「万能細胞」と言われるiPS細胞の誕生からおよそ20年。

大阪に最先端の研究施設が完成し、1日から本格的に稼働している。

iPS細胞による治療は身近になるのか?

iPS細胞の最先端の研究施設
iPS細胞の最先端の研究施設
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■iPS細胞を使った「究極の治療」 患者自身の細胞からオーダーメードのiPS細胞を作る

記者リポート:こちらのガラスの奥、この装置で今まさにiPS細胞が作られているということです。

大阪・中之島に完成した新たなiPS細胞の研究施設。「Yanai my iPS製作所」。ずらりと並ぶのは最新のiPS細胞の培養機器だ。

ここで一体どんな研究が行われているのか?

京都大学iPS細胞研究財団 塚原正義研究開発センター長:難病や希少疾患iPS細胞じゃないと本当に治せない、自分の細胞じゃないと治せない患者のためにやっていきたい。自分の細胞から(iPS細胞を)作るというのは究極の治療になるかと。

iPS細胞を使った「究極の治療」とは、患者自身の細胞からオーダーメードのiPS細胞=「myiPS(マイ・アイピーエス)細胞」を低コストで作り、多くの人に役立てる計画だ。

「myiPS細胞」を低コストで作る
「myiPS細胞」を低コストで作る

■世界初iPS細胞から角膜の細胞をつくり視力を回復させる手術を成功

そもそもiPS細胞は…

山中教授(2007年):こういう技術を世に出してしまうということは相当責任を持ってやっていかないとだめだ。

2006年京都大学の山中伸弥教授が世界で初めて作製に成功した。

誕生以来、「再生医療」を中心に様々な分野で研究が続けられてきたiPS細胞。

大阪大学大学院の西田幸二教授は、世界で初めてiPS細胞から角膜の細胞をつくり視力を回復させる手術を成功させた。

大阪大学大学院西田幸二教授:iPS細胞から目全体の細胞を作ることができるような技術を我々開発することができて、その一部を使って『角膜上皮』を作ったと。

iPS細胞から目全体の細胞を作る
iPS細胞から目全体の細胞を作る

■「角膜シート」の作成に10年かかるも失明のおそれある患者への移植成功

西田教授はこの「角膜シート」を作成し、失明のおそれがある患者への移植を成功させたのだ。

大阪大学大学院西田幸二教授:安全性の面もそうですし、有効性もすべての患者さんで視力改善が得られたと。角膜、目の構造を作るのに10年かかった。

この移植を受けたAさん。移植後の経過は良好で、視力も0.06から0.5程度まで回復した。

角膜の移植手術を受けたAさん:このまま失明するのかなって感じでいた。白い霧がかかっている感じ。明るさとか、遠い文字とか見えなかったのに(手術後)見えるようになったので明らかに違った。

「角膜シート」を作成
「角膜シート」を作成

■手作業だった細胞の培養を自動化 作製時間は数週間で費用も100万円程度

実用化の研究が進むiPS細胞ですがまだまだ課題も…

現在、iPS財団が提供しているiPS細胞は、移植しても拒絶反応が出にくい特別な細胞を持つ人から製造しているが、4割程の人しか適応しない。

一方で、患者自身の細胞からiPS細胞を作るにはおよそ半年かかり、5千万円ほどの費用がかかる。こうした課題を解決するために作られたのが1日から運用が始まった大阪の研究施設だ。

これまで手作業だった細胞の培養を、最新鋭の機械によって自動化。作製時間は数週間になり費用も100万円程度まで抑えることを目指すということだ。

京都大学iPS細胞研究財団 塚原正義研究開発センター長:細胞医療が皆さんの手に届きやすくなるのは間違いないと思う。今までの手作業で個人に依存していたものが自動化することで、本当の意味での普及につながるのかなと。

人への臨床研究は2028年を目指していてiPS細胞による治療が身近になる日がくるかもしれない。

費用も時間も削減に
費用も時間も削減に

■「自分のiPS細胞を自分で使っていく。医療の基本的な理念だと思う」

iPS細胞を活用した治療の研究の一部が以下だ。

▼脳・神経→パーキンソン病など
▼免疫→卵巣がん
▼軟骨→膝関節軟骨損傷
▼目(網膜・角膜)→加齢黄斑変性など
▼心筋→虚血性心筋症など
▼血液→血小板減少症など

全身にわたり、再生医療の分野での活用が期待されそうだ。

ジャーナリスト 鈴木哲夫さん:僕が取材をずっとしてきているお医者さんの考え方のなかに、薬や移植って外からもらうけど、人間の命や健康は自分自身で治していくもの、というのがありました。今回の治療はまさにそうですよね。自分のiPS細胞を自分で使っていく。免疫力とかね。これなんか医療の基本的な理念だと思うんです。そういう意味でも期待できるんじゃないですか。

iPS細胞を活用した治療の研究
iPS細胞を活用した治療の研究

■「自分の細胞を使えばすべてオッケーではなく自分を傷つけてしまう可能性もある」

今まで治療方法がなかったものも治療につながることがあるかもしれない一方で、関西テレビの加藤デスクは、細胞医療は未開の分野だと話し、「自分自身の細胞を使用することで自分を傷つけてしまう可能性もある」と指摘した。

関西テレビ 加藤さゆり報道デスク:医療関係者はすごくこの分野に注目していますし、今回大阪にできたので、かなり注目度高くなっています。細胞医療は未開の分野なので、実際に運用していく中で、いろんな課題が見つかってくるかもしれないとおっしゃっていました。

というのも、自分の細胞を使えばすべてオッケーかというと、そういうわけでもなくて、自分の細胞が自分を傷つけてしまう可能性だってあると。だから、そういったデータ収集も、こういう研究施設があることで進むんじゃないかと期待も込めておっしゃっていましたね。拒絶反応が少なくなるっていうわけではなくて、まだ分からない部分もあるんですね。

どういう課題があるのかということにも目を向けながら、 iPS細胞の幅広い活用を期待したい。

(関西テレビ「newsランナー」2025年4月2日放送)

「まだ分からない部分もある」
「まだ分からない部分もある」
関西テレビ
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