どこの駅の構内でも見かけるマナー啓発のポスター。そのような中、都営地下鉄各駅に貼られたポスターがユニークだと話題になっている。

それがこちらだ。

東京都交通局HPより引用
東京都交通局HPより引用
この記事の画像(8枚)

「優しい気持ちで。」「席は必要な方におゆずりください。」

と、大きな文字で書かれたポスターで、電車に乗り込んできたのは、松葉杖をつき、腕と足をケガしている鬼。すると、優先席に座っていた桃太郎らが立ち上がり、「どうぞ」と席を譲るというものだ。

ケガをした鬼に優先席を譲るのはマナー啓発として理解できるが、よくよく考えてみると、気になるのはそもそもケガをさせたのは桃太郎ではないかということ。

このポスターについてTwitterでは「こんだけボコボコにしておいて『どうぞ』とか言ってるのジワジワきますね」「やはり桃太郎はサイコパス」「散々ボコボコにしておいてからの掌返し」などツッコミの声があがっている。

桃太郎を題材にした令和元年度のマナー啓発ポスターは4話まで進んでおり、現在は第4話のポスターが都営地下鉄各駅に貼られている。

こうなると3話までの展開も気になってくるが、なぜこんなにツッコミ満載のポスターを作ったのか?都営地下鉄を運営している東京都交通局に聞いてみた。

「親しみやすいデザインのポスターを制作するよう工夫」

ーーなぜこのようなポスターを作ろうと思った?

東京都交通局では、従前よりマナー啓発ポスターを制作してきています。平成21年度からは、ポスターのモチーフとなる素材を設定し、平成29年度の「世界マナー美術館」、平成28年度の「駅ナカマナー図鑑」、平成27年度の「こうなるかも?シリーズ」、平成26年度の「マナーアップ応援団」など、年5回ずつ掲出しています。

平成29年度「世界マナー美術館」(東京都交通局HPより引用)
平成29年度「世界マナー美術館」(東京都交通局HPより引用)

ーーアイデアはどこから着想した?

マナー啓発の効果を高めるには、お客様の印象に残るデザインを工夫する必要がありますが、啓発が行き過ぎると押し付けがましくなる可能性もあります。このため、コミカルなイラストやキャッチフレーズを用いるなど、親しみやすいデザインのポスターを制作するよう工夫を凝らしました。


ーー桃太郎という題材を選んだのはなぜ?

今年度は、ポスターの題材の候補としては、ラグビーやオリンピック競技になぞらえたデザインや、間違い探しやクイズを取り入れたデザインなどもありました。検討の結果、マナー啓発を広く一般に呼び掛け、老若男女の幅広い層に関心を持っていただく趣旨から、多くの人に親しみのある昔話の「桃太郎」を題材として選定しました。

また、桃太郎を単なるデザインとして登場させるのではなく、年間5回のポスターにどのように物語性を持たせるか、すなわち、桃太郎が村を出発して鬼ヶ島まで行き、また村へ帰ってくる物語の進行と、マナー啓発のテーマとを、どのようにリンクさせるかがこのポスターの成否のカギであると考えました。

検討の結果、「都営で鬼ヶ島」というサブタイトルを設定し、「桃太郎が都営地下鉄で鬼ヶ島へ行く」という架空設定の連続ものとし、「次回作の桃太郎はどうなるのか?」「桃太郎はいつ鬼ヶ島へ到着するのか?」など、お客様にとって「次回が楽しみなマナー啓発ポスター」としました。

ポスターの1話〜3話をご紹介

ここで、ポスターの1話~3話も紹介。1話は「鬼ヶ島へ出発」というタイトルだ。

猿・キジ・犬が、今にもドアが閉まりそうな鬼ヶ島行きの電車に駆け込み乗車。それを桃太郎が「走らないで」と止めている場面が描かれている。「急ぐと危ないよ!」「かけこみ乗車をやめましょう」がテーマで、令和元年の6~7月まで掲載されていた。

果たして、都営地下鉄で鬼ヶ島に行けるのだろうか。さっそく、続きが知りたくなる設定で始まる。

第1話(東京都交通局HPより引用)
第1話(東京都交通局HPより引用)


2話は「鬼ヶ島への道中」というタイトル。犬と“手”をつないだ桃太郎が、手すりにつかまってエスカレーターに乗っている。ポスターには「ゆっくり行こう」「エスカレーターは手すりにつかまりましょう」という文言が書かれており、令和元年8~9月まで掲載されていた。

第2話(東京都交通局HPより引用)
第2話(東京都交通局HPより引用)


3話は「ここが鬼ヶ島?」というタイトル。駅のホームで猿が歩きスマホをして、周りの鬼に迷惑をかけている様子が描かれている。そんな猿に対して桃太郎が「周りをみて!」と注意をし、犬も何か言いたそうな雰囲気だ。歩きスマホの禁止を啓発する内容で、令和元年11~12月で掲載されていた。3話から鬼が登場したが、マナー違反をしているのは猿の方だ。

第3話(東京都交通局HPより引用)
第3話(東京都交通局HPより引用)

逆転の発想で話題性を狙った

ーー鬼をマナー違反役にしなかったのはなぜ?

「逆転の発想」を取り入れることで、話題性を狙いました。具体的にはマナー違反を行うのは悪者とされることの多い鬼ではなく、敢えて桃太郎のお供の犬や猿としたこと(第1話、第3話)、桃太郎がケガした鬼に席を譲る(第4話)など、遊び心のあるデザインを採用しました。


ーー鬼にケガさせたのはやっぱり桃太郎?

鬼にケガさせたのが桃太郎か否かですが、両当事者が口を閉ざしているので事実は分かりません。

この第4話のデザインはツイッター上でも話題となり、ポスターへの関心・注目が集まっていることが見て取れ、制作側の狙いが当たる結果となり大変ありがたく思っています。

なお、SNS上で「この赤鬼は前回線路に転落してケガしたのでは?」との書き込みがありますが、これまで都営地下鉄において、鬼の軌道転落事故が起きたことはありません。


ーーツッコミが入ることを狙っていた?

お見込みのとおりです。


ーーストーリー上では鬼ヶ島に行く前の話?


お客様に自由に想像していただければ幸いです。


ーー桃太郎はなぜ優先席に座っていた?

桃太郎に確認しないと分かりませんが、長旅で疲れていたのかもしれません。

画像はイメージ
画像はイメージ

最終話の5話は現在制作中

ーー第5話の内容は?言える範囲で

最終話となる第5話は現在、作成中ですが「めでたし、めでたし」となる予定です。


ーー最後に利用者の方々へ交通マナーについて一言

交通利用マナーに関するお客様の気付きのお手伝いを今後もさせていただきたいと思います。車内環境や駅環境をみなさまにとって快適なものとするため、お客様の御協力を今後もお願いいたします。


現在の4話は3月まで掲出され、5話が4月からのお目見えとなる。「話題になることを狙って制作した」と話す通り、うまくSNSを通じて多くの人にマナー啓発が届いたのではないのだろうか。最終話はどんな結末を迎えるのか、今からその展開を楽しみにしたい。

「鉄道トレンディ」特集をすべて見る!
「鉄道トレンディ」特集をすべて見る!
プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。