菅新総裁誕生を横目に飛び交う「人事推薦リスト」

安倍首相の後継を選ぶ自民党総裁選挙は、党所属の国会議員票と各都道府県連代表の「地方票」を合わせた535票のうち7割以上を獲得した菅義偉官房長官が、石破元幹事長と岸田政調会長を破り圧勝した。菅氏は、当選後のあいさつで次のように新総裁としての決意を語った。

「この危機を乗り越えて国民のみなさん一人一人が安心をして安定した生活をすることが出来るように、そのためには安倍総理が進めてきた取り組みを継承し、進めていかなければなりません。私にはその使命があると認識を致しております」

その“菅新総裁”誕生を見つめた多くの自民党議員の目下の関心は、直ちに行われる党役員人事と組閣の“菅人事”だといって過言ではないだろう。

党役員人事は15日の午後には明らかになるとみられ、閣僚人事は、16日に国会での首相指名選挙による菅総理大臣誕生を受けて同日中に行われるが、すでに次のような声があがっている。

「二階さんと麻生さんはもちろんそのままだとして、官房長官の候補なんて何人も名前が上がってるよね」(自民党閣僚経験者)

今回の総裁選でいち早く菅氏支持を打ち出して流れを作った二階派の二階幹事長の留任や、二階派に続いて菅氏支持を固め、流れを決定づけた麻生派の麻生副総理の続投などは、既に決まったことの様に語られている。

この2派に、細田派、竹下派、石原派などを加えた“菅陣営”では、菅氏が派閥の推薦は受けないと語っているにも関わらず、「うちからはこの人が最優先だ」と人事での登用を求める「派閥推薦リスト」が飛び交う。人事に関する派閥の推薦については、安倍首相もこれまで推薦は受けないと言ってきたが、実際は派閥の推薦も参考にして人事を行ってきており、菅氏も派閥の推薦を無視はできないと見られる。

冷や飯“常連”の石破氏と“初体験?”の岸田氏

こうした人事をめぐる菅陣営の状況を対岸から見つめるのが、総裁選で敗れた石破陣営と岸田陣営だ。これまでの自民党総裁選の歴史では、かつて小渕元首相が現職の時に、総裁の座に挑戦してきた“政界のプリンス”こと加藤紘一氏に向けた「君は僕を追い落とそうとしたじゃないか」といった言葉が象徴するように、時に勝者が敗者を徹底的に冷遇してきた過去がある。今回が総裁選4度目の挑戦となった石破元幹事長の派閥もまさに、安倍首相から冷遇され“冷や飯”を食わされてきた。石破派では敗色濃厚な総裁選の最中から、今回も冷や飯を食う覚悟はできているとの声が聞かれた。

このように“冷や飯”を長年経験してきた石破派と対照的なのが、今回が総裁選初挑戦となった岸田氏率いる岸田派だ。安倍政権下では、岸田氏自身を含め厚遇を受けてきただけに、岸田派内からは「さて、本当に冷や飯を食う覚悟ができているやつが何人いることか」(岸田派中堅)と、派閥として冷や飯を食わされる覚悟が不十分だとの指摘が聞こえる。

岸田氏側の選択…次期総裁選見すえ菅政権外に?存在感維持のためポスト重視?

では、岸田氏本人はどう考えているのか。岸田氏は、菅新総裁誕生直後に、早くも来年秋に予定される“次の総裁選”への意欲を語った。
「これからも将来に向けて、総理総裁を目指すべく努力を続けていきたい。こうした努力を続けていきたいと言うことはしっかりと申し上げていきたい」
そして、菅体制での自らの処遇に関しては「人事については新総裁が判断されることですから、私から何か申し上げることはありません」と多くを語らなかった。

さて、岸田氏の今後の処遇に関して、岸田氏の周辺からは「負けた後にポストを欲しがるなんてことは絶対にない。だったらそもそも総裁選に出馬などせずに菅さん側につけばいいことなんだから」と、たとえ菅氏から打診があったとしても、岸田氏が党幹部に就いたり、菅内閣に閣僚として入閣することはないとの声が聞かれる。この考えの背景には、来年秋に控える次回の総裁選に出馬し、再び“菅首相”と戦うためにも、菅氏とは一定の距離を保つべきだとの思惑も働いているようだ。

その一方で、派内からは「石破さんほど知名度もない岸田さんが冷遇されたら、今度は出馬すらできなくなる」(岸田派若手)と、冷や飯を食わされることで岸田氏の存在感がより低下してしまうことへの危機感を示す声も少なくない。

次の総裁選はすでに始まっている。岸田氏を待つ菅人事の思惑

では菅氏の側は岸田氏の処遇をどう考えるだろうか。岸田派のベテランは「菅さんからすれば、自分の手元(閣内)に岸田会長を置いておく方が、岸田会長の性格からして(総裁選で菅氏に)弓を引けなくなるだろう」と、菅氏は戦略的に岸田氏を何らかの役職に起用するだろうと予測している。さらに、菅氏とって「戦いが終わったらノーサイドだとのアピールにもなる」というメリットがあると語っている。

ただ岸田氏にとっては、菅内閣の一員となってしまえば、次の総裁選で菅氏と対峙する時に向けて、“菅政権の身内”という立場が足かせになることが危惧される。事実、岸田氏は今回の総裁選で、「外務大臣や政調会長という立場にとらわれすぎたことが多分にあった。それぞれの立場の“のり”を作ってしまい、超えることをためらっていた」と語るなど、自らが就いてきたポストの役割に徹してしまうあまり、発信力が不足してきたことを指摘している。

いずれにせよ、岸田氏が菅体制の下でポストに就くのか就かないかは、岸田氏の今後の戦略に大きな影響を及ぼすことは間違いなさそうだ。1つの戦いの終わりは、次の戦いの始まりといえる。菅新総裁の誕生と同時に、来年秋の総裁選に向けた駆け引きはすでに始まっているようだ。

(フジテレビ政治部 福井慶仁)