知的障がいがある人のアート作品は、その自由な表現力が特徴だが、そのアートを企業や病院にレンタルするサービスが注目を集めている。広島で作品を通じて障がいがある人の生き方に新たな価値を生み出すビジネスを取材した。
障がいのある人のアートをレンタルするビジネス
広島市で障がいのある人のアートをレンタルする「KONKON」。

代表の佐々木恵理子さんは、福祉事業所で描かれたアート作品を企業や病院などに貸し出し、そのレンタル料を作家の「工賃」として届ける仕組みを作り上げた。

福祉事業所では、様々な障がいがある人が働いている。事業所独自のブランド商品を作ったり、企業から委託された仕事をしたりと作業内容は様々だが、利用者の描く絵やデザインのアート作品が、注目を集めるケースが多くなってきた。

しかし、ほとんどの場合、事業所は日々の業務が忙し過ぎて、障がいのある人の作品を発信、ビジネス化することが難しいのが現状だ。佐々木さんは、その現状を打破しようと、作品のレンタルを始めた。
企業から「50点貸してほしい」というオファーが来たこともあったというが、このビジネスを始めて2年、徐々に需要が広がり始め、関心を集めるようになった。

佐々木さんは「私が思っていたよりもみなさん関心があるんだな」と、意外に注目されていることを感じているという。
レプリカでレンタルの幅を広げる
当初は原画をレンタルしていたが、遠方からのオーダーや作品の傷つきリスクへの対応として、新たにレプリカでのレンタルを開始した。

レプリカ化にはコストがかかるが、原画を守り、作家の意思を尊重するために必要な選択だと佐々木さんはいう。

「知的障がいのある方に『作品を売っていいか』と聞いても、本当に納得しているか確かめるのが難しいので、原画を守るためにレプリカが最適です」
今回は約200点の中からバランスを考慮して20点を選び、レプリカにすることにした。
佐々木さんは広島の福祉事業所を訪れ、事業の内容を詳しく説明し、アートの提供を求める。

広島市内の福祉事業所の理事長は「みんな発信したいと思っているが、日々の作業やプログラムの消化に追われて、発信までうまくつながっていかない。そこを佐々木さんの活動が力になると思う」と佐々木さんの発信力に期待する。
病院がアートと出会う場所に
この事業を始めたきっかけは、佐々木さんが福祉事業所に勤めていた頃の経験があるという。

事業所のある利用者が亡くなったが、この人は病院が嫌いで、気がついたときは末期の卵巣がんだったことがあった。
知的障がいのある人は病院へ行った際に、目的がよくわからない状態で、痛い思いをしたり、いろいろなことをされたという思いが積み重なって、病院が嫌いになることが多いという。

佐々木さんは「アートを通じて病院を親しみやすい場所にしたい」という思いが芽生え、「自分や仲間の絵を見に行くためなら、病院に足を運んでくれるかもしれない」とアートレンタルを始めた動機を語る。
障がいのある人に支払われる福祉事業所の「工賃」は、現状として自立した生活には不十分であり、アートを通じて障がいのある人たちが社会と関りを持ち、経済的にも助けになることが、このレンタル事業に期待されている。

現在、このアートレンタルは佐々木さんの期待どおり、医療機関や病院で多く利用されている。レプリカのサイズに応じた料金は、最小3300円、中サイズ6600円、大サイズ13200円。アートを飾ることで空間が明るくなり、来院者に癒しを与えている。
(テレビ新広島)