親子では話しづらい、性に関する話題。インターネットの誤った情報をうのみにして、予期せぬ妊娠をしてしまう少女たちは多いという。仙台市にあるNPO法人は、中高生など若い世代に向けて性交渉や妊娠に関する正しい知識を伝えようと活動している。社会福祉士や助産師、弁護士などが参加し、予期せぬ妊娠をした女性の相談を聞き、必要な支援へとつなぐ。活動を始めたきっかけは「子供への虐待を防ぎたい」という思いからだという。

NPO法人「キミノトナリ」の出前授業
NPO法人「キミノトナリ」の出前授業
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親子で話しづらい「性の話題」

子どもの性教育に悩む親は多い。仙台市内で聞いてみると、「子供が異性に興味をもった時点で性教育をするのが一番いい」と話す父親や「中3の娘より男の子の友達が正しい知識を持っているか不安」と話す母親など、それぞれどう伝えるか、どのタイミングがいいのかなど悩みは深いようだ。

性に関する出前授業を聞く高校生
性に関する出前授業を聞く高校生

学習指導要領は小学校や中学校、高校の段階に応じて、性に関する正しい知識が得られるよう指導内容を示している。しかし、教科書的な知識に留まることが多く、NPO法人「キミノトナリ」はこうした学校の依頼を受けて、性教育の出前授業に取り組んでいる。

教科書では学べない対話の授業

仙台市にある仙台城南高校は4年前から毎年、1年生を対象にした出前授業を依頼している。保健体育でも性に関する内容を教えるが、担当する教師は「どうしても硬い説明になってしまう」と話す。

保健体育の教科書 性感染症など幅広く解説
保健体育の教科書 性感染症など幅広く解説

「今、妊娠したら、女子は赤ちゃんを産んで育てられる?男子はパートナーに産んでもらって一緒に育てていくことはできる?」
団体の出前授業は、聞いている人の立場から、起こりうることを想定しながら避妊の方法や生理、妊娠の仕組みを伝えていく。

出前授業はコンドームなど実物も見せながら説明
出前授業はコンドームなど実物も見せながら説明

中でも強調して伝えているのが「性的同意」の重要性だ。体が触れ合う前にお互い同意を得ること。生徒たちは「検索した情報はうそか本当か分からないのが怖い。今日の授業は学び甲斐があった」「出前授業をきっかけに周りの人とも性について話ができると思う」と話し、授業の意義を感じたようだった。

予期せぬ妊娠 虐待につながることも

「キミノトナリ」が発足したのは2020年6月。きっかけとなったのは、児童虐待を防ぐ団体で電話相談員をしていた代表理事の東田美香さんの「気づき」からだった。

キミノトナリ代表理事の東田美香さん
キミノトナリ代表理事の東田美香さん

子育てに悩む母親の話を聞いていると「妊娠しようと思って妊娠したわけでない」という話が出てくることが多かったという。予期せぬ妊娠を減らせば、虐待も減っていくのではないか?社会福祉士だった東田さんは賛同してくれる仲間と団体を立ち上げ、出前授業のほかにも、悩みを抱える女性のためにLINEやメールで相談を受け付け、月1回のペースで25歳以下の女性を対象にした相談会なども開いている。

25歳以下の女性を対象とした相談会
25歳以下の女性を対象とした相談会

「未受診で臨月 どこに相談したら…」

以下は許可を得て公開してもらった相談の一例だ。

「妊娠したかもしれなくて相談しました。まだ中3で14歳です」
「未受診妊婦で病院に行かなければいけないのですが、臨月に入る状態でどこに相談したらいいか分からず連絡しました」

予期せぬ妊娠に悩む女性の相談は増えている
予期せぬ妊娠に悩む女性の相談は増えている

相談は増加傾向にあり、2023年度は132人だった相談者は2024年度、1月上旬までに166人と、すでに前年度を上回ったという。半数が10代で、相談の4割が「妊娠して困っている」という内容だ。また、SNSやマッチングアプリで知り合った男性に妊娠させられたという相談も増えているという。東田さんによると、親と性の話ができないという子も多く、相談を受けたあと、スタッフが病院に同行するなど相談者の年齢や状況に応じた対応をしている。

専門性を持ったスタッフが寄り添って対応
専門性を持ったスタッフが寄り添って対応

子供たちに必要な“正しい知識”

児童虐待をなくすためにも予期せぬ妊娠を減らしたい。そのためには正しい知識や性教育が欠かせないと東田さんは考えている。授業で触れ合う子供たちの中には、性器を洗えば妊娠しないとか、安全日なら妊娠しないとか、インターネットやSNSで誤った情報を信じてしまっている子も多いという。東田さんたちは直接、正しい知識を伝えながら、男女ともに性的同意の大切さを考えてもらうようにしている。

東田さんは「性で幸せになる人を増やす」ことを目指す
東田さんは「性で幸せになる人を増やす」ことを目指す

「キミノトナリ」という団体名はその名の通り、悩む女性の隣に寄り添い続けるという意思が込められている。「性で不幸になる人を減らして、性で幸せになる人を増やすのが目的」団体の目標をそう話す東田さん。相談者と一緒に、その人にとって一番良い方法を考え、手伝っていく。そのためにも、悩んでいたら相談してほしいと呼びかけている。

仙台放送
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