名古屋市東区に2024年8月にオープンした「人見知りうどん」は、“人見知り”の元力士が勇気を出して始めたうどん店で、ユニークな「パリパリ食感のうどん」が人気です。
■パリパリ触感が大人気 恥ずかしり屋の元力士が始めた「人見知りうどん」
名古屋市東区徳川に2024年8月にオープンしたうどんの店。店の名前は「人見知りうどん」です。

店主の鐘ヶ江健二(かねがえ・けんじ)さんは大相撲の元力士ですが、極度の人見知りで、店名もその性格から決めました。

自慢のうどんのメニュー名にも「人見知りうどん」があります。

うすく伸ばした麺をあげた“揚げ麺”の下に濃厚玉子と、冷たいうどんとたっぷりのおあげが隠れています。

店主の鐘ヶ江健二さん:
具材が見えないように、揚げて薄く伸ばした麺で隠しています。
麺が恥ずかしくて隠れているのが“人見知り”です。そして揚げ麺をパリパリっと割って、麺と具材をよく混ぜ合わせて食べる新感覚のうどんです。

男性客A:
気になったんですよ、人見知りってなんだろうって。(食べたら)すごくパリパリしておいしかったです。
男性客B:
こういうタイプ初めて食べましたね。
男性客C:
上に乗っているのがパリパリしてなかなか他にないですよね。
パリパリ食感が好評です。人見知りうどんは温かいうどん、冷たいうどん、なべ焼きうどんの3種類があり、それぞれ「人見知り」になっています。
温かい人見知りうどんは、揚げと溶き卵で麺を隠し、薄味のダシでさっぱりと仕上がっています。

“なべ焼き”の人見知りうどんは、2024年12月から初めました。

細かく切った大量の油揚げで、麺を隠すという徹底ぶりです。
■元力士の人見知り店主を動かした「1枚の張り紙」
もともと大相撲の元力士だった鐘ヶ江さんは、店を構えた名古屋市東区の出身で、角界に9年間身を置き、暁司(ときつかさ)のしこ名で活躍しましたが、12年前に30歳で引退しました。

その後、建築の現場で働いたのち、3年前に自分で何かしたいと、手打ちうどんの店を始めようと思い立ちました。しかし…。

店主の鐘ヶ江健二さん:
安易な気持ちでやれるんじゃないかと思ってやったんですけど、めちゃめちゃ難しかった。
鐘ヶ江さんは飲食店の経験はなかったうえ、“人見知り”だったため、修行もすることができなかったといいます。

店主の鐘ヶ江健二さん:
目と目が合うと緊張するというか硬くなって意識しちゃうので。一歩新しいところに、コミュニティなどに踏み出すのは苦手です。
知らない人の前では緊張し、修業の門を叩くことができず、うどん作りは独学で身に着けていました。
店主の鐘ヶ江健二さん:
オープンするまでは2年はかかっています。だから2年前にはもう店舗を借りていました。それでずっと練習して明かりがついているのにやらないから、お客さんが知らない間に張られていて。
店舗はあるのに、2年経ってもオープンしなかったところ、ある日、お客さんから「張り紙」がされていました。
【貼り紙の内容】
「うどん屋さん いつ店が営業するの?????」

店主の鐘ヶ江健二さん:
もうちょっと早くやれたらよかったかなと。本当にうれしいですよね、なんか気にしてくれているんだと。
■動き出した人見知り店主が出会った名店
この張り紙に促されるように鐘ヶ江さんは、積極的にうどんの食べ歩きを始め、師匠となる人物に出会いました。愛知県瀬戸市の老舗「賀登光(かどみつ)本店」。

昔ながらの製法で作る手打ち麺に、たっぷり自然薯をかけた芋うどんが人気の店です。

たまたま入って食べた芋うどんの味に鐘ヶ江さんは、感動したといいます。
店主の鐘ヶ江健二さん:
食べたらあれ?って、うまっ!と思って。何がうまいんだろうと思って、恥ずかしいので声をかけずに、そのままもう1回、次の日か1日空けたくらいで行きました。それで向こうから声を掛けていただいて。

何度も食べにくる鐘ヶ江さんに、たまりかねて声をかけたのが、賀登光の店主、佐野敬徳さんでした。
賀登光の店主 佐野敬徳さん:
僕が声をかけて、相槌を打つ程度だったと思うんだけど、声かけてもらったことに喜んで、「こんな店が作りたい うどん屋をやる」というのが自分の心に響いたので、アドバイスできることはしてあげようかなと。

