昨年10月1日の石破政権発足からちょうど3カ月が経過し、2025年の幕が開けた。本年は普通選挙法の成立から100年、終戦や女性参政権の確立から80年という日本の民主主義にとって一つの節目の年であり、夏の参院選という政治決戦を見据え、日本政治の大きな分水嶺になる可能性がある年だ。

そして現時点での政治日程を見通すと、与野党双方にとって3つの山がそびえている。2月の「予算案衆院通過の攻防」、6月とみられる会期末の「内閣不信任案の攻防」、そして7月に予定される「参議院選挙」の3つだ。この3つの山を軸に2025年の政治を展望する。
「103万円」引き上げの現在地 「壁解消」から「枠拡大」へ
国民民主党が昨年10月の衆院選で訴え、躍進の原動力となった「年収103万円の壁」の見直しは、国民民主党が求める178万円への引き上げに自民・公明両党が応じず、与党税制改正大綱には123万円と書き込まれた。一方で、国民民主党の反発を踏まえ、3党の幹事長が交わした「178万円を目指して来年から引き上げる」との文言に基づき、引き続き協議することになった。

ただ、123万円からの上積みをめぐる今後の協議は、「年収の壁」の議論とはやや性質が違うものとなる。
103万円の壁見直しの政策目的は、学生の働き控え解消と、幅広い労働者を対象にした事実上の減税の大きく2つに分けられる。そのうちの1つである、学生の働き控えの原因=「壁」になっていた特定扶養控除は今回150万円に引き上げられことが固まり、「年収の壁」としての「103万円」は事実上解消されるに至った。
そのため現在の議論は、残るもう1つの政策目的=幅広い層への実質的な減税の規模をめぐるものに絞られていると言える。つまりこの攻防は「壁」ではなく、減税(控除)の「枠」拡大をめぐる攻防と言った方が本質的だ。
もちろん、その議論の上では、自公が訴えている財源の必要性の視点、国民民主党が主張する最低生活保障としての控除枠拡大の議論、減税による景気へのプラス効果と税収増効果など、より幅広い観点で見る必要がある。
103万円と予算案をめぐる攻防は2月が山場に
その103万円の控除拡大をめぐる協議の山場となるのが、2月末だ。2025年度予算を年度内に自然成立させるためには、実質的に2月28日までに衆議院を通過させる必要がある。しかし与党が過半数割れしている衆議院での可決には、野党、中でも国民民主党か日本維新の会の賛成をとりつける必要がある。
そのためには、この103万円の引き上げでの合意は必須だ。3党の税制協議は国民民主党が退席する形でいったん中断したが、自民党は123万円から更に引き上げる余地は見せていた。一方、国民民主党側も178万円に近づける意向は強調しつつ、満額にはこだわらない姿勢を示していた。
では、どこまでの引き上げで妥結するのだろうか。自民党の税制調査会からは「税は理屈だ」との指摘が出ており、物価上昇幅に合わせた123万円より上積みする際には、別の理屈が必要だ。そこで、生活必需品の上昇率に合わせた128万円、食料品の物価上昇率に合わせた140万円は、議論の対象になるだろう。
一方で、幹事長レベルで理屈ではなく政治的に決着させるなら、永田町の伝統的手法である「足して2で割る」方法もありうる。103万円と178万円の中間である140万円程度、あるいは123万円と178万円の中間である150万円程度というのは、落としどころを探る目安になりそうだ。150万円という数字は、特定扶養控除が150万円まで引き上げられたことや、玉木氏が年末に「150万円以上は絶対」と発言したことも補強材料となりそうだ。
国民民主党にとっては夏の参院選を控え、国民の期待を背に安易な妥協はできないものの、一定の成果は欲しいのも本音だろう。これに対し、自民党は予算を成立させるための妥協は避けられない状況だ。ただし、国民民主党はあてにせずに、教育無償化や社会保険料の低減を訴える日本維新の会の賛成を得て予算を成立させる戦略も検討されている。これが103万円問題の最終決着にどうつながるかも注目だ。
暫定予算も? 野党側の予算成立への責任は
一方、野党側の視点で見ると予算案への対応は簡単そうで難しい。予算案は政府与党の方針そのものであり野党の存在意義的には反対するのが通例だが、同時に予算は国民生活の前提となるもので、成立が遅れ、国民生活への影響が出れば政府与党の責任と共に野党の責任も問われることになる。

