優れた業績を上げた数学者に贈られる「アーベル賞」の受賞が決まった、京都大学数理解析研究所の柏原正樹特任教授(78)が27日午後、京都大学で会見し、恩師や共同研究者ら、大学への感謝を述べた。
会見冒頭で柏原氏は「このたび2025年アーベル賞受賞することになり大変嬉しく思っております。この受賞は、この50年を超える研究全体が高く評価されたものと感じております」と喜びを語った。
柏原氏は、21歳の時に京都大学の佐藤幹夫教授に出会い、1年先輩の河合隆裕教授とともに代数解析を発展させてきた。柏原氏は、「佐藤先生には多くの事を学びました。それがその後の私の数学研究の大きな糧になったと思っています。そのなかでも、数学において、創造、新しく物事を作るということがいかに重要か、あるいはそれがどういうことかということを教えていただいたのが最も大きかったのではないかと思っています」と研究生活を振り返った。
そして、「多くの共同研究者に恵まれたことが私の数学研究を豊かにしてきたのだと思います」「50年の間、京都大学数理解析研究所で数学研究に専念できる環境を得たことも、この受賞につながったと思います」と述べ、共同研究者らや大学への感謝の意を表した。
質疑応答では今後の数学の研究について問われ、「数学にも色んな段階があると思うが、僕がやっているのは抽象化した段階のもの。抽象化したものは、逆に言うと、色んな具体的なものに応用できる可能性があるということ。だからそういう可能性に目をむけていくような研究も重要なことだと思います」と見解を示した。
また、算数や数学が苦手な子どもたちへのメッセージを求められ、「今の数学は受験などにこだわりすぎて、聞いた話では“数学は記憶力のいる学問”だと誤解している子供たちも多いと。数学は面白い発想を自分で行っていくもの。そういうのを教育するのは簡単ではないというのはよくわかるが、数学の面白さをなんとか聞かせていくのは重要だと思います」と述べた。
アーベル賞は「数学のノーベル賞」とも称され、2002年に創設されて以来、日本人が受賞するのは今回が初めて。柏原氏は代数解析学で重要な役割を果たす「D加群」と呼ばれる理論を確立したことなどが評価された。アーベル賞の授賞式は5月にノルウェーで行われ、賞金は日本円で約1億700万円となっている。
柏原氏は東京大学出身で、1984年に京都大数理解析研究所教授に就任。2020年には瑞宝重光章を受章している。