「桃太郎」で見るアルバイトのお悩み

“ブラック企業”や“ブラックバイト”などの言葉も生まれ、長時間労働やパワハラ、セクハラなど、職場におけるトラブルはいまだなくならない。

そんなアルバイトの相談に乗るために、2018年から全国社会保険労務士会連合会が悩み相談サイトを公開している。

それがこちら。皆がよく知る日本昔話「桃太郎」をモチーフにした、アルバイトお悩み相談サイト「僕たちの悩み、きいてください…」だ。

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サイトでは、雇い主の桃太郎の下で、お供の犬・猿・雉の三匹がアルバイトとして働いているという設定。

お供にもそれぞれキャラクターがあり、例えば犬のペロは、アルバイト2年目にして桃太郎率いる鬼ヶ島遠征部隊のサブリーダー、猿の遠藤さんはバイトリーダー、雉のチュン助はバイト4カ月目など、細かく設定が練られているのも面白い。

この三匹が「僕たちの悩み、きいてください…」と訴えている内容で、「なんでできねーんだよ!」「遅刻したらキビ団子あげないよ?」「鬼にやられてケガしても労災おりないよ?」など
パワハラを始め、シフトの強要やサービス残業、過度なノルマ設定など、ブラックユーモアをまじえた全部で9種類。

例えば「なんでできねーんだよ!」と書かれた桃をクリックすると、実際の事例と共に、その事例に対する解説が紹介されている。

桃太郎に叱責されているペロのイラストの下には、実際の相談の声とパワハラの定義に対する解説がある。

<実際の相談の声
・お客さんの見えるところで激しく叱責された(カフェ)
・勤務後、反省会と称して無理やり飲みに連れて行かれた(居酒屋)
・教育や指導もないまま現場に出され、「やる気ないならやめろ」と言われた(ラーメン店)

<解説>
「パワハラの定義は意外と広い」
過度な叱責だけでなく、仲間外れにする・過度な仕事を無理強いする・逆に仕事を与えない。といった行為もパワハラの対象となります。すこしでも「おかしいな」と思ったら、周りに相談するなど早めの対処を。我慢すればいいと思い、一人で抱えてしまうのは禁物です!

その悩む三匹を救うのは、桃太郎の登場人物の1人である“赤鬼”。「…悩みがあるなら専門家に電話しな」と、三匹に携帯電話を差し出す優しい存在となっているのだ。

クリックすると、社会保険労務士(社労士)が常駐する相談ダイヤル「職場のトラブル相談ダイヤル」の電話番号が記載されており、電話を掛けるとハラスメントや解雇などの労働問題や年金などの社会保険に関する相談を受け付けてくれるという。

イラストで分かりやすく、日本人であれば誰もが知る桃太郎をモチーフにしていることから、親近感を覚えるこの悩み相談サイトだが、桃太郎がお供の3匹につらくあたるというのは昔話の設定とは違う。

なぜこういう設定にしたのか?そしてコロナ禍で相談は増えているのか? 
全国社会保険労務士会連合会の企画・広報課の担当者に話を聞いた。
 

社労士の広報として“悪役桃太郎”が誕生

ーー「僕たちの悩み、きいてください」は、どういった経緯で公開された?

当初、大学生にターゲットを絞り、社労士の認知度を高め、その先に社労士試験を受験したいと思ってもらえるよう、大学食堂の学食トレイに張り付けられる広報素材として作成し、それに併せてWebサイトを公開いたしました。


ーーなぜ「桃太郎」がモチーフ?

大学への広報でしたので、学生の皆様が親しみを感じる題材として、桃太郎を選択し、正義のヒーロー桃太郎をあえて悪役にし、ブラックユーモアをまじえ、目を引く設定を考えました。

ーー実際どれくらいの相談が寄せられている?

サイトに掲載しております相談先「職場のトラブル相談ダイヤル」には、毎年約2000件の相談が寄せられております。


ーーどういった相談内容が多いの?

「職場のトラブル相談ダイヤル」には、ハラスメントや労務管理、退職・解雇の相談が多く寄せられています。

個人情報が含まれるため詳しくはお話しできませんが、職場での嫌がらせや賃金の未払いといったものや、アルバイト先で仕事のために自費で購入した備品の持ち主は自分か、会社か?といったご相談も寄せられています。

ーー今年は新型コロナウイルスが広がっている。影響は出ている?

4月頃には昨年同時期と比べ2~3倍のご相談をいただきました。


新型コロナウイルス感染拡大による企業活動への影響を考慮し、同連合会では3月に通常の「職場のトラブル相談ダイヤル」に併設して「新型コロナウィルス感染症のための労務管理・労働相談ダイヤル」を開設。

この相談ダイヤルでは、特例措置のあった雇用調整助成金や、新型コロナウイルスの影響による勤務先の休業補償等についての相談などに対応したという。

アルバイトだけではなく一般労働者にも当てはまる

ーー相談数や相談内容に対してはどう感じている?

現在は新型コロナウイルス感染症の拡大という未曽有の状況のなか、職場においても不安や混乱があるものと思います。不安を抱える国民に寄り添い、その解決に応えることこそ「社労士の使命」として、全国の社労士が活躍しております。

ーーサイトを公開したことでどういった影響を期待している?

当初は主に学生の皆様のアルバイト先のトラブル解決のお手伝いを想定しておりましたが、パワハラなどが社会問題となる中、当サイトの内容は学生の皆様だけでなく、一般の労働者・経営者の皆様にも当てはまる事柄と感じており、それらの解決の一助として、人を大切にする企業づくり、ひいては人を大切にする社会の実現に貢献できればと考えています。


ちなみに社労士の認知度を高めるため、2019年度の広報活動では、今回とは趣向が違う「パパの選択」というアニメーション動画を、全国社会保険労務士会連合会の公式YouTubeで公開している。

三匹のその後の行方は?

なおこの物語には、悩みを相談した後と思われる後日談が四コマ漫画で掲載されている。

お茶を飲む桃太郎の下にあの三匹から手紙が届く。その手紙には赤鬼と鬼ヶ島で働く三匹の様子が…

この結末についても、担当者に聞いてみた。


ーー赤鬼の職場はどういった所?

現在のところ設定は謎です。赤鬼事務所という社労士事務所に採用され、人を大切にする優しい赤鬼社労士のもと、ペロ(犬)、遠藤さん(サル)、チュン助(キジ)がアルバイトに精を出しているものと当連合会では思いたいところです。

しかし……
よく見ると、アタマには角を乗せられ、トラ柄のパンツを強制的には履かされているのでしょうか…。赤鬼の本性、悪戯に3匹はまだ気づいてないのかも知れません。


担当者は「続編の制作があるかもしれません。乞うご期待というところです」と、不穏な匂いもする三匹の現在と共に今後に関してを示唆してくれた。

自分のそばに、赤鬼のように手を差し伸べてくれる人がいるとは限らない。仕事で悩みを抱えていたり、不安になっている人は一度サイトを覗いてみてほしい。
 

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プライムオンライン編集部
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