全国で閉店や廃業が相次ぎ、書店の数が減少している。
ネット書店の台頭で「町の書店」が苦境に陥る中、書店と地域の未来について考えるイベントが島根・松江市で開かれ、島根・鳥取両県の本好きや本に関わる人たちが「これからの書店」の姿をめぐり、意見を交わした。

経済産業省が「書店」をテーマに座談会

12月17日、松江市で、経済産業省中国経済産業局が「座談会」を開いた。国の主催と聞くと物々しい印象だが、テーマは「書店と地域の未来」。

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本が好き、本と関わりが深いという、島根・鳥取両県の6人が、本や書店について、日ごろ思うところを語り合い、約40人の聴衆が耳を傾けた。

パネリストのひとり、島根県立大の学生、和田夢果さんは、「本で読んで得た知見は、自分で読むからこそ新たなところで力を発揮できる」と話し、本を読むことは学生の成長にとって欠かせないと話した。

また、プロバスケットボール「島根スサノオマジック」のチアチーム「アクア☆マジック」のメンバー、MINAMIさんは、「“1%の興味”だけど、その分野の本を手に取ってみて、『何、これおもしろい!』と、自分の興味や趣味を見出してくれたことがあるので、そのきっかけになる場所(書店)がなくなるのは、寂しい未来」だと、書店の将来について心配した。

20年で半減 支援へ経産省がプロジェクト発足

国内の書店の数は、2023年、約1万1000店。20年でほぼ半減した。

また、新刊や雑誌を扱う本屋がない市町村は、島根県で26.3%、鳥取県で36.8%と3割前後が空白地域となっている。

本の流通だけでなく、地域の文化を育む役割も担う書店の衰退に歯止めをかけようと、国も動いている。経済産業省は、2024年、書店の支援に向けた「プロジェクトチーム」を発足させた。

この座談会も、中国地方でも書店が苦境に立っている現状に関心を向けてもらおうと、中国経済産業局が開いたものだ。

「ネットか町の書店か」買う側の意識が変われば…

座談会では、書店の経営についても、意見が出された。

島根電工(松江市)の野津廣一社長は、書店の経営が成り立つためには、売り上げの確保が必要だとしたうえで、ネット書店が台頭する中、「買う側がとにかく安いものがいいということでは、いい方向に行かないのではないか」と指摘、消費者が「どこで買うか」、意識を変えることが書店の支援につながるのではないかと訴えた。

未来の子どもに本屋を残すために…

経営の問題については、書店側からも声が上がった。
「書店に入ってびっくりしたのが利益率。ほとんど利益がなくて、経営の難しさも感じている」と「リアル書店」の実情を打ち明けたのは、書店員・小村優衣さんだ。

夫は出雲市の創業100年を超える書店の5代目で、小村さん自身も「書店員」として店に立つ。

小村さん夫妻はともに元保育士。その経験を生かして、子どもの好みや成長にあわせて絵本を選ぶ「選書」サービスでファンを増やすなど、「足を運ぶ価値がある」店づくりに取り組んでいる。

小村さんは「子どもの未来に本屋を残したいという思いがあるので、店で本を買ってもらうという流れをつくっていけたら」と胸の内を明かした。

「町の書店」復活で活気ある地域に

一方、失われた「町の書店」の復活を目指して、行政が動いている地域もある。

「本屋とパン屋と花屋と美容室のないところからは若い女性がいなくなる、というお話をされた。それはうち(の町)にはないな」と自身の町を引き合いに出し、活気ある地域づくりに書店は欠かせないと力説したのは、鳥取・江府町の白石祐治町長だ。

県内の市町村で人口が最も少ない江府町では、10年以上「書店ゼロ」の状態が続いている。そこで、町は、NPO法人「ブックストア・ソリューション・ジャパン」の後押しを受けながら、「町の書店」を復活するプロジェクトを進めている。2023年には、町の目抜き通りに残る、かつての書店の建物と土地を約290万円で購入した。

その狙いについて、白石町長は、「(ネット書店と違って)その空間に本があるからこそ、偶然、見つけられる。そんな場所が、この1~2年のうちにでもできると、住民の皆さんが元気になるのではないか」と説明した。

本との偶然の出合いも提供する「リアル書店」に、地域住民をつなぐコミュニケーションの場としての役割も期待している。

国も模索「書店」の支援策

今後の書店の支援について、経済産業省中国経済産業局の實國慎一局長は、「支援を必要とする書店をどうやって発掘していくか、その仕掛けが課題」だと認識を示した。

中国経済産業局は、今後、後継者の確保など支援策を検討するとともに、書店の魅力や重要性、これからのあるべき姿について発信していくことにしている。

(TSKさんいん中央テレビ)

TSKさんいん中央テレビ
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