近年、全国的に被害が増加している特殊詐欺。2023年に452.6億円だった被害額は2024年には721.5億円に増えた。“闇バイト”という言葉を耳にする機会も増えているが、特殊詐欺の実行役の5人に1人は“少年”で、犯罪の低年齢化が進んでいる。一体なぜ少年は犯罪に手を染めてしまったのか…。少年院で話を聞いた。
「いつから人を思いやる気持ちが…」少年から語られた後悔の言葉
当時特定少年A(20):
楽に稼ぎたいという気持ちと、自分と仲間が幸せならいいかな、誰が死んでもどうでもいいというような考えで特殊詐欺を繰り返していた。
当時特定少年D(20):
いつから自分の本当の気持ちを忘れちゃったのか。前は人前で優しくしたりできていたのに、いつの間にかその気持ちが薄れていった。いつから、なんで人を思いやる気持ちがなくなっちゃったんだろうと。

罪を犯した自分勝手な理由と後悔の言葉。
自分自身の考え方や変化について振り返っていたのは、特殊詐欺に加担して検挙され、少年院に収容された少年5人だ。
新潟少年学院 小川雅人 法務教官:
失ったもののほうが大きかったなという人?(少年らが全員手を上げる)ああ、よかったです。ありがとう。これはすごく大事だね。でも、ここに来なかったら分からなかったよね。
再犯防止へ 少年らに向けた特別講座
少年が収容されているのは、新潟県長岡市にある新潟少年学院。
家庭裁判所の審判により、保護処分として少年院送致決定を受けた少年を収容し、矯正教育を行う県内唯一の少年院だ。

主に関東圏などで罪を犯した少年に11カ月にわたって矯正教育をするこの施設では、2014年以降、特殊詐欺によって収容される少年が増加している。
2017年から全国に先駆けて特殊詐欺再犯防止のための特別指導を行っているが、今では特殊詐欺で検挙された5人に1人が少年だと新潟少年学院の小川雅人法務教官は話す。
「少年院を出たときに自分で動いて、考えて、どう生活するかというのは自分次第。誰と関わって、どういう関係に身を置いていくか。今まで失ったものを守る人生なのか、また失ってしまうような人生なのか、今ちょうどターニングポイントにいるんだよというのは重々承知だと思う。だけど、それを意識した上で少年院生活を送らないと、余計変わるチャンスというのは失っていく」

少年の今後の人生への道筋をつけようと指導に当たっている小川法務教官。これまで特殊詐欺に手を染めた80人以上の少年らを指導してきた。
この日は、小・中学校時代の思い出や逮捕されたときの気持ち、犯罪につながるきっかけになった出来事など、自分自身を振り返って文字に書き起こして、他の少年と共有することに。
当時特定少年A(20):
僕は、社会にいた当時、全然褒められなかった。本当は褒めてもらいたいのに、やんちゃな人たちだけが「お前、気合入ってるじゃん」と。そうすると「うわ、褒められてる」とやっぱり思っちゃう。親とかが僕のことを褒めてくれていたら、やんちゃにならなかったんじゃないかなと思う。
新潟少年学院 小川雅人 法務教官:
そう思う?
当時特定少年A(20):
はい。
新潟少年学院 小川雅人 法務教官:
褒められることはあんまりなかった?
当時特定少年A(20):
一個もなかったです。

特定少年C(19):
犯罪に手を染めた理由は、自分も原因は一つではなくて。その当時、地元でトラブルみたいなことがあって、地元にいづらくなった。同じタイミングくらいに高校に行かなくなって、なんで高校に行かなかったのか…それはあんまり分からないけど、家に帰ったらお母さんに「学校行けよ」と言われて。それで自分もお母さんとけんかして、それが一番大きな原因。お母さんとめっちゃ大げんかして、そこからもう家に帰らなくなった。
虚栄心や家庭環境などで徐々に生活環境が変化していったという少年。
その多くが住んでいる家を飛び出して友人や知人宅を渡り歩き、最終的には金欲しさから安易に特殊詐欺に手を染めてしまったという。
特定少年C(19):
自分は、受け子と出し子をやった。指示された家に行って、キャッシュカードとすり替えて、銀行で下ろすという感じ。はじめのうちは申し訳ないという気持ちもあるが、バレるのが怖いというのが一番強くて。でも、だんだん申し訳なさというのもなくなっていった。まあ、どうせバレないし、しかも成功すればお金をもらえるから、早くやりたい、成功したいという気持ちだった。多分、6・7人ぐらいを特殊詐欺でだました。
闇バイト応募に知人からの紹介…特殊詐欺に手を染めたワケ
特殊詐欺で逮捕された19歳の特定少年は、高校在学時に友人や先輩から闇バイトに誘われたときには断っていたにも関わらず、高校中退後、約半年で自らSNSで闇バイトに応募したと話す。
「家にも帰らないし、万引きをして生活していた。それで、ずいぶん働いてもいなかったので、働くの面倒くさいなと思ってしまい、それで闇バイトをしようとSNSで検索した。高校とかで“闇バイトしちゃいけません”というポスターを見ても『自分がするわけないじゃん』と。そういう他人事みたいに思っていた。『やってるやつ絶対捕まるでしょ』としか思っていなかった」

