子どもがいなくなった学校の校舎はどうなってしまうか。廃校になった校舎の活用策や今後の課題に注目した。

母校を工場に 卒業生の社長が進出

プリンター用のリサイクルトナーや、インクカートリッジを製造するこの工場。梅田智史社長は「極力何もしないのがよかろうという発想でしたので…」と案内してくれた。実は10年前までは小学校だった。石川県加賀市の旧菅谷小学校。少子化で廃校になった翌年、福井県に本社のある「エネックス株式会社」が加賀工場として稼働した。「蛇口の位置がやたら低いっていう。僕もここで習字の筆とか洗ってましたね」

旧菅谷小学校を利用した工場
旧菅谷小学校を利用した工場
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梅田社長はこの小学校の卒業生だ。事業拡大のために広い土地を探していたところ、加賀市から母校が廃校になるという知らせを聞き買い取ることにしたという。「私もこの学校の卒業生、働く場がない、さびれていくのは寂しいと思って進出した」

いざ使ってみると教室の間仕切りがある学校の校舎は、この規模の製造工場にぴったりだった。ランチルームは従業員約50人が全員入る休憩室になった。体育館は大量の資材と製品を保管し出荷までを一貫して行うことができる倉庫になった。「体育館の空間がもったいない、中2階みたいに2層にして倉庫として使っている」

同じ規模の工場を新しく建てるよりコストは5分の1に抑えられた。そして、廃校舎を使うもう1つのメリットが運動場という「更地」がついてくることだ。エネックスでは2023年、運動場に新しい工場を増設し新規事業に取り組んでいる。「工場を作ってそこに人が定着できるとその建物はずっと使い続けていくことができますから、我々としては地元への貢献度が高いんじゃないかと思います」

廃校舎が町の名物に

一方、空き校舎が新たな町の名物へと生まれ変わった場所もある。2018年に小学校の統合に伴って閉校になった小松市の西尾小学校だ。フランス語で旅館を意味する「オーベルジュ」に改装され、2022年にオープンした。

オーベルジュとなった旧西尾小学校
オーベルジュとなった旧西尾小学校

レストランでは地元の食材をふんだんに使ったコースが提供され、遠くても行く価値のある場所として、平日でも県の内外から訪れた客でいっぱいだ。和歌山県から訪れた客は「加賀野菜とかうまく使ってていいんじゃないですか。小学校をリノベーションしたのは知ってます。おもしろいんじゃないですか」と好意的だった。

オーベルジュを運営するのは大阪の企画会社だ。地域に密着した取り組みとして地元の小学生や卒業生を招き、コースを楽しんでもらうなど食育活動にも力を入れている。「ちゃんと野菜の味がしておいしい」「昔の面影もありながら、新しくなった所もあるし、とてもいい感じです」

糸井章大シェフは「廃校になるということは過疎化の場所、人が少ない場所になる、よそでやっていることをやってもわざわざ人は来ないと思うので、ここにきてもらえるようなレストラン、オーベルジュっていうのに引き続きレベルアップしていきたい」と話す。

活用されない廃校舎の課題

廃校舎を活用して町の活性化に成功した例がある一方、使い道が決まらないところもある。西尾小学校と同じタイミングで閉校した金野小学校。かつて尾小屋鉱山で栄えた町で、1970年代に鉱山が閉山するまでは、児童数も300人を超えていた。一時的に近隣の中学校の仮校舎として使われたことはあったが、現在は空き校舎になっている。

旧金野小学校
旧金野小学校

電気や消防設備など建物の維持・管理に年間数百万円の税金がかかることもあって、市は民間企業での活用を考えているのだが見通しは立っていない。小松市総合政策部の松本一穂さんは「地元の方々も、そういうことなら使ってもらえればいいねっていう施設のほうがいいですよね。条件に入れながら募集を出すのも難しさの1つ」

運動場と体育館を地域の学童野球チームが練習場所として使っているこの学校。活用できる部分が限られるため、使い手が中々見つからないというのだ。地域とは切っても切り離せない小学校。市は地元住民の意向をくみながら、条件に見合った業者を探している。「建物に明かりがともって、安心して地域の人が見ていられるような場所になったらいいなと思う。使い方や施設のあり方をこれからどうしていくか考えるべき時代。担当者として考えながら市全体でよりよい施設、持続可能な施設運営ができるようにやっていきたい」

これからの廃校活用は、学校のあった地域それぞれに寄り添うことがカギとなりそうだ。なお石川県内で、2025年3月で閉校する小中学校は7つある。県教育委員会によると、この10年間で、統廃合により小中学校が26校減っている。校舎の有効活用ももちろんそうだが、少子化を食い止める手だてが急がれる。

(石川テレビ)

石川テレビ
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