店主の鐘ヶ江健二さん:
教えていただけることになって、すごい感謝していますね。
佐野さんのアドバイスを受けて、鐘ヶ江さんはみるみるうちにうどん作りが上達し、2024年8月、ついにオープンにこぎつけました。
インパクトのある店名と新感覚のメニューが評判となり、ユニークでうどんもおいしいとあっという間に人気店に。ランチタイムは常に満席状態です。

店主の鐘ヶ江健二さん:
うれしいですね。そういうのはうれしいです。毎日同じ作業をやっているのでちょっとずつは慣れてきていますね。
■肝の「揚げ麺」は1枚づつ丁寧に…麺の修業は修行続ける
鐘ヶ江さんの1日は、開店2時間前の仕込みから始まります。まずは、うどんの命ともいえるダシ作りからです。
店主の鐘ヶ江健二さん:
これはソウダカツオです。ムロアジですね。名古屋はムロアジを使うと聞いて、自分はいろいろ試して、カツオとムロアジがいいと言ってくださる人が多かったのでそれにしました。
試行錯誤の末、カツオとアジの2種類のダシにたどりつきました。

そして人見知りうどんの肝となる「揚げ麺」は、1枚1枚丁寧に手揚げしています。
店主の鐘ヶ江健二さん:
この揚げ麺をみなさん面白がってくれているところもあると思います。

麺は一部を製麺所に依頼していますが(2025年3月時点)、手打ちを賀登光で教えてもらい、毎日店が始まる前に練習していました。

店主の鐘ヶ江健二さん:
均一に伸ばすのと、あと硬さとかの調整が僕はまだまだ全然読めません。数をこなさないといけないと思っています。あと、しわがたまに入っちゃうので…。あっ、ちょっとこんな感じになっちゃうんですよ。油断すると。本当に何も知らなかったので。

なんとか麺をのばし終えた鐘ヶ江さんは、テレビ電話で、出来栄えを賀登光の佐野さんに見てもらいます。
店主の鐘ヶ江健二さん:
「緊張しますねこれ。あっ…すみません。緊張します…。」
師匠の前で緊張しきり。なんとか切り終えました。
店主の鐘ヶ江健二さん:
どうでしょうか?
賀登光の店主 佐野敬徳さん:
まあまあ。うちと一緒で平打ちのような格好にはなりましたね。
店主の鐘ヶ江健二さん:
それは意識しています。師匠のアレを。
賀登光の店主 佐野敬徳さん:
まあ。簡単にはできないと思うのでね。
店主の鐘ヶ江健二さん:
ありがたいですし「うちと同じ平打ち」だと意識していたのを気づいてもらったのがうれしかったですね。今年の寒さが残る時ぐらいにはお出ししたいなと思っています。なので、もうちょっと練習してがんばりたいですね。
2025年2月からは、一部のうどんを手打ちで提供しています。
■“人見知り”カバーするためにメニューには細かい断り書き
練習も終わり午前11時、開店です。すぐに人見知りうどんの注文が入りました。
女性客:
すごい…。
一緒にいた男性客:
割って食べる?
女性客:
割って食べればいい?
初めてで食べ方がわからないというお客さんがいました。鐘ヶ江さんも気になっているようですが、緊張して声をかけることができません。
代わりに店のスタッフが説明し、食べ方を伝えることができました。

店主の鐘ヶ江健二さん:
なるべく会話が少なく済むように、スタンドメニューに食べ方を書いてあります。説明が下手なので、それを見ていただいたほうがスムーズにいくのかなと。
少しでも会話を減らそうと、メニューは説明書きでいっぱいです。

「店主が人見知りですので説明書きが多いです」という断り書きまで入っていました。

それでも、なんとかお客さんに声をかけようと意を決して、厨房の外へ。
店主の鐘ヶ江健二さん:
どうですか?
女性客:
おいしいです、つゆまで飲んじゃいました。
店主の鐘ヶ江健二さん:
ありがとうございます、ありがとうございます。

一緒にいた女性客:
かわいいですよ、すごくフフフ。
店主の鐘ヶ江健二さん:
ハハハ、何を言っているんですか。
女性客:
癒し系です。
店主の鐘ヶ江健二さん:
話題成立しました、なんか嫌いじゃないですね。得意じゃないですけど。
土俵から厨房へ戦いの場を移した元力士のうどん店は、好評です。
店主の鐘ヶ江健二さん:
とりあえずこっちに足を踏み入れたので、続けていこうとは思っています。接客はあたたかい目で見守ってもらえればありがたいです。不愛想ではないです、一歩目が苦手なだけで。
2024年12月16日放送
(東海テレビ)