トランプ大統領が関税強化に動くなか、アメリカではインフレ再燃リスクが強く意識され、利下げ観測が後退して長期金利が上昇し、日本の国内金利も水準を切り上げている。

日銀の追加利上げ観測の強まりもあり、住宅ローン金利は一段と上昇傾向を見せる可能性が出ている。

トランプディールでインフレ再燃リスク

トランプ大統領が表明した鉄鋼やアルミへの25%関税は、アメリカの物価水準を押し上げるとの観測が強い。関税は輸入業者が支払うため、引き上げられた関税分は国内の販売価格に転嫁されて、物価上昇につながりやすい。

トランプ関税の影響は日本にも…
トランプ関税の影響は日本にも…
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トランプ氏は、自動車や半導体などで関税を引き上げる意向も示していて、物価高を誘引するおそれに関心が集まっている。

ミシガン大学による消費者調査では、短期的な物価見通しを示す1年先の予想インフレ率が4.3%と、1年3か月ぶりの高水準となった。
インフレ期待が高まる状況は、トランプ関税で今後物価が上昇する可能性を消費者が敏感に感じ取っていることを示している。

パウエルFRB議長 ”利下げ急ぐ必要ない”

アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は、物価上昇が落ち着いてきたとして、2024年9月にいったんは政策金利の引き下げ=利下げに舵を切ったが、トランプ政権の経済政策の影響を見極める必要があるとして、2025年1月には、利下げの一時休止を決めている。

アメリカでは先週、堅調な雇用統計の内容が報じられたばかりだ。

1月の統計は、非農業部門の就業者数が前月比14万3000人増と、17万人程度の増加としていた市場予想をやや下回る一方で、直近3カ月間の伸びは月平均で23万人を超えた。失業率は4.0%と、2024年5月以来の低い水準で、労働市場の足元の底堅さを示す結果となった。

FRBのパウエル議長が上院の公聴会で発言 11日
FRBのパウエル議長が上院の公聴会で発言 11日

雇用の勢いが続くなか、トランプ関税によるインフレ再燃リスクの高まりで、FRBは利下げを急がず様子見を続けざるを得ないとの見方が強まっている。次回3月の会合でも利下げ見送りが濃厚となり、利下げができるようになるのは早くて2025年後半になるとの観測も出ている。

FRBのパウエル議長は、11日、上院銀行委員会の公聴会で、利下げを急ぐ必要はないとの見解を示した。発言は「我々の足元の政策スタンスは、景気抑制の度合いが以前より顕著に弱まり、経済は引き続き力強さを維持している。従って、政策スタンスの調整を急ぐ必要はない」というもので、利下げを進める機会を辛抱強く待つ考えを改めて示唆した格好だ。

こうしたなか、アメリカ債券市場では、長期金利の高止まりが続き、指標となる10年物国債利回りは、11日、4.53%という水準で終えている。

ローン固定金利に上昇圧力も

アメリカの金利高とともに、日本国内の長期金利も上昇圧力が強まっている。10年債利回りは12日午前、一時1.330%と約13年10カ月ぶりの高い水準をつけた。

日銀が早い段階で追加利上げに踏み切るとの観測が強まっていたところに、アメリカの金利上昇につられるという要因が加わって、国内金利は押し上げに拍車がかかっている。

長期金利の上昇で懸念されるのが、住宅ローン固定金利への影響だ。固定金利は長期金利の水準が反映され、長期金利が上昇すれば引き上げにつながるケースが多い。

メガバンクなどでは2月の固定金利がすでに上がっている
メガバンクなどでは2月の固定金利がすでに上がっている

すでに、3メガバンクなど大手銀行5行は、2月に適用する固定金利について、10年型の基準金利を0.06~0.15%引き上げ、年3.70~4.30%としている。三井住友銀行は発足した2001年以来最高となる4.30%で、他の4行も10数年ぶりの高さだ。長期金利上昇の流れは、固定金利のさらなる引き上げを招く可能性がある。

住宅ローンでは、日銀が1月に追加利上げを決めたことで、変動金利が4月以降、複数の銀行で引き上げられる見通しだ。

固定金利も上昇ピッチを強めれば、家計でのローンの負担増がさらに進むことになる。

トランプ関税が債券市場にも影響を広げ、高金利が続く様相が強まってきた。日銀の早期の追加利上げの可能性も意識されるなか、住宅ローンの金利動向は新たな局面を迎えている。

【執筆:フジテレビ解説副委員長 智田裕一】

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員