能登の復興に向けて前を向く人たちに話を聞くシリーズ「能登人を訪ねて」石川テレビの稲垣真一アナウンサーが今回訪ねたのは、石川県珠洲市の炭焼き職人だ。

製炭工場は静かなまま

稲垣アナ:珠洲市東山中町に来ています。こちらにあります木、クヌギの木なんですが、何に使われるかというと炭になるんですね。しかし、地震で炭焼き工場が被災し、今は稼働していません。再起をかける男性に話を聞きます

県内で唯一、専業で炭焼きを行っている株式会社ノトハハソ。1971年に大野製炭工場として創業した。本来であれば、この時期は煙突からもくもくと木を燃やした煙が立ちのぼるのだが、地震による影響で今は稼働しておらず、静かなままだ。

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稲垣アナ:失礼します、よろしくお願いいたします
大野さん:よろしくお願いします

大野長一郎さん。先代の父から炭焼工場を受け継いだ2代目だ。

大野長一郎さん
大野長一郎さん

稲垣アナ:こちらは?
大野さん:父が建てた工場の最初の場所になります

台所や風呂などに“火”を使っていた昭和。珠洲市東山中町周辺は里山の木で木炭を生産していた。父の長治さんは1971年に炭焼工場を設立。良質な木炭を作っていた。

茶席で使われる“菊炭”

稲垣アナ:ああ、木の形がそのままに。そして切り口が美しいですね

大野さんが作るのは、お茶の席で湯を沸かす際に使われる「お茶炭」。その見た目から「菊炭」とも呼ばれ、全国に根強いファンがいる。

大野さん:火付きもよく、火持ちもよく、パチパチせずに炎も出ずに、ほのかな香りのするものっていうのは、ものすごく厳しいですね。炭という切り口でいった時に茶道の中での炭の存在意義というか、立ち位置も少しお品書きに書き添えていただけるぐらいになったらいいなって。どうぞ、ちょっと足元危ないですけど
稲垣アナ:うわー

2024年元日の地震で、2つの窯のうち1つは天井が崩れ落ちた。もう1つも、いつ崩れ落ちてもおかしくない状況に。木炭の製造はストップしたままだ。

稲垣アナ:この窯が完全に崩れたのは…
大野さん:崩落したのは元日の地震が初めてになります

「またこの土で窯を作れたら」

2022年からたびたび起きた地震。その都度壊れた窯を修復してきたが、その様子を見て、自分の心も崩れてしまいそうだったと、大野さんは当時を振り返る。

大野さん:僕自身、これがあったからといって、ここから離れて違うことをやるという選択肢はもうとうになくしているというか

自分には炭焼きしかない。窯が崩れても直すしかない。そう思うようになった。

大野さん:この土は、昔の炭窯跡から採取してきた土でして、特徴としては火に当たっても縮まない土になっているもので、非常に貴重な土なんですよ。昔の炭焼きさんも周辺の木々を炭にしてしまって次の山に移る時には、この土を持って移動したっていうことらしくて、山に放置された土をうちの父がいっぱい集めてきて、それで作ってた窯なんです。

昔の窯づくり
昔の窯づくり

大野さん:この土って、どれだけの人数が触れてきたかわからない土なんです。いろんな人たちの手に触れられてきた土なので、捨てられないというか。いつかもうちょっと余裕が出てきた時に、またこの土で窯を作れたらなとは思っていますけどね

“宝の国”が目指す復興の姿

そんな大野さんが一番大切にしているものを見せてくれた。

稲垣アナ:大野さんここ一帯ってのは、どういったところになるんですか?
大野さん:僕が一番最初に植林を始めた場所になります。全部クヌギという種類

大野さんは、2004年から菊炭作りに必要なクヌギの植林を行っている。能登にはあまり自生していないため、苦労することもあったという。

大野さん:ここはたまたま場所が良くて順調に育ったんですけど、他のところは気候が合わなくて全然成長が遅くてすごく苦労しました
稲垣アナ:でもこうやって一歩一歩苦労しながら積み上げてきたものですけども、やはり今回、地震も含めていろいろと被害があったと思うんですね
大野さん:木の被害としては約150株から300株ぐらいは、豪雨の土砂崩れで落ちちゃったのと、流れた土砂の下敷きになったのと

稲垣アナ:育つのに時間がかかるわけじゃないですか
大野さん:そうですね。2、3年育てたやつがなくなるわけですから。その時間はなかなか取り戻すことはできないんですけど、これからも揺れ続ける能登で生きていくのであれば、やっぱりその辺をカバーしていけるような事業所のあり方みたいなところも、ちょっと展望の中に含めて描いていて、例えば炭釜から出る余熱を利用して発電をする仕組みを導入したりとか、今そういう目標を実現するための資金調達としてクラウドファンディングにも挑戦させていただいているという状況です

大野さん:漢字で珠洲の『珠』は数珠の珠でもあって、それはいわゆる『宝玉』を示す言葉だし、珠洲の『洲』はさんずいに州じゃないですか。州は『国』じゃないですか。『三方海に囲まれた宝の国』っていうのが、僕はそれがこの珠洲の地名の一説としてあるので、僕はそれがいいなと思ってるんですけど、三方海に囲まれた宝がいっぱいある国にしていくっていうのが、僕は珠洲の創造的復興として目指したいという、僕個人の思いです
稲垣アナ:きっと同じような志を持って、頑張ってらっしゃる珠洲の方が多くいらっしゃると思うんで、そういった宝の国になっていくことを僕も信じてるし、これからも続けていっていただきたいなと思います。ありがとうございました

(石川テレビ)

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