初期は口内炎と似た症状

タレントの堀ちえみさん(52)がブログで、「私、堀ちえみは口腔癌(左舌扁平上皮癌)と診断されました。いわゆる舌癌です」と公表しました。

口腔がんとは、口の中およびその周辺組織に出来るがんのことです。その中でも舌がんの発生頻度がもっとも高く、口腔がんの約60%を占めています。

舌がんの典型的な症状は、舌の両側の縁の部分に出来る硬い“しこり”です。舌の表面中央や先端に出来ることはほとんどありません。
それが、歯にあたるなどして、出血や痛みを伴うこともあります。
ただ、初期は口内炎に似ているため、正確に見極めることが難しい場合もあります。
また、舌や歯肉の一部が白くなる白斑…「白板症」や、赤くなる紅斑…「紅板症」にも注意が必要です。「白板症」の5〜20%、「紅板症」の約50%が、将来 口腔がんになると言われています。

歯のトラブルも原因に

がんが進行すると、病変が潰瘍になり、持続性の痛みや出血、強い口臭といった症状が現れます。
さらには、咀嚼(かむ)や嚥下(のみこみ)、発音が障害されるほか、口が開けづらくなったりします。
また、早期の舌がんでも、首のリンパ節にがんが転移してしまい、急激に進行するものもあります。
これは、舌が血液とリンパの流れがよい部分のため、その流れに乗って、がん細胞が頸部へと運ばれやすいからです。
頸部のリンパ節に転移すると、リンパ節が腫れるといった症状も出ます。

舌がんは、喫煙・飲酒・口腔内の不衛生などが危険因子となります。
また、とがった歯や歯のかぶせ物、合わない入れ歯などによる慢性的な刺激も原因となることがあります。
舌がんは20代の若い方でも発症するという特徴を持っています。最近は女性も増加傾向にあります。

切除した舌を、別の部位で再建

 
 
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治療は、一般的には手術療法、放射線療法、抗がん剤による化学療法を、単独あるいは組み合わせて行います。
最近では、手術療法を第一選択として行う施設が多くなってきています。
堀さんはブログで、「舌の半分以上を切除」「切除した舌には自分の皮膚の一部を移植します」と記しています。
舌がんの場合、手術で舌や顎骨などを切除します。
進行がんでは手術による欠損部位が大きくなるため、咀嚼障害、嚥下障害や構音機能の低下などの後遺症を残すことがあります。
そうした場合は、患者さんの腕やお腹などの皮膚や脂肪・筋肉、人工材料などを用いて、欠損部の再建を行い、術後の機能の低下を出来るだけ抑えるようにします。

早期発見へセルフチェック

舌がんなどの口腔がんは、肉眼で観察でき、手指で触診できるのが大きな特徴です。
しかし実際は、口内炎だと思って放置してしまい、がんが進行してから受診するケースが少なくありません。
以下のポイントで、口腔がんのセルフチェックをしてみてください。

①口の中に硬い“しこり”がある
②口の中に出血しやすい場所がある
③3週間以上治らない口内炎や潰瘍がある
④抜糸のあとが治らない
⑤口の中や唇にしびれがある
⑥口の中が腫れて、入れ歯が合わなくなった
⑦口の中に白い部分または赤い部分がある
⑧口臭があると言われた
⑨原因不明の歯のぐらつきがある
⑩首のリンパ節の腫れが3週間以上続いている。


思い当たることや不安な点がある場合は、口腔外科などの専門病院の受診をお勧めします。

堀さんはブログに「私は負けません。力いっぱい闘って、必ず戻って来ます」と、力強く綴っています。
堀さんの、一日でも早い復帰を祈りたいと思います。

医師 小林 晶子(医学博士)

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小林晶子
小林晶子

今後ますます重要性を増す在宅医療を中心に、多くの患者さんの治療に当たっています。
また産業医として、企業で働く方々の健康管理も行っています。
これらの経験を、様々な疾患の解説に生かせればと考えています。
東京女子医科大学卒業。
東京女子医大病院等を経て、在宅医療専門クリニックに勤務。
医学博士。
日本神経学会認定神経内科専門医。
日本医師会認定産業医。