2024年は全国的に新幹線をめぐるトラブルが相次いだ。特に東北新幹線は設備故障などが相次ぎ、施設の老朽化なども指摘された。一方で、日々酷使されるインフラを点検し、安全に使用できるようにしているのは熟練した職員による「人の手」だ。専門家はコロナ禍などで、技術の継承がうまくいっていないことが背景にあるとみている。それは、今年再稼働した原発にも通じることだ。

新幹線の復旧作業にあたる作業員
新幹線の復旧作業にあたる作業員
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東北新幹線で続いたトラブル

1982年6月、盛岡駅-大宮駅間で開業した東北新幹線。1985年に上野駅、1991年に東京駅へ延伸され、仙台駅から東京駅までわずか1時間半ほどに短縮された。2023年の利用客数は1日平均で2万人あまり。東北にとってなくてはならない重要なインフラだ。
2024年、仙台駅では改札前に立ち尽くす乗客の姿を何度も見ることになった。

東北新幹線の主なトラブル
1月23日 架線故障
3月6日 郡山駅でオーバーラン
3月29日 送電トラブル
4月2日 夜間作業中の保守車両から油漏れ
9月19日 連結分離
11月8日 パンタグラフ故障

連結が外れたこまち号
連結が外れたこまち号

中でも前代未聞だったのは、9月19日に宮城県内で発生した走行中のはやぶさ・こまち号の連結が外れるというトラブルだ。けが人こそいなかったが、あわやという事故は全国を驚かせた。原因は連結を外すために使うスイッチ内部に入っていた2センチほどの金属片だった。

トラブルは全国で…なぜ?

東海道新幹線でも保守車両同士が衝突するなど、2024年は鉄道トラブルが相次いだ。個別にみればそれぞれのトラブルは異なるものだが、この1年に相次いで発生した背景はあるのだろうか。

仙台駅で運転再開を待つ人たち
仙台駅で運転再開を待つ人たち

鉄道の安全対策に詳しい工学院大学の高木亮教授は、コロナ禍で乗客が大幅に減った影響で、技術継承に問題があった可能性を指摘する。高木教授によると、日本の鉄道は実際の仕事を通じて指導するOJT(オンザジョブトレーニング)に依存する部分が大きく、現場での伝承がうまくいかないといろいろな所に影響が出る仕組みになっているという。高木教授はコロナ禍に伴う現場の体制変更や、減便の影響で「経験を持つ人たちの知識・技能がうまく継承されなかったと聞いた」と話す。

工学院大学 高木亮教授
工学院大学 高木亮教授

一方で、JR東日本は「個々の事象ごとに要因があり、指摘された内容が背後要因とは考えていない」と回答している。それぞれの要因につながる箇所の点検方法をマニュアルに明記するなど、すでに再発防止策を講じているという。

原発再稼働にも技術継承の問題

インフラをめぐる問題は、今年再稼働した原発も無関係ではない。

女川原発2号機の原子炉稼働
女川原発2号機の原子炉稼働

宮城県女川町(おながわちょう)にある東北電力の女川原子力発電所。10月29日、東日本大震災の発生以来、稼働を停止していた2号機が再稼働した。重大事故を起こした東京電力の福島第一原発と同じ「沸騰水型(BWR)」というタイプの原子炉で、同じ型の再稼働は震災発生後初めてのことだ。

女川原子力発電所 リアス海岸の牡鹿半島にある
女川原子力発電所 リアス海岸の牡鹿半島にある

約30年間、女川原発で原子炉機器の点検管理にあたってきた東北電力元社員の後村昌和さん(77)は、2号機再稼働によりエネルギーの安定供給と脱炭素社会の実現を両立できると期待を寄せる一方、「経験者不足」への懸念を口にする。後村さんが現役の頃は先輩の指導を受けながら継承してきた技術が一旦途絶えてしまっていることが「不安」だという。

後村昌和さん 技術継承が不安だという
後村昌和さん 技術継承が不安だという

東北電力は女川原発で働く技術者約500人のうち4割ほどが原発の運転は未経験としている。関係は不明だが、再稼働に向けた工程では人為的なミスが発生。社長も会見で謝罪することとなった。

技術継承へ メーカーの取り組み

福島第一原発事故以来、13年間の空白があったBWRの運用。技術継承に危機感を持ったメーカーは、シミュレーション設備を社内に作り、若手社員に対する運用研修を行っている。実際に女川原発の再稼働に携わった東芝エネルギーシステムズの長谷川学フェローは「電力会社の運転をサポートしながら勉強できればよかったが、そういうことができなかった」とシミュレーターを設置した理由を明かす。

東芝エネルギーシステムズの研修
東芝エネルギーシステムズの研修

研修では地震や津波が発生した際の原子炉の状況を再現し、注水作業などの模擬体験を行うこともできるという。「二度と福島第一原発のような事故を起こしてはならない」と長谷川フェローは強調する。研修を受けた若手社員は「技術だけでなく思いも引き継ぎ、安心と安全を届けられる技術者になりたい」と目標を口にした。

長谷川学フェロー 背後はシミュレーション画面
長谷川学フェロー 背後はシミュレーション画面

普段は見えない優秀なインフラ

技術の蓄積によって世界にも類を見ない充実度を誇る、日本のインフラ。最新の技術に基づくのはもちろんだが、細かな部分まで目を配ってきた「人の手」によって支えられていることは忘れがちだ。当たり前のように時間通り移動し、スイッチ一つで温かな明かりを灯すことができる。2024年はインフラの大切さと技術継承の重要性を痛感させられた一年だった。

仙台放送
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