1980年から鹿児島の魅力を発信してきた月刊情報誌「TJカゴシマ」が、2025年3月19日発売の4月号を最後に休刊する。情報収集の主流がインターネットになり、紙媒体が次々と書店から姿を消している今の時代だが、製作に携わる人たちは休刊に寂しさを感じながらも読者への感謝の思いを胸に作業に取り組んでいた。

時には「警察の交通取り締まりポイント」も掲載…45年の歴史に幕

3月18日、鹿児島市内の書店「ブックセンターめいわ」にTJカゴシマ最終号が運ばれてきた。表紙には「45年間ありがとう」の文字。翌19日の発行を最後に休刊となる。

鹿児島県民に45年間愛されてきた「TJかごしま」
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「TJカゴシマ」は、鹿児島市の印刷会社・斯文堂が発行する月刊情報誌だ。1980年の創刊以来、鹿児島随一の繁華街・天文館の喫茶店マップや昭和を彩った歌手のイベント情報など、鹿児島の魅力を45年にわたり発信してきた。時には警察の交通取り締まりポイントや大人の恋愛事情を特集するなど、地域に密着した情報も人気だった。誌面にある温泉や飲食店の割引クーポンも人気を呼び、45年間で530号以上が発行されたが、広告収入の落ち込みなどを理由に休刊が決まった。

時には「警察の交通取り締まり情報」も特集
時には「警察の交通取り締まり情報」も特集

足で稼いだ取材力と読者との絆

鹿児島テレビは最終号製作に密着するため、編集者・下迫田晃一さんの取材に同行した。この日は、ランチの特集ということで下迫田さんが訪れたのは、2024年にオープンした日置市のカフェ「カフェちょんさちょろん」。まず下迫田さんが始めたのは写真撮影だ。下迫田さんは、「店内の写真はほぼマスト。店内を見せることで『こんなお店なんだ』と雰囲気が伝わるし、もちろん料理も撮って、『こんな料理出しているんだ』となるべく紹介するようにしていた」と語る。

「店内の写真はほぼマストです」と語る編集者・下迫田さん
「店内の写真はほぼマストです」と語る編集者・下迫田さん

店舗のリサーチはどうしているのか聞くと、「取材に行く途中で見かけたりとか、読者からはがきで『ここにオープンしていますよ』などと」情報をもらっていたという。自らの足で稼いだ取材力と、長年培った読者との絆が紙面を彩ってきたことがわかる。

取材は足で稼ぎ、読者や取材先との絆を深めてきた
取材は足で稼ぎ、読者や取材先との絆を深めてきた

カフェの店長・呉みどりさんは「休刊は寂しい」と語り、「年配の方は(誌面を)切り取って、『これを食べたい』と持ってきてくれたり、電話がかかってきて『あれを食べたい』と反響が大きかった」と教えてくれた。

「休刊は寂しい」と語る呉みどり店長
「休刊は寂しい」と語る呉みどり店長

約2時間の取材を終え、会社に戻ってきた下迫田さんは、休む間もなく原稿を書きだした。「あと何軒か取材に行くが、『もう終わってしまうな』という寂しい部分がある」という下迫田さんの作業は夜まで続いた。

最後の表紙に込めた思い

数日後、再び会社を訪ねると記事のたたき台が届いていた。文字に間違いはないか、写真の色味に問題はないかをチェックする下迫田さん。こうした紙ならではの作業も今回が最後だ。

紙ならではの作業も今回が最後に
紙ならではの作業も今回が最後に

20年間表紙デザインを担当してきた柿本しんごさんは、最後の表紙について「ランチなので暖色系の色を使わないといけないなというのが一つと、『45年間ありがとう』というのは、私も編集部も伝えたかった」とポイントを説明してくれた。

最終号には「45年間ありがとう」の文字
最終号には「45年間ありがとう」の文字

2人にとって思い入れのある表紙が、2023年3月号「パンが好き」だ。柿本さんによると、TJカゴシマは情報量が多いため、その分だけ文字情報も入ることになるが、「パンが好き」では、パンをメインにして極力シンプルなデザインを心掛けたという。柿本さんは「表紙一つで売れる売れないを判断される重要なものだと感じていたから、そのプレッシャーは毎月感じていた」と振り返り、休刊の話を聞いたときは「正直寂しかった」と心境を明かした。

表紙デザインを担当してきた柿本しんごさん
表紙デザインを担当してきた柿本しんごさん

紙媒体の衰退と地域情報の未来

3月17日、製本されたTJカゴシマ最終号を、定期購読者や取材先などに発送するため、スタッフが封筒に詰めていた。もちろん手作業。こうした心のこもった数々の行程を経てTJカゴシマは書店に並ぶ。最終号の出来について下迫田さんは、「取材に行くときも『最後か』と思いながら行ったので感慨深い」と語った。

最終号を手作業で封筒詰めするスタッフ
最終号を手作業で封筒詰めするスタッフ

ブックセンターめいわの柿田秀親部長は「世の中の情報収集の流れからいったら仕方ないのかな」と述べつつ、「書店で働いて三十数年になるが、入社当初には(すでに)あった情報誌なので悲しい」と感慨深げだ。

新たな形での情報発信へ

TJカゴシマは今後、インターネットやSNSで情報発信を行う予定だ。下迫田さんは「個人的に寂しいし、少し悔しいところもある」としながらも、「鹿児島はポテンシャルはあるといわれているが、発信するのが上手ではないといわれる県なので、形が変わったとしても少しでも発信ができれば」と前を向く。

これからも発信していきたいと語る下迫田さん
これからも発信していきたいと語る下迫田さん

最終号の巻末には読者からの休刊を惜しむ多くの投稿が寄せられ、編集後記にはスタッフたちの感謝の言葉が並んだ。「とにかくいろんな人に出逢えた。オモロかったー」「ポールの最高傑作がイエスタデイならば、僕の最高傑作はTJカゴシマに居た事です」など、45年間の思い出が詰まった言葉が並ぶ。

編集後記にはスタッフたちの感謝の言葉が
編集後記にはスタッフたちの感謝の言葉が

形は変わるが、TJカゴシマは今後も地元に密着し、鹿児島の魅力を伝え続ける。紙の時代からインターネットの時代へ、地域情報の発信方法は変わっても、その精神は受け継がれていく。

(鹿児島テレビ)

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鹿児島テレビ
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