小中学校の「不登校」が過去最多となった。
年々増加している「不登校」だが、これまでは子どもたちの“心の問題”と考えられることが多かった。
しかし、実はその4割は、心ではなく、“体の病気”が原因だった。

11項目の「起立性調節障害」チェックリスト

小中学校の不登校の児童・生徒数が約24万5000人となり、過去最多を更新した(文科省の調査)。実数は、その倍近いという指摘もある。
これまで、一貫して増え続けてきた不登校の児童・生徒数。
最近はその原因に、「起立性調節障害」という病気があることが知られるようになってきた。

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子供がなかなか起きてこない、起床後もだるそうで学校に行かない…そうした場合、「起立性調節障害」の可能性がある。
実は、不登校の児童・生徒の約3~4割の原因が、「起立性調節障害」だと推定されているのだ。しかも、年々その比率は上昇傾向にある。

以下に11のチェック項目がある。
3つ以上が当てはまる、あるいは強い症状が2つあれば、「起立性調節障害」の可能性がある。(※他に疾患がない場合)

• 立ちくらみや、めまいを起こしやすい
• 朝なかなか起きられない(午前中は調子が悪い)
• 立ち上がったときに、気持ちが悪くなったり、気を失ったりする

• 少し動いただけで動悸・息切れがする
• 入浴時や、嫌なことを見聞きしたときに気持ちが悪くなる
• 食欲不振がある

• 倦怠感がある、もしくは疲れやすい
• 頭痛がある
• 顔色が青白い
• ときどき腹痛を訴えている
• 乗り物酔いしやすい

10代では、10人に1人が発症

「起立性調節障害」は、体を起こしたときに血圧が低下してしまい、そのために脳の血流が低下して、朝起きられなくなる疾患だ。
本来は、血圧を上げるために自律神経が働くが、思春期になると自律神経のバランスが不安定になることが、一つの原因といわれている。
患者数も10代に多く、10人に1人が発症するとも言われている。
中高生では各学年に約 12 万人 (合計で約70万人)が発症しているとされる。(日本小児科学会HPより)

重要なのは、あくまで身体的な疾患であり、心の問題ではないことだ。
朝に起きてこないと言っても、“サボり”や“やる気”の問題ではない。
そして、症状の重さによっては、中学生が高校受験に臨む上で大きな支障となり、全日制高校への進学が困難になる場合も少なくない。
患者数が多いことから、こうした事態は、どの家庭で起こってもおかしくない。

子どもを追い詰める…“サボり”と言う誤解や叱責が

症状は、頭痛、腹痛、倦怠感、立ちくらみ、朝に起きられない…など多様だ。
また、午前中は調子が悪いが、だんだん症状が軽くなり、夕方以降は少しずつ元気になることが多いという特徴がある。
これは、体が横になった状態から起きあがろうとする朝には症状が強く、午後から少しずつ回復するからだ。

しかし、体調が悪いと学校を休んだ子どもが、午後には元気になるため、「うそをついているのでは?」「怠けているのでは?」「サボっているのでは?」と誤解されやすい。
病気が原因なのに、“サボり”だと思われたり、叱られたりすると、子どもの自己肯定感は低下し、どんどん追い詰められてしまう。
「起立性調節障害」はあくまで身体的な疾患だが、精神的なストレスは病状を増悪させてしまう。
まずは、親や学校が「学校に行きたいけど、行けない辛さ」を理解することが重要だ。

適切な治療すれば症状は改善

適切に対応すれば、9割程度の子どもは16~17歳以降に改善する。
小中学生で「起立性調節障害」が疑われる場合は、できるだけ早い段階で診察を受けておくことが望ましいだろう。

治療では、水分の摂取量を多くしたり、血圧を安定させる薬を投与する。
「朝日」を浴びることも重要だが、起きられないため難しい場合には、朝日と同等の光を放つ「光目覚まし時計」等もある。
自律神経を働かせるためには、運動が必須なので、散歩などで体を動かしていくことも大切。

食事では、塩分を多めに取ることも重要だ。塩分を取ることで、体の水分を保持し、血圧が下がりにくくする。

こうした治療で、多くの場合は2~3週間から数ヶ月後には症状が改善、登校も可能になるだろう。
ただ、例えば大学に行って夜更かしを始めたことがきっかけで、再び状態が悪くなることもある。
症状が治まってからも、とくに睡眠リズムを崩さないように気をつけて頂きたい。

(小林晶子 医学博士・神経内科専門医)

小林晶子
小林晶子

今後ますます重要性を増す在宅医療を中心に、多くの患者さんの治療に当たっています。
また産業医として、企業で働く方々の健康管理も行っています。
これらの経験を、様々な疾患の解説に生かせればと考えています。
東京女子医科大学卒業。
東京女子医大病院等を経て、在宅医療専門クリニックに勤務。
医学博士。
日本神経学会認定神経内科専門医。
日本医師会認定産業医。