2025年1月、京都市が「宿泊税」を最大1万円まで引き上げることを発表し、物議を醸した。なぜ宿泊税は必要なのか、東海3県で初めて導入し、始まったばかりの愛知県常滑市では訪れる観光客のわずかしか市街地を訪れないという課題解決のために活用しようとしている。

■東海3県で初…愛知県常滑市で「宿泊税」の導入始まる

東海地方の空の玄関口、セントレア=中部国際空港がある愛知県常滑市。空港に直結する「中部国際空港セントレアホテル」では、フロントのスタッフが、宿泊客に“宿泊税”の説明をしていた。

ホテルのスタッフ:
ご宿泊代金は、ご予約時に精算完了頂いているんですけど、1月6日から常滑市が宿泊税始まっています。

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2025年1月6日から、東海3県で初めて常滑市が導入した1人200円の宿泊税の徴収が始まっていた。

宿泊客の女性:
以前から宿泊税をとると聞いていたので、特に抵抗なくお支払いをさせて頂きました。

宿泊客の男性:
そういう決まりであれば仕方がないことであって、お金が何に使われるのかというのはありますね。

中部国際空港セントレアホテルの後藤秀樹支配人:
お客様の反応としましては戸惑いなどはなく、受け入れて頂いている印象です。

■最大で1万円に引き上げる方針発表の京都市では物議

宿泊税は、東京や大阪、福岡など全国11の自治体がすでに導入している。

京都市の松井孝治市長は2025年1月14日、宿泊税の額を5段階に分け、最大1万円まで引き上げると発表し、物議を醸している。

京都市の松井孝治市長:
負担能力に応じたご負担を頂くために、最高税額を1万円とさせて頂きました。

そもそも宿泊税とは、ホテルなどの宿泊者に対し、自治体が独自に課税する「法定外目的税」のことを指す。

例えば、インバウンドによる観光公害や、観光地に過度に人が押し寄せる=オーバーツーリズム対策など、観光業のサービス向上に使われる。

この地方では常滑市のほかにも、外国人に人気が高い岐阜県高山市や下呂市で、2025年10月から導入が決まっているが、宿泊税はなぜ必要なのか。

■年間476万人もの観光客が訪れるのに…市街地を訪れるのはわずか5%の課題

昭和初期の町並みが残る常滑市の「やきもの散歩道」。

1月21日の金曜日に訪れてみると、観光客の姿はまばらだった。

観光客の女性:
空いています。

一緒にいた女性:
土日はもっと多いんだろうねって言っていたんですよ。

宿泊施設の女性:
セントレアとか行ってみるとあれだけの人がいて、常滑に泊まるという人は本当に少ないと思う。

多くの観光客が利用するセントレアから4キロほど離れた“観光地”。これが宿泊税導入の1つのきっかけだった。  

1月24日、常滑市議会で開かれた「協議会」では、観光戦略課の課長が議員に宿泊税の使い道について説明した。説明したのは、空港から市街地までのシャトルバスの運行を毎日行うという内容だった。

常滑市の経済部観光戦略課 安藤麻美課長:
空港島には中部国際空港(セントレア)や、愛知県国際展示場という大きな施設があり、たくさんの方が滞在していますが、市街地まで来てもらうアクセスの課題があります。

常滑市は、市内の宿泊客室がおよそ4300室あり、名古屋市に次いで県内2番目の数を誇る。

年間476万人もの観光客が常滑市を訪れるが、そのうち市街地の観光地「やきもの散歩道」に訪れたのは、26万人とわずか5%だ。

「空港から内陸部に観光客をどう呼び込むか」が課題となっている。

■宿泊税の一部を使い市街地と結ぶ無料バスを運行へ

そこで宿泊税で見込まれる年間2億円の税収のうち、およそ8000万円を使い、無料バスを運行することが決まった。

空港島の愛知県国際展示場から出発し、橋を渡って市街地へ。バスの実証運行も既に始められていて、市は2025年4月から1時間に1~2本間隔で毎日運行できるよう調整を進めている。

他にも、市内の飲食店で使用できるクーポンや外国人観光客に向けた多言語対応などに宿泊税が使われる。

■「客は宿泊税に抵抗ない」…民泊営む夫婦が感じる常滑市の可能性

「やきもの散歩道」の近くにある宿泊施設「ヒルズハウスセカンド」は、セントレアの利用客や市内の観光客の宿泊が多く、時期によってはそのほとんどが外国人の時もあるという。

山中潤一さん(70)と妻の和子さん(70)が築150年の古民家を改装し、5年ほど前に民泊としてオープンした。

全部で3室で、1日に10人ほどが泊まれる小さな宿だが、常滑の観光資源でもある「焼き物」と、山中さん夫婦には強い繋がりがあった。

※現在は旅館となったため、部屋数や宿泊者数は2025年1月時点のものです。

ヒルズハウスセカンドの山中潤一さん:
ある日チラシが入っていたんですよ。なんのチラシかというと「やきものホームステイをやるので、ホストファミリーを募集します」と。海外から来る人を、夏の間の40日間泊める、これって素晴らしい経験だから、すぐ応募したんですよね。

1985年から始まった「とこなめ国際やきものホームステイ」は、商工会議所が中心となり、毎年夏、海外から陶芸家や学生らを招いて、常滑の焼き物を通じて交流する事業で、およそ25年にわたり続けられてきた。

ホストファミリーとして参加し続けてきた山中さん夫婦は、その出会いは今でも宝物だという。

宿には、過去にステイした人の作品も飾られていた。

山中さんの妻 和子さん:
これはジェームズ・メイキンズさん、アメリカの陶芸家、彼の作品です。1990年に初めて日本に来た時にうちにホームステイされた。その時に作られたのはカップで、(常滑の)朱泥(しゅでい)の土を彼がすごい気に入って、すごく喜んで作っていました。

長年、常滑焼を通じて世界をもてなしてきた2人は、訪日外国人客が過去最多となった今、常滑市に大きな可能性を感じているという。

ヒルズハウスセカンドの山中潤一さん:
常滑は日本人の目からしたら地方のちっぽけの町で、世界の人が来られて土を触って作り始めるとものすごく感動されるんですよね。すごい場所なんだというのを感じましたね。

この日、潤一さんは1月6日から始まった宿泊税について、海外からの宿泊客に丁寧に説明していた。

ヒルズハウスセカンドの山中潤一さん:
お客様は宿泊税は「はいそうですか」と全然何の抵抗もなくて。空港に泊まられた方も気軽に町に出てこられて、常滑の町を散策して頂けるんじゃないかなと思います。だからシャトルバスの試みは非常にいいかと思います。

始まったばかりの宿泊税。山中さんはその使い道について「よく考えてほしい」と話します。

ヒルズハウスセカンドの山中潤一さん:
観光として、街を成り立たせるには何が必要なのかを、しっかり議論して頂いて。猫ちゃん(観光名所のとこにゃん)を見る人たちが橋にたくさん集まっちゃって「車も通りづらくなっちゃっているよね」と。せっかくそういう名所を作ったのなら、見る設備をどういうふうにするかというところまで、きめ細やかなに整備すればいいんじゃないかな。シャトルバスはすごく見えやすいので、施策としてはそうなんですけれど、実際に人が来ていいなと思う町づくりをしないといけないと思います。せっかく(東海3県で)パイオニアで始めているのなら「あんなことやったんだ」とびっくりさせられるようなことを期待したいですね。

2025年1月31日放送

(東海テレビ)

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