国民民主党の玉木衆院議員は、103万円の壁見直しで十分な金額に上げられない場合は、予算案に反対する姿勢で、予算が3月末までに成立せず、政府が暫定予算を組まざるをえなくなる可能性にも言及している。立憲民主党も含め、予算案の審議を通じてどこまで与党に対し強硬に対抗するか、30年ぶりの野党からの予算委員長となった安住委員長の委員会さばきと合わせ、2月末は大きな山場となりそうだ。
6月の国会会期末は「内閣不信任案」をめぐり緊迫した局面に
そして国会の最大の山場となるのが、会期末の6月だ。通常国会は1月24日に召集され、延長がなければ6月22日に閉会する。通常国会の会期末には、野党が内閣不信任決議案を提出することが多く、参院選を控えている場合には、特にその傾向が強い。
そしてこの国会での内閣不信任案をめぐる攻防は、これまでとは状況が大きく異なる。その理由はもちろん、与党が過半数割れしているため野党がまとまって賛成すれば内閣不信任案が可決される状況にあるということだ。
仮に内閣不信任案が可決された場合、総理大臣は10日内に内閣総辞職するか衆議院を解散するかを選ばなくてはならない。内閣総辞職を選択する場合には、石破内閣の退陣、臨時の自民党総裁選などを経た上での、総理大臣指名選挙の実施が見込まれることになる。自民党内で、石破首相を降ろし新総裁のもとで参院選を戦いたいと願う勢力にとっては望ましいシナリオと言えそうだ。
一方で、石破首相が衆議院を解散した場合、7月に予定される参院選とのダブル選挙になる可能性が高い。もしダブル選挙となれば1986年の中曽根内閣以来、39年ぶりの大決戦となる。野党にとっては政権交代を賭けての大チャンスとなるし、自民党にとっても国民の支持さえあれば、衆議院で自公過半数を回復するチャンスにもなる。
石破首相は12月27日の講演後の質疑で、不信任案への対応について「衆議院において不信任案が可決された場合には、解散しない限り総辞職しなきゃいかん、これが日本国憲法の規定だ。不信任案が通った、しかし衆議院の意思はそうだが内閣としてはそうは考えないという時に、最後に決めるのは主権者である国民の皆さん方であるのは当たり前のことだ」と述べ、衆議院解散は選択肢だとの考えを示した。さらに28日には衆参ダブル選挙について「これはありますよね。同時にやってはいけないというそんな決まりはない」と述べ、可能性に含みを持たせた。
ただ、内閣不信任案を提出してもが可決されるかは見通せない。野党の連携はもろく、「ガラスの連携」と言える状態だからだ。国民民主党や日本維新の会が自公との連携で政策実現を目指す方向に舵を切っていた場合、国政の混乱回避のため不信任案に反対する可能性も十分あるだろう。その場合には自民党政権の延命に手を貸したとの批判も受ける恐れも踏まえ、参院選を見据えてのギリギリの判断になりそうだ。
また、立憲民主党も、石破首相の支持率が上昇していない場合、石破首相を退陣に追い込んだ結果、自民党が擁立するフレッシュな新総裁と戦うよりも、石破首相のままの自民党と参院選を戦った方が有利だという考え方も党内にあるため、不信任案の提出に慎重になる可能性も否定できない。各党の様々な思惑が絡み合う内閣不信任案をめぐり、6月は緊張感に包まれた会期末を迎えそうだ。
7月の参院選、その前の都議選の結果は
そして、臨時国会が延長されない場合、参議院選挙は7月20日(日)に行われる見通しとなっている。ここで自公が過半数を維持すれば、石破政権・自公政権への信任とみなされ、政権の安定化につながるだろう。自公が主導権を握る形での日本維新の会や国民民主党との連携促進、あるいは連立入りも視野に入れた動きが活発化する可能性がある。
逆に、野党が躍進し、参院でも自公が過半数割れした場合、自公は衆参両院で主導権を失うことになる。その場合、展開の選択肢は大きく2つに分かれるだろう。