“闇バイトをやったら捕まる”それは、ほかの少年も理解していたことだった。
少年B(17):
逮捕されてから「なんで捕まると分かっていたのに、ずるずるやっていたんだろう」と思った。
新潟少年学院 小川雅人 法務教官:
捕まるとうすうす気づいていた?
少年B(17):
気づいていた。

当時、仲の良かった後輩が所属していた詐欺グループに紹介され、対面で3人の高齢者から現金をだまし取ったという17歳の少年。
「今まで大金を手にしたことがなかったので、最初だました相手から100万円渡されて、見たときに『すごいな、この札束』と。初めて見てちょっと興奮していたが、2回目行ったときに200万円渡されて、また『すごいな』となって。でも、3回目の相手に渡された1000万円を持った瞬間は、手がブルブルとずっと震えていた。気持ち的には『これやばいな、ちょっと怖いな』と思っていた」
少年はその後、4回目の犯行をしようと現場に行ったものの、急きょその話がなくなり、帰ろうとタクシーを待っていたときに警察に検挙された。
詐欺グループへの恐怖心で抜け出せず
この少年は、自身が加担した犯罪への恐怖を覚えたにもかかわらず、抜け出せなかったのは詐欺グループへの恐怖心があったという。
「詐欺グループと関わっているなら、ほかのやばい裏組織の人と関わっていそうで怖いなというのもあって。そのまま、やめるも何も言えずにずるずるやっていた」

捕まることが頭では分かっていても、一度入れば抜け出せない闇バイトや特殊詐欺。
法務教官として指導にあたる小川さんは、再びこうした犯罪に加担しないためには、自分の過去や未来について、よく考え抜くことが重要だと訴える。
「まずは、失ったものや将来なりたい自分というのを軸にして指導を行う。今後、どういう生活を送ればそれらを再び失わずに済むのか、将来なりたい自分に近づくのか、というのを軸に置いて考えていくようにはしている。特殊詐欺に加担した理由には、今までの自身の境遇だったり、周りの環境だったりとか、絶対何か原因がどこかにあると思うので、そこまでしっかり振り返られたらいいなと思う」

少年はこうした指導を通して、これまでの生活では見落としていた大事なものに気づき始めている。
少年B(17):
少年院に来て心配してくれる人の大切さに気づいたので、人を大切にできる大人になりたい。
特定少年C(19):
色んな人を失望させちゃったなと。家族とか友達とか彼女とか含めて「さすがにこんなことするとは思わなかった」と言われたので。自分は今まで明確な目標や夢がなかったので、目標を持てる大人を目指したい。そこに向かって頑張っていれば、犯罪とかにつながることもないと思う。明確な目標を持てる大人になりたい。
当時特定少年D(20):
家族と大切な人を守れる大人になりたい。彼女とかに泣かれても「なんで泣いているんだろう」としか考えられなくて、すごくひどい言葉も言ってしまって、今になって「ああ、こういうことだったんだ」と思ったこともいっぱいあった。失ってから大切なものに気づくし、実際そうだった。だからこそ「今あるものは一生モノだから、絶対守っていかないと」という思いはある。

再び社会に出たときに、もう二度と犯罪に手を染めることのないように、自身の犯した罪と向き合い続けていく。
少年B(17):
自分は出院したら被害者のところに謝罪に行きたいというのと、あと、できれば早くお金を稼いで、お金を返したい。親とか友達とか心配してくれる人を色々困らせて、迷惑をかけて悲しませてしまった。特殊詐欺とかをもう一回やったら、もういよいよ本当に周りに人がいなくなってしまうと思うので、次は絶対そういうことをしないようにして、今度は自分がほかの人を大切にできるようにしたい。
特定少年C(19):
一番は家族と仲直りをして、ちゃんと家に帰りたいというのと、あとしっかり働きたい。今までバイトとかしたことがなくて、ちゃんと働いたことがないので、働いて周りからの信頼を得たい。自分も働くのが面倒くさくて、特殊詐欺となったけど、絶対もっと探せば稼げる仕事もあると思うし、絶対その正解は犯罪じゃないと、今、犯罪に手を染めそうになっている人に言いたい。

指示役が捕まらず、実行役となる自分たちが切り捨てられて捕まる闇バイトや特殊詐欺。
自分や周りの人を悲しませないためにも、勇気を持って警察や周りの人に相談することが大切だ。
(NST新潟総合テレビ)