはすごくうれしい

稲垣アナ:これからこのふらっとをどんなような宿にしていきたいですか
智香子さん:能登らしさを伝えるというか、感じてもらえる宿にしたいってずっと思っていて、それは食であったり、暮らしであったり、人であったり、いろんな要素なんですけど、それをお伝えできれば、また感じてもらえたらいいなと思っているんで、それを続けていきたいと思います
(石川テレビ)