「日本製鉄」による「USスチール」の買収計画は、アメリカのバイデン大統領らを訴訟するという前代未聞の展開を迎えました。
この記事の画像(8枚)徹底抗戦の構えを見せる日本製鉄ですが、アメリカはいったいなぜ、買収計画を阻止するという強硬姿勢を貫いているのでしょうか。
アジアは「異質」アメリカで広がる“不信感”
野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト・木内 登英氏は、日本製鉄による異例の提訴が、今後、日本企業に与える影響をこう話します。
野村総合研究所 木内 登英氏:
全体的に萎縮してしまう可能性があると思います。まず、アメリカは日本の同盟国で味方だと思っていたところを、“必ずしも味方ではない”というメッセージになったと。
また、安全保障上のリスクを理由に今後も日本からの投資、あるいは買収を阻止されるということであれば、今までのアメリカの戦略を見直さなくてはいけないとなるので、今のままだとアメリカとのビジネス全体が萎縮してしまうと。両国にとって決して良いことではないのかなと思います。
――大統領選後もバイデン大統領が強硬姿勢を貫いた理由は?
完全に確認されたわけではありませんが、大統領選の時にペンシルベニア州というのは非常に重要で、ここに鉄鋼労連もありUSスチールの本社もあったと。
ここで、全米鉄鋼労働組合(USW)のトップがバイデン大統領に対して、選挙を支持することを交換条件に、今回の買収に反対するという密約があったのではないかと言われています。
そうであれば、選挙で結果的に民主党は負けてしまったんですけども、当初の約束通り大統領選挙が終わっても反対は変わらないと。
――なぜ全米鉄鋼労働組合は買収に反対するのでしょうか?アメリカの鉄鋼業界への影響を懸念して?
直接的には、雇用への悪影響ということだと思います。日本企業に限らないのですが、買収された後の企業はリストラが行われるのが一般的なので、その結果、USスチールの従業員がかなり雇用が削減されるという不安があって反対したいと。
日本製鉄側は「雇用は削減しない」と主張してきたのですが、そこはなかなか海外の企業でもあり、信頼されなかったということで、労働組合は反対、バイデン大統領にも働きかけたということだと思います。
やはりアメリカ企業ではなく、海外の企業、しかも欧米とかではない企業なので、約束していても何をするか分からないという一種の不信感のようなものがあった可能性はあるのかなと。
――日本とアメリカは強い同盟関係が続いているにもかかわらず、なぜここまで抵抗感が?
まさにその点が重要で、日本企業にとってアメリカは仲間、同盟国だと思っていたら、実は必ずしも仲間ではないと分かったということで、今回のニュースというのは日本全体に非常に大きなショックをもたらしたと。
80年代までは日米間の貿易摩擦が非常に盛んで、アメリカにとっては「日本企業、経済に抜かれてしまう」という懸念があったわけです。そのときに、日本はアジアの国なので、“異質”だという日本異質論がかなり広がっていたんです。
ヨーロッパやオセアニア、オーストラリアなどとは違う国と競争していくことへの不安もあって、そこがジャパンバッシングにつながっていったと。
その後、日本経済が停滞してアメリカにとって経済の脅威ではなくなった、さらに同盟も強化されてきたと思っていたら、今回、やはり本当の同盟、仲間ではなかったと。
そこに根強い欧州オセアニアではない、西側ではないアジアの異質なものという意識はおそらく底流にあって、それもあって国民の間ではそうした企業に、USスチールという、かつてはアメリカを代表する企業が買われてしまうことに対する不満というか、そこをすくい取ってバイデン大統領が反対したという側面もある。
背景に「国民のプライド」求められる日本政府の対応
「めざまし8」のコメンテーター陣は、今回の騒動をどのように見ているのでしょうか。
米・コロラド州出身のパトリック・ハーラン氏は…。
パトリック・ハーラン氏:
すごくばかばかしい判断だと思いますよ、正直。安全保障上の理由というのは苦しい言い訳ですし、去年は自衛隊と米軍の連携をさらに強めるべく統合司令部を日本に設置することを決定しているし、先日は空対空ミサイルの売却も強化しているし、日本での軍事面でも心配ないと。
だから、日本が安全保障上のリスク全くない国ですと判断しているにもかかわらず、今回の阻止が発表されたことにびっくりしています。
パトリック・ハーラン氏:
その背景に何があるのかというと、「国民のプライド」かなと思います。USスチールというのは(鉄鋼王)アンドリュー・カーネギーが設立したアメリカを代表する、名前にも「US」が入っている会社なんです。
僕は(日本製鉄が)アジアだからというのは関係ないと思っていて、フランススチールだろうが反対する、ジャーマンスチールだろうが、アメリカ国民が「いやいや我々を代表するあの企業が海外のものになってしまってはいけない」と多分国民が思っているんですよ。
(アメリカの)象徴的な企業、それが売却されたら傷がつく。傷がつくことはバイデン政権中にあってはいけないとバイデン大統領が判断しているし、トランプ氏も就任してからひっくり返すことは、確率的に1割もないと思います。
しかし、長期的に見ればこれはアメリカの経済だけではなく、安全保障上でも間違った判断なんです。
フジテレビ解説委員 風間晋氏:
でもね、“アメリカファースト”ってこういうものでしょう、合理性じゃないのよ。
それこそ「プライド」であったりとか、「不安感」とかそういう感情、そのときの感情の方が優先される。だから、アメリカファーストを全面に押し出しているトランプ氏が再度大統領になってからは余計やばいですよね。
元衆院議員 金子恵美氏:
このことで日米関係に亀裂や摩擦というものが起きてはいけない、そのために一民間企業の問題ではなく、日本政府としてアメリカ政府に対して、法の支配を無視した対応・判断に対する説明を求めるべきですし、日米両政府が揃った上での協議の場をまず持つべきだと思うのですが。
その際に、日本としては対等でないような見られ方をしてはいけないと思うので、強気に、撤回を求める、それを勝ち取るくらいの姿勢を見せてほしいんですけども、それが石破政権にできるのか、というところが見物だなと思います。
(「めざまし8」1月8日放送より)