100年以上のブランクからよみがえった「薩摩切子」　復元から40年　次世代への継承見据える職人たち

鹿児島を代表する工芸品のひとつ「薩摩切子」。実は幕末から100年以上の空白を経て現代によみがえった過去がある。2025年で復元から40年。それを支えてきた職人たちはいま、技と思いを次の世代にバトンタッチすることを見据えている。

100年の空白を超えて

薩摩切子の歴史は江戸時代末期、第11代薩摩藩主・島津斉彬（1809～1858）の時代にさかのぼる。ガラス工芸の製造が盛んに行われたこの時代に、美術工芸品として誕生したが、斉彬の急逝と幕末・明治の動乱の中で、その歴史はいったん途絶えてしまった。

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薩摩切子の復元事業が始まったのは100年以上の空白を経た1985年（昭和60年）。鹿児島市磯に、ガラスの成形から加工まで一貫して手がける薩摩切子の工場「薩摩ガラス工芸」が設立された。そして2025年（令和7年）、薩摩切子は復元から40年の節目を迎えた。

復活を支えた職人の思い　

薩摩ガラス工芸で復元当初から携わった職人の一人、中根櫻龜さん（63）は、今もガラスを削り続けている。中根さんは色鮮やかな薩摩切子を手にとって、「これは『花見盃』といって、器で花見をしてもらおうというくらい桜の花を散りばめた器」と教えてくれた。

兵庫県出身の中根さんは、専門学校でガラス工芸を学んでいたが、卒業間近に校長に勧められ薩摩切子の復元に携わることを決意した。一度は途絶えた歴史を復元するため、中根さんが頼りにしたのが、「40年使い込んだから傷んでいる」と見せてくれた古びた図鑑だった。

「当時残っていた薩摩切子の大半は色々な美術館の中に入ってしまって、すぐ手に取って見られる状況ではなかった。図録の写真を見て、それを忠実にまねるところから技術を学んだ」と中根さんは当時を振り返る。

中根さんが、古びた図録を頼りに試行錯誤を重ねて40年前に作り上げた器がある。魚のうろこのような「魚子（ななこ）」と呼ばれる文様が特徴的な逸品だ。「『魚子』が綺麗に彫れるようになったら一人前。久しぶりに見ると、これは大変だったろうなと思う」中根さんは当時の苦労を思い返していた。

伝統の継承と進化　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

中根さんは薩摩切子の復元だけでなく、進化にも取り組んできた。「二色被せ」と呼ばれる技法は、2色のガラスを使用することで、薩摩切子の特徴であるグラデーションに変化が生まれ、その美しさがさらに際立つものだ。

2001年10月放送の鹿児島テレビ「ナマ・イキVOICE」では、進化に取り組む中根さんを紹介していた。「いつも薩摩切子は私に課題をくれて、一つの課題をこなすと次の課題をくれる」と語る中根さんの姿勢は今も変わっていない。薩摩切子の伝統を守りつつ、新たな表現を生み出す原動力となっているのだ。

中根さんが圧倒された薩摩切子「脚付蓋物」　

他の職人たちが帰った夜の工場に、黙々と作業に打ち込む中根さんの姿があった。中根さんは、「人から話しかけられないこの時間が『無』になりながら物と向き合えるとてもいい時間。江戸時代の職人と対話するその時間がとても重要。物を通して、頭の中でいにしえの職人と会話している」と語る。

そんな中根さんにとって、いにしえの職人が手がけた特別な存在の作品がある。薩摩切子の三大名品の一つ、脚付蓋物（きゃくつきふたもの）だ。蓋や器はもちろん、それを支える透明な脚にも複雑な文様があしらわれている。中根さんは、「鹿児島で初めて見たのがこの切子。この存在感に圧倒されたのが今でも思い出される。これが彫れるようにならなくてはいけないという明確な目標をもらった」と興奮気味に語った。