2022年、新潟県北部を襲った豪雨で土石流が発生した村上市小岩内地区。素早い避難により1人の犠牲者も出なかった。この“きせき”を題材にした絵本が完成。絵本を手がけた専門学校生の絵本に込めた思いを取材した。
一人の犠牲者も出さなかった“小岩内のきせき”
新潟デザイン専門学校 佐藤晴さん:
今もなお、日本各地で復興を頑張っている皆様に少しでも勇気づけられる作品として広まっていってくれたらなと思う。
新潟デザイン専門学校の生徒たちが、村上市の髙橋市長などに手渡した一冊の絵本。

『小岩内のきせき』というタイトルが付けられた絵本の題材となったのは、2022年8月に県北部を襲った豪雨だ。
未明に発生した土石流に住宅などが飲み込まれた小岩内地区。

このときの状況について、松本佐一前区長は「眠り込んでいる方も、高齢者の方もいるので、一軒一軒起きるまで『避難してください』と周知するように伝えた」と話していた。
1967年の羽越水害を教訓に区長などが早期の避難を決断し、犠牲者は出なかった。

松本前区長は「まず早く空振りでもいいから避難した。それが一番。災害で亡くなった方もいない。行方不明の方もいない。それが一番よかった」と振り返っていた。
この迅速な避難が“小岩内のきせき”と呼ばれているのだ。
専門学校生 絵本制作に向け現地を見学
早期の避難の大切さを伝えるため、村上市が新潟デザイン専門学校に絵本の制作を依頼。
生徒たちは実際に、小岩内地区に足を運び、ここで何が起きたのか、どう避難したのかを自分の目で確かめた。

「そのとき何が気持ちとして強かったのか、怖かったとか…」と生徒が質問すると、住民は「雨の音が尋常じゃない、聞いたこともないような雨の音。もうドドドですよ、音が」と答えた。
そして、住民の生の声を聞くことで当時の状況のイメージを膨らませていた。

実際に現場を見た生徒は「坂が多いから避難が大変だったんだろうなという印象を持って、本当に奇跡に近いということを実感した」「地域の人たちは親身になってお話してくれた。災害のことを伝えたいというのはもちろん、小岩内の良さも一緒に伝えられるようにしたい」と現地で起きた災害に向き合うとともに、絵本の構成に考えを巡らせていた。
イラストや文章で伝える教訓…表現に試行錯誤
住民の話をもとに絵本の制作に取り掛かる生徒たち。
生徒:
色んな方が読むので、年齢層もそうだが、読みやすいような絵柄、アニメチックというか少し簡略化したほうが入ってきやすいのかなって。

どのように表現すれば多くの人に教訓を伝えられるのか…
生徒:
みんなに避難を促しているときかの表現は、緊張感とかが出る感じで文章を作った
イラストともにそこに加える文章にも何度も何度も手を加えていく。住民を不安にさせた雨の音も…。
先生:
擬音は入れる?「ドードードー」とか?
生徒:
絵で…文章で「ドードードー」ではなくて。
先生:
イラストの表現でね。

試行錯誤を繰り返し、2月18日にようやく完成した絵本。
自分たちで手がけた絵本を初めて手にした生徒は、「絵と一緒に読み物として読むのは今回が初めてなので、達成感もあるし、うれしい」「絵本で見ると全然違う。結構興奮する」などの声が聞かれた。
住民・生徒で作り上げた絵本 “助け合いの心”伝える一冊に
完成報告会には、小岩内地区の住民も姿もあった。
住民は「本当に温かい感じもするし、こう怒って呼びかけたりして、起こしてもらえなかったら私は今ここにいない」と涙を見せた。

松本前区長は「皆さんを起こす場面が、最初はものすごくかわいかった。こんなんじゃないんだ、もうずぶ濡れになって一生懸命起こしているんだよと。表情を変えてもらいたいということで直してもらった」と話す。
住民も生徒もこだわった避難を呼びかけるシーンは登場人物の表情や背景、そして文章で見事に緊迫感を表現。

避難後、真っ暗闇で過ごした夜は住民から聞いた擬音を使って、その不安感を伝えている。
そして生徒たちが、絵本の最後のシーンに選んだのは、豪雨の翌年に開かれた収穫祭だった。住民の間に広がる温かな雰囲気が地域の絆を表現している。

絵本を制作した佐藤晴さんは「地域の団結力とか小学生には誰かと助け合って何かをしていくことの大切さも学んでほしい」と話した。
絵本が伝えるのは、住民の助け合いの心が生んだ奇跡だ。
地域の思いをくみ取った一冊は村上市のHPからダウンロードでき、誰でも読むことができる。
(NST新潟総合テレビ)