実際に”危ない”を体験できる「交通安全AR」

9月21日から全国で始まる「秋の交通安全運動」。「子供をはじめとする安全と自転車の安全利用の確保」などに重点が置かれ、9月30日まで行われる予定だ。

実際、子供が被害者となる交通事故は後を絶たない。警視庁が8月5日に更新した「各種交通人身事故発生状況(令和2年上半期)」によると、都内における子供(幼児、小学生、中学生)の交通人身事故は510件で、そのうち小学生は305件。

小学生の交通事故での死者数も見てみると、2020年(令和2年)の上半期で2人で、2017年(平成29年)からは減少に転じていたものの今年は増える結果となっている。

そして資料では、下校時や下校後の時間帯に多く交通事故が発生しているとし、特に小学生では午後4時~6時に多発しているという。

学校では交通安全教室などを実施していると思うが、なかなかなくす事のできない子供の交通事故。そのような中で今、小学生向けの新しい“交通安全コンテンツ”の開発が始まった。

「危ない」を拡張現実の世界で体験できる、その名も「交通安全AR」だ。

提供:テクプラパークpower by BBmedia
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毎日登下校をしている小学生や就学前の子供に、AR技術を活用して交通安全を学んでもらう新しい教材。

AR技術を利用することで、画面を通して実際の空間に3Dの道路や走行する自動車などを出現させることができ、座学やビデオだけではわかりづらかった交通事故の危険性を体験することができるというのだ。

開発するのは、最先端デジタルコンテンツを手がけるビービーメディア株式会社のプロジェクトチーム「テクプラパークpower by BBmedia」で、9月1日からプロジェクトがスタートした。
 

例えば、「車が向かってくる速さ」を体験。

遠くにいたはずの車が、いつの間にかすぐ目の前に来てしまうこと、そして横断歩道を渡らなければいけない事を学ぶことができる。

提供:テクプラパークpower by BBmedia
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他には、横断歩道を渡る際に車が止まってくれたとしても、車の影からバイクや自転車が飛び出してくる可能性があることを実感できる。

提供:テクプラパークpower by BBmedia
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このような場面を実際に経験するには危険性が伴うため、このような「危ない」を体験できるARには、交通安全を呼びかけるコンテンツとしての可能性を感じる。

そもそもの開発のきっかけは何だったのだろうか? テクプラパークpower by BBmediaの大矢琢磨さんに話を聞いた。

「ARなら安全に危険を体験できる」とデモ開発

ーー開発のきっかけを教えて

AR技術が進化して空間を使った新しい体験ができるようになり、弊社でも3年ほどまえからARに積極的に取り組んできました。特にARでの新しい体験を教育方面に活かすことを日々模索しています。

コロナでの自粛中、子どもたちが行くところも無い中で、開発メンバーの子供が近所の子どもたちと家の前で遊ぶ機会が増えていました。

その時に道路に飛び出したりすることが多く、何度注意しても、また「ミラーを見ると良いよ」などと教えてもなかなか改善されず、一度怖い目に合わないと分からないんだろうな、と思い「ARなら安全に危険を体験できる」と考え、デモ開発を始めました。

ーー小学生向けとしたのはなぜ?

調べてみたところ、小学校1年生が一番事故が多いようでした。

新しく「登校」が始まるので子どもだけで歩く機会が急に増えるのも大きい理由と思われます。そのため小学校低学年、小学校に入る前の幼児向けの内容を検討しました。

事故の原因で多いのは「飛び出し」のようなので、そちらを意識したデモにしています。また私共は元々「テクプラパーク」という子ども向けの体験型コンテンツを提供しています。

その一環で自然と「子どもたちの成長のためにできること」という視点で普段から考えてることも大きいと思います。
 

「自分が危険な目に合う」という主観での体験ができる

ーー従来の交通安全教室との違いは?

従来の交通安全教室はビデオによる座学やスタントマンが実際に轢かれたりするものを見ます。ARであれば、客観的ではなく「自分が危険な目に合う」という主観での体験ができるのが良い点です。

どちらも良い点があると思いますので、うまく補完できれば良いのかなと思います。

提供:テクプラパークpower by BBmedia
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ーーARで体験するメリットは?

ARは現実の空間にCGを合成することができます。自分が移動することで、様々な位置、角度から見ることが可能です。そのためモニターなどで見るよりも実際の体験に近い動きで体験することができます。

CG部分は「現実ではできないこと」も可能です。今回のように「車に轢かれそうになる体験」だったり、床に穴が開いて床下を見せるようなこともできます。

VRのほうがよりリアルな体験が可能ですが、二眼のVRゴーグルは子どもはNGなのと、逆にリアル過ぎて、ただ恐怖を感じるだけのものになってしまいます。

スマートフォンやタブレットでのAR体験であれば画面を親と一緒に見ながら体験できるのも良い点です。

ーーこだわった所はどこ?

まずは今回、交通安全というテーマでARという手法を取り入れましたが「ARで本当に体験する必要性があるか」という点を意識しました。ARで実施するメリットをしっかり考えないと手間を増やすだけの機能になってしまうためです。

コンテンツ内容としてはまだデモ段階ではありますが、子どもたちが感覚的にわかりやすく、親御さんや大人が教えやすいシーンにしました。

スマートフォンやタブレットでの体験になるので、「視野が狭い」「素早い、大きい動きはしにくい」というデメリットがあるので、なるべく一方向を見て体験できる内容にしました。


ーー大変だったのは何?

危険なポイントで実際にどうすることが子どもたちへの的確なアドバイスとして良いかなどです。

現状は一般的なものになるので、今後交通安全に詳しい企業さまや、専門家の方などのアドバイスや知識をお借りしてアップデートをしていければと思っております。


ーーおすすめのシーンを教えて

バスの影から飛び出してくるバイクのシーンです。本当によく体験するシーンなので、子どもだけでなく、大人も気をつけよう!と再認識できるシーンかと思います。

提供:テクプラパークpower by BBmedia
提供:テクプラパークpower by BBmedia

なおテクプラパークpower by BBmediaでは、街にあるさまざまな道路の標識を探すARゲーム「SEEKAR in the World」も展開している。楽しく道路標識を学べることができる仕組みで、交通安全の知識も身に付けるため、家族で楽しめるアプリとのことだ。


交通安全ARは2020年内の提供開始を予定し、交通安全教室に関わっている行政や教育機関や、交通安全イベントを実施する自動車メーカー、保険会社などへの導入を目指しているという。

交通安全教室に加え、このようなコンテンツが活用されることで、少しでも子どもの交通事故が減少することを願いたい。
 

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。