立憲民主党が躍進していた場合は、自公政権が下野し、立憲民主党などを中心とした政権に移行する可能性も出てくる。逆に立憲民主党の勢いがそれほどではなかった場合は、自公が日本維新の会や国民民主党の意見を丸呑みする形での連立政権を模索する可能性がある。その場合は石破首相の続投、あるいは石破首相が退陣して新たな自民党総裁が首相になるパターンもあれば、維新や国民民主の党首を総理にかつぐウルトラCもないとは言えない。例えば自公が玉木氏などを首相に担ぐような構想も、かつて自民党が社会党と連立し村山政権を樹立したのに比べればハードルは低いのかもしれない。
また、この参院選の前哨戦になるのが、6月下旬か7月上旬に行われる見通しの東京都議選だ。都議選は、その後に控える国政選挙の結果と連動することが多い。2009年の都議選では、当時の民主党が自民党を上回って都議会第一党となり、翌月の衆院選でも民主党は大勝利して政権交代を実現した。その4年後の都議選は、自民党が政権復帰して半年後に行われて自民党が勝利し、翌月の参院選でも圧勝。衆参ねじれを解消し安倍内閣の長期政権化の礎となった。

一方、波乱の展開となったのは2017年の都議選で、小池都知事率いる都民ファーストの会が大躍進して自民党は惨敗。小池氏はその勢いで衆院の解散総選挙に際し、希望の党を結党し、国政での政権交代も狙ったが、希望の党の政策のあいまいさと、その反動としての排除発言をきっかけに立憲民主党が結党。野党分裂に救われ、安倍首相率いる自民党が政権を維持する結果となった。
また、今年の都議選は国政の各政党と都民ファーストの会に加え、石丸伸二氏の新党も参戦する見通しで、どのような展開になるのか見通せない状況だ。
乱世の選挙で最後にモノを言うのは政策と改革
このように今年は、2月と6月の山場に起きる事象が、7月の参院選をどう左右し、どのような結果を導くのかが最大の注目となる、激動の展開が予想される。
一方、政界が乱れれば乱れるほど、最後にモノを言うのは「政策」と「改革」、特に「政策」だ。先に述べた2017年の希望の党騒動の際の衆院選では、自民党は「政策」という原点を意識した選挙戦を展開し、希望の党などの政策を批判して、国民の一定の支持を確保した。2009年の民主党政権誕生の際は、政権交代という改革が看板だったものの、それを補強したのはマニフェストに盛り込まれた政策だった。それらの政策は実現が不十分だったものが多く、後に大きな失望に変わったが、明確な政策なくして政権交代なしということは確かだ。
昨年の衆院選での国民民主党の躍進も、裏金問題で揺れる自民党と、それを厳しく批判する立憲民主党という構図が前面に出る中、自分たちは政策最優先という、ある意味おいしいポジションを取れたことも大きかった。
国民は常に、よりよい暮らしを求め、未来に希望と安心が持てる政策を待ち望んでいる。少数与党という苦しい状況の中で自民党がこだわるべき政策とは何なのか、立憲民主党が、政治改革とは別に掲げる政策の柱は何になるのか、国民民主党や維新などは103万円の問題や、教育無償化の先にどんな政策を掲げるのか。公明党や共産党などは何に活路を見いだすのか、これらが最終的に参院選の勝敗を決することになりそうだ。2025年、その政策論争の行方にこだわって、政界の動きを丁寧に伝えていきたい。
(フジテレビ政治部デスク 高田圭太)